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磨いた成果を試すとき  作者: うみたたん
エリオの章

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図書室と幽霊

エリオの語りです。

図書館にジャンミンと来たのだけど、なぜか着物の女の子がいました。ここは男子校ですが……。なぜ?

着物の女の子が、さらに一歩近づいてきて微笑みかける。


「うわぁぁー!」 叫ぶ僕。


「うるさいよ。男のくせに。鼓膜が破れそう」


鋭い声で僕に注意をする少女。


「あの……あの、君は幽霊ですか?」  


「そうよ」


もう一度、叫び声を上げた。


「しつこいよ! 落ち着いてよ」


いや、もう無理。逃げなければ……。 


「私を忘れたの? お兄ちゃん」


お、お、お兄ちゃん? 


「僕、妹はいないよ」


「いたのよ。妹が」


日本人の? なんで?


僕は入口の方へ逃げようとした。立ち去ろうとすると少女が呟く。


「図書館の扉は開かない。私が閉めたもん」


「ひぁぁ、そ、そんな……助けて、殺さないで……お願いだ。ジャンミンはどこ?」


着物姿の女の子はじっと僕を見ていた。彼女の着物を見た。優雅だけどかわいらしさもある。


赤い着物には白い鳥(後に鶴だと知る)が、たくさん舞っていて見事だ。白い帯も鶴と調和している。


「お兄ちゃん、実は……あなたに会いたがっている人がいるの。それを伝えに来たのよ」


「はぅっ……」


幽霊に話しかけられるなんて、普通じゃない。恐怖で気を失いそうだ。


「ぼ、僕どうしたらいいの? どうして……」


「そうよね。じゃあ私に質問していいわ。できるだけ答えるから」


女の子は黙って僕を見ていた。頭の中が真っ白になる。


(……ええと。怖くて……どうしよう)


「あの……日本の子供はいつも着物を着てるの?」


目の前の本棚から本が勝手に浮かび上がり、バサバサと床に落ちた。

ひえぇ! 僕は恐ろしくてうずくまった。


「ふざけてる場合? 自分に会いたがっているのは誰? なぜ私が部屋に出てきて、エリオを驚かせてるの? 知りたいこと他にあるでしょ!」


着物の女の子は目をつり上げて怒った。少しかわいいと思ったけど、やっぱり恐ろしい。


「ごめんなさい! ……怖いんだ。君の存在はなんとなく気づいていた。今度会ったら殺されるのかもって……お願い、殺さないで」


僕は跪いて土下座のようなポーズを取った。まさか着物がかわいくて、気になったとは言えない。


「その、殺さないでってやめて。私は殺すつもりはない。あなたにはやってもらわなければいけないことがある。だけど何回も殺さないでって言われると殺したくなるってものよ!」


「ごめん! もう言わない。あの……名前を教えてくれますか? なんて呼べばいいのか」


「私はまりか。13歳。まりかと呼び捨てでいい」


「まりかちゃん……13歳?」


「まりか、呼び捨てでいいの!」


「はっ、はい!」


怖い……まりかはふくれて腕組みをする。着物で腕組みしている姿は、お淑やかではない感じだ。


「この見た目は昔の私みたいね。七五三かしら。だから見た目は7歳くらいかな。今まで私はぼんやりして、存在が霧のように曖昧だったの。でもエリオ、あなたが私を作り上げたのよ」


「はあ……霧のよう……」


この幽霊、人違いをしているってことはないかな?そうであってほしい。


僕に呆れている女の子幽霊……まりか。

僕たちは図書室の椅子に座ることにした。


「エリオ、あなたのお父さんは日本に出稼ぎに来ていて、私のお母さんと知り合ったの。それで私たちは家族になったの。エリオ、あなたはたくさん私と遊んでくれたわ。年も近かったし」


「僕、まりかの記憶がないのだけど……」


「たぶん、私の記憶は消されているの。都合の悪いことを少しずつ消したり、すり替えたりしてるのよ。ここの大人たちは」


「そんな……どうして?」


「それは……偉い人に聞かなきゃわからない。そのままだと都合が悪いってこと」


僕がおろおろしていて、なかなか話が進まなかった。まりかの霊はそれほど怖く感じなくなったのはよかった。一応、妹だしな……慣れとはすごい。


「エリオ、私が日本人で着物なのはどうでもいいのよ。たまたまだと思ってくれたらいい。それよりね、ここは普通じゃない。危険なの」


「それは……なんとなくわかってたよ」


「へぇ……本当に? ふうん?」


まりかは首を傾けた。長い髪がさらさらと揺れた。幽霊に信用されない僕って一体……。


「う、うん。上手く言えないけど。ここは変わっている。とりあえず転入した夜の……あの影はまりかなんだね」


「そうよ。あのときは影だけだった。この学園に入った途端、霊になったのよ。あの赤いリュックに残っていた私の存在……残穢(ざんえ)が形になったみたい」


「ざんえ?」


「そうよ。怨念や残り物みたいな物。エリオ、あの小さなリュックは私の物よ」


「リュック? あ、そうだ忘れてた……どこにいったのだろう? あれはまりかの……思い出した。あれはまりかの形見だ。だから背負ってきたんだ」


「あのリュックは別の場所にある。それでね、ここに来たとき、長い廊下でエリオを見つけて嬉しくて。それでそばに行きたくなってね、捕まえたくなったの。でも私も体がうまく動かなくて、勢い余って首を絞めちゃったのね」


「そ、そうだったの?」


「幽霊だって、初心者もいるのよ」


「なるほど……」


(死ぬかと思ったんだけど……)


「エリオ、本気でここから出ることを考えてよ。また人が殺されるかもしれないの」


「え? それは……どう言う意味? 殺された子がいるってこと?」


「そうよ。そして次はエリオ、あなたかも」


 はぁ?! 僕が殺される?


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