放課後の悪魔 2
池の掃除をしている、エリオ、ニコ、ジャンミンのところにステファンも来ましたが、彼は気を失ってしまいました。
ステファンは池に足を入れたまま、そのまま座るようにゆっくりと倒れてしまった。
「ステファン? ねぇ? 大変!? ステファンが具合が悪いみたい」
すぐにニコとジャンミンがやってきた。
「どうした!?」
「ステファン……無理しないでよ。僕とニコが罰を受ければよかったんだから」とジャンミン。
ニコはステファンの足を、池から持ち上げた。ジャンミンがすぐにタオルで拭いてあげている。
「誰か呼んでこよう。レイモンド……いや、医務室の先生かな」
「エリオ、ステファンの側にいて」
そのとき、ステファンが二人の方を向いた。
「待って! 呼びに行かないで。ただの立ちくらみだ」
「平気なの?」
僕は汗でしっとりした、ステファンの赤い髪を撫でた。額は思ったより冷えている。
「ああ、ちょっとこのままでいれば……」
僕たち三人は、大の字になったステファンを囲んで休憩した。掃除は始めたばかりだったけど。
僕はステファンの左手に自分の手を重ねていた。
ずっとこうしていたいけど、池はとくに汚れていないので、切り上げたほうがいいかもしれない。
「ステファン、お前は誰かに譲ったり、逆にやってあげたりするの多いよな。もうやめろよ……珍しく心配してやってんだぜ」
ニコがステファンに冷めた口調で言う。さっき問い詰めていたのは、ステファンを心配してのことだったのか。
人の気持ちって逆に捉えられることってあるんだな……勘違いって怖い。
ステファンはふっと笑った。
「はいはい……あのさぁ、さっきから魔法陣みたいに囲んでるのやめてくんない?」
ステファンの頭の上にはニコ、伸ばした彼の右手にはジャンミン、左手には僕がいた。僕らはステファンを中心に三角形に座っていた。
「何か悪魔でも呼ぶ儀式みたいだ」
ステファンは苦笑い。
(本当だ、これなんの儀式だ?)
「あはっ、本当! ステファンおかしいこと言うね。元気そうだし」
ジャンミンも吹き出した。ステファンは目を閉じて話し続けた。
「俺は無理してない。PEの時間にバスケを張り切り過ぎたんだ。あとは三人に任せるから」
「だからそれだよ。PEだってもっと適当にやりなよ」
ジャンミンのアドバイスに、僕も同意してうなずいた。
ステファン、試合で負けているチームに入って、一生懸命だったから。それがまたキラキラしてかっこよかったけどね。
ーー ガサッ
狐でもやってきたような、草を掻き分ける音がした。
「おいおいおい! 慌てて来てみれば、何の儀式だよ」
「ルシアン! どこから来たの?」
庭園の奥から現れたのは、魔王と言われていたルシアン。
彼は迷わずステファンに跪く。圧倒的な美を備えた天使の外見の魔王だ。
「ステファン……君の心臓を魔王ルシファーに捧げよ。そうすればわれは何でも言うことを聞こうぞ」
ルシアンの魔王の真似に、ニコとジャンミンは笑っているけど、僕は笑えなかった。
ルシアンはステファンの胸にすっと手を当てたんだ。目を閉じているステファンの瞼がピクピクと震えたのを、僕は見逃さなかった。ステファンがゆっくり口を開く。
「あー……ルシアン様。あなたの……すべ……その、エメラルドグリーンの瞳をください」
「ほう……そんな物でよいのか!」
「あはは、確かに欲しいね」
「ジャンミン、バカっ」
ジャンミンの肘をニコは押した。そして、ニコは僕をちらっと見た。
僕の顔はわかりやすく困惑していたと思う。あまりに幼稚な焼きもちを僕はまた焼いていた。
「ルシアン、用事は済んだのか?」
「ニコラス、戯言を抜かすな! 今、われの瞳をステファンに転移させているのだぞ……さぁ、ステファン! 目を開けろ」
寝ていたステファンは上半身だけ起き上がった。そして目をゆっくりと開ける。
言葉を失った。
茶色いステファンの瞳は、燃えるような赤に染まっていた。エメラルドグリーンではなく、まるでルビーのようだった。
「えっ!?」
「ステファン、瞳の色が!」
それを見たのは、僕だけじゃなかった。ニコ、ジャンミンにも見えていた。
「素晴らしいステファン! その色は魔王ルシファーだ。きさまの髪の色と同じ、血の色だぞ」
ルシアンがステファンの顔を押さえ、褒美だと言っておでこにキスをした。
「えっ!?」
思わず僕は声に出した。ルシアンは、ステファンの額から唇を離すと、暫く固まっていた。そしてーー
「…………われは今、聖なる予言を聞いた。一週間後にクラスで不吉なことが起こる」
ステファンは肩を震わせて、ルシアンに体を預けた。
次で「放課後の悪魔」は終わります。




