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磨いた成果を試すとき  作者: うみたたん
エリオの章
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レイモンドの正体

三章に入りました。

職員用昇降口の下駄箱を通り過ぎた。


カチっと音がし、その0.5秒後に自動で一斉に廊下のライトがつく。人を感知するのだ。 この真っ白な長い廊下は何年たっても好きじゃない。  


転入生のエリオはここでパニックになったらしい。 次々現れる影追いかけられた、影が自分と違う動きをしたと……。だからこの廊下を子供に通らせたくなかったんだよな。


長い廊下の正面には窓があり、その窓の向こうは暗闇。 だが昼間見ればなんてことはない。窓の向こうは美しい庭園なのだから。俺は廊下の途中でピタリと止まった。  


目の前のローズウッドの柱時計に目を向ける。柱時計の小窓に制服姿の幼い少年が映っている。 成長しない幼い自分の姿。なぜかはわからない。そういう体質みたいだ。 窓ガラスを見ながら短い髪を耳にかけた。


夜の八時。柱時計の隣の校長室。扉を三回ノックした。 勢いよく扉を開ける。


「ニコ君! まだどうぞと言ってない」


「どうでもいいじゃないか」


校長は机の上で両手を組んで座っていた。 俺は口答えをしたが、きちんと姿勢を正して立った。 制服のブレザーはいまだに大きくて、なんだか間抜けな気がした。


「君は生徒の監視役なのに、一日に二回も事件を起こすなんて。どういうことですか?」


紺色のスーツを着た若い校長。髪は綺麗に七三分けにしてピシッと固めている。普段は前髪を中央で自然に分けているけれど。


「はっ、申し訳ございません! レイモンドさん。あっ……レイモンド校長先生。アマンドは助けたつもりです。記憶がかなり戻っていて、クレセント岬の夢をずっと見ていたようです。しばらく入院させましょう」


俺はわざとらしく敬語で報告をした。


「ニコ君、普段通りに話していいから。アマンドはあのことまで思い出しちゃった?


「いいえ。その前に注射を打って眠らせまして……あー、敬語はやめだ。眠らせた。さすがに催眠療法は十五、十六歳までが限界だぞ! 彼はもう……一番年上で……もうすぐ十七歳だ」


思わず言葉に詰まってしまった。俺は常に冷静だと思った。でもそうではない。さすがにだましているのが辛くなった。 


「もう何回も十四歳を繰り返しているんだぞ!」


俺はレイモンド校長の机を強く叩いて、彼を睨みつけた。


あぁ、次のボーナスが減るかもしれないな。


「…………僕、校長なんだけど」


「可哀想でしょ。無理がある……体も成長しているし。思春期の子は催眠にかかりやすい。だけど成長したアマンドはかかりにくいのかもしれない。彼は卒業だよ」


「いい子なのに、惜しいなぁ。違う施設にかい?」


「そう。心療内科のある施設に。アマンドは穏やかな子だ。もともと親父が悪いのだし」


レイモンドは大きなため息ついた。


「アマンド……両親を崖から突き落としたなんて、思い出したら発狂するだろう」


「受け入れられないでしょうね。でも彼なら乗り越えられる気もする。それに岬にいた詐欺師の女は捕まったそうだ」


「ふぅ……そっちより、ティーチャー・パンジーもルシアンもマリオンも大惨事だよ、どーする?」 


他人事のように聞くレイモンド。

彼の肩書きはたくさんあった。事務員のレイモンド、クロノス学園の校長、そして--


そして俺は彼の部下なのだ。普段は副代表のニコとして、生徒のふりをしているけれど。


「ルシアンは薬を半年間捨てていたよ。棚からごっそり出てきた。それで常にあんな感じで。ラウンジの飴もチョコも食べないですし」


「気づいたのか……あの飴の中に安定剤や睡眠導入剤が入ってること。顔に傷が残らなければいいんだがな……ああ、ルシアン」


レイモンドはため息とともに頭を抱えたが、ふっと頭を上げた。


「ティーチャー・パンジーは先ほど出血多量で亡くなった。誠に残念だ。すぐ家族に電話しないと!」 

少し声が弾んでいるように聞こえるのは気のせいか……。


「レイモンド、ティーチャー・パンジーは身内がいない。天涯孤独だ。調べたら、連絡先も空白だった」


「そうなの?!」  


レイモンド校長はあからさまに喜び、裏声のような声を出した。彼のこういったわかりやすく物質的なところは嫌いじゃない。


「どうします?」


「ニコ、君に任せる。大げさにするな」


「……わかりました」


「マリオンは閉鎖病棟のほうにいるのか?」


「はい。マリオン至ってはノーマークです。芸術センスのある、重宝する子としか思ってなかった。まさか武器を持っているなんて」


「ニコ、君がいて阻止できなかったのか?」


「シャツの袖にペーパーナイフを隠し持っているなんて、思わないだろ……」


「急にパンジー先生を襲ったのか?」


「はい。本当に急で……あぁ、なにか喋りだして?その後、急にだ。俺はルシアンの怪我で、隣のクラスはいなかったから、3年の先生を呼びに行った。戻ってきたときは、マリオンが倒れているティーチャー・パンジーを刺していた」


「普段から暴れたりする子か?」


「いいえ、逆ですよ。大人しいです」


「ニコ、授業で制作したペーパーナイフ……棚に鍵をかける前に数えたか? 君の仕事だろ」


「すみません……()()()()忘れてましたよ、レイモンド校長」  


俺は意味ありげに、ゆっくりとお辞儀をした。 数えたらマリオンのペーパーナイフがないことはわかっていた。


(まあ、ここまでことが大きくなるとは思わないじゃないか……彼はあのペーパーナイフが、心のより所だったんだ。だから見逃してしまった)


「事後処理が大変だよ……ルシアンとマリオンはここから出すわけにはいかない。二年生全員……早めに合同催眠療法を行う。今日の惨事も忘れてもらわなければ」


(お前が事後処理をするわけじゃないだろ……)


「ニコ、皆の犯罪記録をもう一度教えてくれ」


俺は黙って奥の引き出しに向かった。

なにかいろいろクロノス学園は謎がありそうです。

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