君たちのファイル
ここで、クロノス学園の真相がわかります。
でもこの先もまだまだ謎は深まります。
鍵のかかった引き出しから、ファイルをそっと取り出し、リストをレイモンドに見せた。
アマンド
事業に失敗した父親を、衝動的に崖から落として殺害……
ジャンミン
母親をナイフで殺害。成績が悪いと虐待を受けていた……
エリオ
放火。妹、焼死 精神科に通っていた母親は今も重体……
ステファン
兄から虐待を受け、兄を溺死させる……
マリオン
長い間、酷いいじめにあっており、主犯の同級生を屋上から転落させる。
ルシアン--
「わかった、わかった」
レイモンドはファイルを静かに閉じた。
「ちょっと、レイモンド校長……お腹いっぱいな顔をしないくれるか? 俺は毎日一緒にいるんだから」
「そうだな。ニコ、君も気をつけたまえ」
「はい。気をつけてるけど。何が起こるかわからないね、今日のことも鑑みれば。ここにいる子らは一応、正当防衛、緊急避難が認められた子たちだ。被害者たちのほうが、かなり悪どいことを常習的にしていた」
「ニコ、それは本当にその通りだな」
「ティーチャー・パンジーの授業中……成績の話で、ジャンミンの怯え方は見ていて辛かった」
「なるほどな。あと……マリオンは長くいてもらう。ステンドグラスの制作が上手くて、作品が高く売れている」
「あのさ、レイモンド……今、お金の話はやめましょうよ」
「あぁ、すまん。そうだな……庭園で亡くなったシドフは不慮の事故ではなく、他殺の可能性があるのは本当か?」
「はい。たぶん他殺だ。まだ誰かはわからないけど、犯人はいるんだ。この学園の中に」
「ニコ君、言わなくてもわかっているだろうが、早急に見つけて欲しい。だけど、本当に気をつけるんだ。君は成長が止まっている。小さいし、狙われるぞ」
「はい、わかりました。レイモンド医院長……いや、レイモンド校長」
俺たちは疲れた顔をして、笑った。
「レイモンド……明日の夜にでも、落ち着いたら一緒に酒でも飲むか? 俺は十二歳のまま、体は止まっているけど、年齢はとっくに成人を迎えているんだから」
「ああ……そうだな。久しぶりにな」
「なんなら校長、あなたとあまり歳は変わらない」
俺は深く頭を下げ、廊下に出た。無機質な廊下を、生徒の寮に向かって歩き出す。後ろから追いかけてくる影……。
俺自身、自分の本当の仕事も忘れてしまいそうになる。そして本来の業務には、戻りたくないとまで思ってしまう。
『もう何回も十四歳を繰り返しているんだぞ!』
あれは本当にアマンドに向けて言ったのだろうか? それとも俺自身のことなのか?
怪物のいる湖を何度も覗き見ると、最初は恐ろしく気持ちの悪い怪物もだんだん可愛く見えてくるらしい。親近感がわき、愛しくなってしまう。
その怪物に同情し、ときに威厳すら感じる。
その怪物の気持ちがわかるのは自分だけで、本当の怪物は優しいのだと錯覚してしまう。
ある日、その湖を見に行くと、湖に映った自分の姿が怪物とそっくりになっていた。そして湖の中で、怪物と戯れている。
そちら側に行ったほうが楽しいのだと知ってしまう。そして、その湖に身を投げてしまうのだ。
*****
クロノス学園は以前は、違う名前で呼ばれていた。
誰も立ち入らない、立ち入ってはいけない場所。山深く、隠された場所にある施設。
クロノス学園サイキアトリク・ホスピタル
なんと……切ないですよね。




