幕間- 言いたいだけ
幕間でスピンオフのショートです。甘々です。怖さはゼロ!
相談室。ジャンミンの前で、秘密を見せたニコです。
夕飯を食べた後のラウンジで、ジャンミンと激しく喧嘩をした。
普段は、阿吽の呼吸、水心あれば魚心……恋人か?
なんてクラスメイトからいじられるほど、ジャンミンとは仲がいい。
(まあ学級代表と副代表ですから……)
たまに言い合いをするのは珍しいことではない。クラスのために、意見がぶつかることもある。
それに議論は嫌いじゃなかった。むしろ好きなほうだ。
だけど手が出たのは初めてだと思う。理由は、問題ばかり起こすルシアンの処遇について。
「甘すぎるんだよ、ニコは!」
ルシアンを放置する俺に、ジャンミンが小言を言った。
「別にどうでもいいよ」
俺が適当に返すと、ジャンミンは胸ぐらを掴んで俺を突き飛ばした。
え?! ………ジャンミン?
そんなに怒ること?
俺は怒りよりも、ぼやっとしてしまった。
周りに生徒たちが集まって……ジャンミンは、ルシアンとシドフから眼鏡を無理矢理に外された。
そして「ファイッ」と叫ばれ、僕に向かって突き飛ばされた。
そのあとは、めちゃくちゃ……。
◇ ◇ ◇
夜の21時半--
相談室でのヒヤリングにはレイモンドがやってきた。俺とジャンミンはできるだけ離れて腰を下ろしていた。
「全く……ジャンミンとニコが喧嘩なんてねぇ。みんなが興奮……いや、不安になるだろう?」
「…………」
俺はジャンミンをちらっと横目で見る。
「二人とも、冷静になれよ」
俺のオレンジ色の頭をぐりぐりと触るレイモンド。彼はきっと、俺が悪いと思ってるんだろうな。
「はいはい」
俺は頭をずらし、レイモンドの手から逃れた。
学級代表と副代表なんですからね。
そう呟きながら、レイモンドは出て行った。
ドアが閉まる音が大きく響いた。
それと同時に--
「セクハラ事務員」
ジャンミンが吐き捨てる
「え?」
「君の頭をぐるぐる触ってさ」
そう言ってジャンミンも相談室を出て行った。
(かわいいやつ)
「もうすぐ消灯時間だよー」
生徒に話しかけるジャンミンの優しい声が聞こえた。
◇ ◇ ◇
真夜中、相談室のドアをゆっくり開ける。中は真っ暗だった。
「うわっ!」
……ジャンミン。
窓枠に寄りかかり、月明かりだけを頼りにノートを読んでいる。眼鏡を外し、指で目を擦っている。
「……ジャン?」
ジャンミンの肩が跳ねた。窓枠に置いていた眼鏡を慌ててかける。
残念……メガネを外したジャンミンをもっと見たかった。
「……ニコ。なにしに来たの?」
「ちょっとね……一人でやりたいことがあったんだ」
そう言って。俺はジャンミンに近づいた。首を上に持ち上げる。
窓際に立っているジャンミンと、目線を合わせようとするといつもこう。
俺の方がだいぶ背が低いから。
「やりたいことって煙草?」
ジャンミンは俺の目を上からじっと覗き込む。
(え?!……なんで?)
「たまにニコのシャツから煙草の匂いがするから。あと飴の種類はいつもミント舐めてる」
「……内緒にしてくれるか?」
「もちろん……誰も気づいてないよ」
「ありがとう。ジャン」
そんな上目遣いで言われたら、仕方ないしねなんて言う。
いやいや……背が低いから仕方ないだろ?
ジャンミンが手を伸ばし、俺の髪をそっと撫でた。
「……ニコ」
「ん?」
「好きだよ」
心臓の音が、ドクンと聞こえたような気がした。ジャンミンの瞳が、眼鏡の奥でまっすぐ俺を見てる。
「君に聞きたいことはいろいろあってね。でもずっと聞かないようにしてる。例えば、どうやって煙草を手に入れているのか……とかね」
「……ありがとう」
「聞いてしまったら、学級代表と副代表なんてやってる場合じゃないんだろう?」
ジャンミンは首を傾げた。
身体が、頬が熱い。
ジャンミンの手が、俺の頬、首筋に触れた。冷たい手のひら……。
てことは、俺の身体はやっぱり熱いんだな。
彼が眼鏡を外して、机に置いた。互いの息が触れる。
……そしてキス。
ぎこちなくて、唇が震えているけど、離れられない。ジャンミンは、僕の首に腕を回して、抱き寄せた。身長差の分、自然と見上げる形になる。
そっと唇を離し、俺を見つめるジャンミン。その目は少し寂しそうだった。
「……ニコ、煙草吸ってみて」
「俺はいいけど、煙って隣のやつに流れるから。ジャンの健康が心配」
「一回くらい大丈夫だよ」
俺は窓を大きく開けた。相談室は窓が最後までしっかり開くので、煙を外に出しやすい。
使い捨てライターをポケットから出す。暗がりのライターの炎は蝋燭のようになった。
俺は煙草を浅く吸い込んで、窓の外に煙を勢いよく出した。
「なんだよ〜。もっとゆっくりと味わう物なんじゃないの?」
ジャンミンが困った顔で笑う。
「お前が見てるから上手く吸えない」
ジャンミンが俺をそっと抱きしめた。
体温が伝わってくる。
「さっき怒ったのに意味はないよ。ルシアンの悪ふざけなんか、何とも思ってない。ただニコと議論したかっただけだよ」
「ああ」
「なのに君が、どうでもいいって言うから……言えなくなった」
「ごめんな」
俺は煙草を消した。
「でも君と格闘できたから。ルシアン、シドフありがとうって」
「あいつらは自分たちが暴れたかっただけ」
俺たちは声をひそめて笑った。
「ああやって、暴れさせないとね。圧力鍋の蓋はちゃんと蒸気を出してあげないと」
「いいこと言うね。さすが学級代表」
相談室のドアは閉められている。電気も消えている。
ジャンミンがまた俺にピッタリとくっついた。
「見て。月明かりの世界では、僕らは一つだよ」
そう囁いて笑った。
ただ相談室で話をしているだけです。この時は、まだ相談室は鍵をかけてないようです。転校したシドフがいるので、本編より前の時間軸です。
二章も、これからゆっくりと始めます。はじめましての人物も出てきます。




