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磨いた成果を試すとき  作者: うみたたん
2 ルシアンの章

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放課後の悪魔 3

ステファンの目の色はどうしたんでしょうか?

ルシアンとジャンミンが、ステファンの両脇を支えて歩きだした。


僕とニコは網やタオル、集めた枯葉のゴミが入ったビニール袋を手分けして持っていた。本当は僕がステファンを支えたかった。


(だって恋人同士だし……)


だけど背の高さを合わせないと、ステファンが歩きにくそうだった。なのでジャンミンとルシアンで支えることになった。


確かに小さいニコが、背の高いステファンを支えるのは難しい。つまりそれは、僕でも駄目だと言うことだ。


「さっき驚いたよな。本当にステファンの目、真っ赤でさ。まじで悪魔に見えたぜ」


僕とニコは三人の後ろを歩いていた。彼らとは少し距離ができていた。

網やバケツを抱えているニコは、本当に子供みたい。あ、それは人のこと言えないのか……。


「うん……瞳に水分が多かったからかも。宝石みたいだった」


「エリオは、ステファンのことはなんでも褒めるんだなぁ」


目を開いたステファンの茶色い目が、真っ赤に見えたのは、見事な茜色の夕日が彼の顔に当たったからだった。


よくみると、みんなの顔も夕日で赤く染まっていた。ステファンの瞳は茶色に赤が加わって、濃い血の色をしていたんだ。


そしてルシアンに身体を預けながら、同時に涙を流していた。その涙はやっぱり赤かった。


「ねぇ、涙も赤く見えるもの?」


「え? 涙……どうだろうな」


ステファンの涙はわからなかったみたいだ。彼はすぐにルシアンの胸に顔をくっつけ、ぐったりしてしまったから。


「ルシアン……最後に何か言ってたね。一週間後に予言で不幸になるとかなんとかって」


「フッ、気にするな。悪魔の真似だろ? ルシアンの戯言は毎度のこと」


そうだとは思ったけど、本当にお告げを聞いたようにルシアンが固まっていたのが気になった。


「ルシアンはレイモンドにあんなことして……どんな罰を受けてきたのかな」


昨夜、ルシアンがレイモンドにいきなりキスをした。生徒同士の悪ふざけならまだしも、大人をあんな挑発したら、よほど怒られるだろうな。


先生たち大人を(働いている職員全てを含めて)敬うことは、学園の規律の中でも、特に重要だった。


「罰か……さあね。ルシアンはめちゃくちゃな奴だけど、意外と口は硬いからな」


「そうなんだ……」


「なぁ、前にいる三人て、学園でモテる男子ベスト5に入ってるんだぜ」


ニコがニヤッと笑う。


「どうやってベスト5を調べたんだよ?」


「俺調べ」


なんだよ『俺調べ』って。


「ジャンミン、ステファン、ルシアン……みんなかっこいいだろ? タイプは全然違うけど」


タイプね……。

縁無しの眼鏡、整えた黒い髪……優等生で頭の良いジャンミン。


赤茶色の髪、スポーツ万能で優しいステファン。


亜麻色の髪、天使のような見た目で、心は魔王のルシアン……。


確かに見た目も、性格も全然タイプが違うな。


「なんか僕……自信なくなってきた」


「エリオ、何言ってんだよ、ステファンから告白してきたんだろ?」


そうだった。

でもだからって、安心できることなんて一つもない。僕の気持ちを知ってて、それで……。


ステファンは気持ちを汲んでくれたとしか思えない。()()優しいからな。今日だって、僕がいるから来てくれたんだし。


「あ、エリオ。庭師の人たちの小屋に行くぜ。網やバケツとゴミはそこに置いてくるの」


ニコはそう言って、前にいるに三人にも声をかけ、再び戻ってきた。


「ステファン、医務室には行かずに寮に早く戻るって」


「それがいいね」



庭の隅に立つ、道具小屋。

木の扉は傾いていて、キィッと軋む音を立てる。


ニコと僕は、使った道具を抱えて小屋に入った。薄暗い小屋の中は、土と草と埃が混ざった匂い。でもそれは嫌いじゃなかった。

「じいちゃんの家の匂いみたい」


「マジかよ。なんか日が暮れると気味悪いな。バケツは棚に置いて」


ニコに指示された通り、奥の棚にバケツ、タオル、手袋などを置く。


「うん。網はここらへん?」


「ああ、立てかけておきな」


「うん……意外と整理されてるね」


「なあ、エリオ。俺、走って帰っていい?」


ニコの額から汗が滲んでいた。なにか焦っているような……。


「え? 何?」


「ルシアンのやつ、ジャンミンにちょっかい出してたんだよ。距離近いし。じゃあ、急ぐから」


「あ、待って」


それなら僕のほうが心配なのに!

ニコは走って行ってしまった。薄情なやつ。僕もすぐに扉の方へ一歩踏み出した。


コトン……。

道具を置くような音。もちろん僕ではない。

なにか背後に冷たいものを感じた。


「誰?」


誰かが息を潜めているような気配。

僕の足は突然、地面に張り付いたように動かなくなった。


金縛りーー

僕の後ろになにかが……。


「……助けて」


あと一歩踏み出せば、外に出られるのに。


『出ていけ……エリオ』


僕の頭の中に、誰かが唐突に話しかけてきた。名前を呼ばれた。後ろは見えないけど、なにかがやはりいる。


……あのときの子供?

クロノス学園に転入してきたあの夜……長い廊下にいた、手の長い子供の影。


(誰か……)


それと、夜中に僕の部屋に入ってきた、ぼんやりとした子供……。あれはたぶん夢ではなかった……。


『一週間後』


また何者かが話してきた。ハッとすると、足が動いた。僕は振り返らずに走り出した。小屋の扉は開きっぱなしだが、そんなの知るか!


「クソッ! ニコのやつー!」


僕は、先に帰ったニコに怒りをぶつけることで、いまの出来事を忘れようとした。僕はなにか叫びながら、寮の中を走っていた。




次は語り手が変わります。マリオンです。


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