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磨いた成果を試すとき  作者: うみたたん
エリオの章

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38/40

中庭のハミングバード

語りはステファンに変わります。数ヶ月前のことです。

中庭にいるステファンとエリオ。小さなハミングバードがやってきました。

ニコのやつ……最近調子に乗ってないか? 

クラスの副代表ってだけなのに……。要はジャンミンの腰巾着じゃないか。


俺は急にあの頃のことを思い出した。

エリオがクロノス学園に来て間もなくて……。

シドフはなんだか鬱陶しくて、マリオンやアマンドは、自分の好きなことに没頭していた。


 そしてルシアンはあの頃ーー


◇ ◇ ◇


1.2時間目が終わった。数学、歴史……ストレスしかない授業。どちらも好きじゃない。


だけど黒板を写すのは誰よりも早いし、教室から飛び出すのも早い。 その前に机の中にそっと手を伸ばす……。


階段を小走りに駆け下りた。大事な中休み。

「ステファンてかっこいもんな」


そんなことをたまに言われる。俺はクールでかっこいいらしい。見た目も所作も…。ただせっかちで、そのくせ、ものぐさだったりするんだけど。


赤毛の髪は適当に伸ばしたまま。風呂から出ても、特に乾かさない。ドライヤーを使う順番に名前を入れたり、それで揉めたりするのもバカらしいからだ。

タオル拭けば、髪なんかすぐ乾いてしまう。 この学園は何をするにも、こだわりが強い奴が多いんだ。


男子寮での生活は意外と面倒だ。規則もたくさんある。時間を守らなければならないことが多い。ラウンジを使える時間、朝食は何時からとか……入浴は三十分間。いろいろ細かい決まりがある。


そのせいで皆、イライラしている。そんな彼らを見るのは--


楽しくて仕方がない。


思春期の男の子たちがどうでもいいことで騒いで、笑ったり泣いたりするのはどうしようもなく馬鹿みたいで愛おしい。


そんなことを考えていたら、どんと背後からエリオに体当たりされた。かなり慌てて中庭に来たみたいだ。

呼吸が荒い。


「ステファン、早いよ! 黒板はちゃんと書き写したの?」


俺に見つからないように、裏から回って驚かせようとしたのか。かわいいやつ。


「先生さ、黒板にびっしり書いて。これ全部写さないと、中休みにはなれませんとか言って……意地悪だよ」


中庭の奥にあるクヌギの木に、俺は寄りかかっていた。中庭が見渡せるから俺はここが気に入っている。

渡り廊下側から抜ければ早いし。


「ちゃんと書いたよ。汚い字だけど。来週テストだろ?」


「本当に書いたの? ステファンの字はミミズがのたくったみたいな字だからな」


転入生のエリオは、腕を絡めてきて頭を俺の肩に乗せる。 くせっ毛がなんだか犬みたいだ。


いつもより大胆だな。今日はべったりとくっついてくる。


「でもエリオより、前のテストは良かっただろ?」


「あぁ……もう。それを言うなよー」


エリオはパタンと俺に抱きついてきた。シドフがいると気を使って、絶対くっついたりしないけど。


今日はいつもより甘えてくる。弟みたいでかわいいな。俺はエリオの腰に腕を回して、さらに強く引き寄せる。 


エリオの首元から、優しい石鹸の香りがした。


「なあ、ステファン。今日は中庭に誰も来ないと思う。みんな黒板を書き写すのに必死だもん。シドフも半泣きだったし」


なるほど……シドフが来ないからこんなに密着するのか。 エリオは俺の胸に頭をくっつけ、軽く揺らしてくる。石鹸の香りがくすぐったい。


誰も来ないなら、キス……しておこうかな。バディでも、恋人同士でもないけど 。


あぁ……それよりもシドフのやつ、一番厄介だ。来ないならちょうどいいや。

エリオの形の良い丸い頭をそっとなでる。エリオは顔を上げた。


「ねぇ……ステファン、あれ見て! 蜜を吸う鳥だ」


とても小さな青緑色の、エメラルドの輝きが目に止まった。


「あ、ハミングバードだよ。本当に小さいな」  


花から花へ……空中で静止しながら、一瞬で移動するハミングバード。エリオは息をのむ。


「なんて綺麗なんだ。ハミングバード、初めて見たよ。あ……もう一羽きた!」


少し離れた花壇に、二羽の小さなハミングバード。


エリオはとても興奮している。俺もここには一年以上いるけど、見たのは二回目だった。 仲良さそうに並んで蜜を吸っている。


「ねえ。そういえば、玄関ホールの青い花のステンドグラスにハミングバードもいたよね」


「あぁ、アイリスのか。シッ、ほら。エリオ聞いて……こっちに来て。蜂みたいな音がする。羽を動かす音だ」


俺たちはもう少し近づいた。かすかな唸りを残しながら、せわしなく舞うように飛び回るハミングバード。


「本当………すごいな」


「ハミングバードって、花の蜜を吸って、蜂みたいだからハチドリ言われてるんだ。空中静止もできるし。見てると、まるで時が止まっている様な錯覚にならないか?」


「……え? ステファン、どういうこと?」


きょとんとするエリオ。鳥に夢中でほとんど聞いてない。


「つまり空中静止……いや、とにかくすごいってことさ」


「あの二羽のハミングバード、仲良しだなぁ。なんだかステファンと僕みたいだね」


「ハミングバードが?」


「うん。ほら後をくっついてる。あれが僕だよ。サイズも少し小さいし」


俺の後ろをくっついてるってことか。エリオはまた俺の腕をギュッとする。


ふと、俺はエリオに意地悪をしたくなった。

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