磨いた成果を試すとき 3
語り手はマリオンです。
今、僕のクラス、2年B組は笑いの渦に飲み込まれている。
原因はティーチャー・パンジー。
ルシアンのモノマネはそっくりだった。
なぜ皆が笑っているのかはわからないものの、自分が笑い者にされていることはわかるはずだ。
これは少し……。
いやかなりまずい。
「おい、静かにしろ!」
叫んだのは副代表のニコだった。いつもなら彼はこんなこと言わない。その役割はジャンミンだから。
ニコはいつもやる気がないように振る舞っている。だけど僕には、クラスを監視しているように見えていた。
これは、いつも教室の後ろにいる僕じゃないとわからないだろう。
ニコの声は虚しく、笑い声でかき消される。胸の辺りが重くざわざわしてきた。
「いい加減にしろ。黙るんだ!」
ニコはさらに怒鳴ったが、笑い声は止まるどころか加速している。僕は生徒たちの顔を見た。憑かれたような彼らの顔……。優等生のジャンミンすら高笑いをしている。
「ジャン!」
ニコがジャンミンに声をかけるが、声は届かない。ていうか、ジャンてかっこいい、なんて思った。
机に肘をついて、それを嬉しそうに眺めているルシアン。
何かがおかしい。なんだこれ?
狂ってる--
教室が急に暗くなった。天気は眩しいくらい良かったはずなのに。真っ黒な雲が教室を覆っていく。まるで暗室の遮光カーテンのよう。
ティーチャー・パンジーが教室をゆっくり歩いている。さっきまでの狂ったような笑い声はいつの間にか聞こえなくなっていた。
僕だけが透明な棺に閉じ込められたかのように、音が遮断された。
僕の横を真っ黒なワンピースがすうっっと通り過ぎた。
なに?
冷気のような、寒気のようなものを感じた。
え?!
僕は気を失いそうになった。先生の窪んだ目……。
ティーチャー・パンジーは骸骨になっていた。彼女は振り返って、真っ黒に空いた目で僕を覗き込む。
骸骨になったティーチャー・パンジーは鎌首をもたげ、ゆらゆらと揺れ、今にも飛びかかってきそう。
なんだよこれ……誰か助けてぬくれ。
(でも声が……声がーーー)
骸骨になった先生が、ゆらゆらと僕に近づいてくる。このクラスは呪われてしまったのだろうか?
「みんな! ……静かに」
学級代表のジャンミンがゆっくり諭すように言った。それは彼自身にも言い聞かせているように聞こえた。
背中を叩かれたように皆、我に返った。
教室は静まり返った。
ティーチャー・パンジーは怒るでもなく黒板の前でじっと立っていた。
エリオが彼女を指差して叫んだ。
「ギャァァァ!」
「エリオ? どうした?」
ニコとステファンが、エリオの肩を支えた。エリオは涙を流してステファンに抱きついている。
何? いつものあざといやつ?
いや……そうとは思えない。
エリオ、君も何か見たのか?
死神を……。
ティーチャー・パンジーはいつもの姿に戻っていた。よかった。いつもの面白くない先生が目の前にいる。
面白くなくてよかったって言うのもなんだけど。
ゆらゆらと揺れて骸骨になっていたのはきっと幻覚だ。空も元通り快晴だし。
「まぁー、とてもとても仲の良いクラスなのですねぇ。同じように皆が笑い出すなんて! 感心しましたよ」
先生は穏やかに微笑んだ。でも目はどこも見ていない。さっきの骸骨とまるで一緒。怒ってくれたほうがまだましだな。
ティーチャー・パンジーはそっと分厚い本を閉じた。
「授業を終わります」
まだ鐘は鳴っていないのに授業を終えて帰るみたいだ。もう一刻も早く帰ってほしいからちょうどいい。
でもそうじゃなかった。
ここからが本番。ティーチャー・パンジーの最悪な授業の始まりだった。
ティーチャー・パンジーこわい。




