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磨いた成果を試すとき  作者: うみたたん
2 ルシアンの章
21/32

相談室の灯り 3

ノックが小さく三回。


真夜中って、どうしてこんなに怖いんだろう。まるで扉の向こうにいるのが、人間ではなく深い森の中からやってきた魔物みたいだ。三人で扉をじっと見つめる。


鍵は、今度は僕がしっかりかけておいた。急に開けられたらまずい。

またノック。


コン、コン。

コン、コン。

リズムのある静かなノック。


「ジャン、どうする……」


「……しかたない。開けよう」


ジャンミンがゆっくり扉を開けるーー



「やばっー! おまえら、マジで停学ー。やばぁ」


ルシアンーー


ひょっこり顔を出したのは、亜麻色の髪の天使のような少年だった。真っ白な肌に翡翠色の瞳、長い睫毛。

だけど、口からは魔王ルシファーのような非情で辛辣な言葉。彼は僕の横にドサッと座る。


「…………」


(怖い……)


「やぁ、ルシアン。ごめんな」

ジャンミンの穏やかな声。


「明日も学校だぜ。なにやってんだよ、ツートップがさぁ。新参者もいやがる……この僕を差し置いてトリップでもしてたのか?」


「トリップ?」


僕は意味がわからず繰り返すと、ジャンミンが僕を制した。



「僕のこと、ニコに慰めてもらってて……エリオは灯りに気づいて。さぁ、みんな戻ろう」


「だってさ」

後ろを振り向くルシアン。


え…………。


扉の隙間から現れたのは、レイモンドだった。


背が高く、彫刻のように顔が整った事務員。僕が転入してきたとき、いろいろお世話になった人。


その後もいろいろ助けてもらってる。とても優しくて、お兄さんのようだけどーー


だけど今は違う。群がっているネズミを見つけた山猫のよう。射抜くような真っ黒い瞳。

胃が急に重たくなった。


「またB組だね。どうしようかな……」


ニコとジャンミンは硬直している。いつもはレイモンドと仲が良いけど、違反はそうはいかないようだ。


「レイモンド……俺とジャンミンでいただけ。エリオは今、灯りを消しに来たんだ」


「あの……すみません。僕のせいです。僕がニコの部屋をノックしました。それで、ここに誘いました」


ジャンミンが、いつもより動揺していた。


「はぁ〜。美しい友情だねぇ」

ルシアンが飄々と口ずさむ。


「まぁ報告はするけど、具合が悪くなったってことでいい? その際はラウンジで内線をかけることになってるけど……先生たちの手を煩わせたくないから、相談室に行ったと」


「報告やっぱりしますか?」


「仕方ないだろう。僕だって当直だからね」


ジャンミンが頭を抱えた。普通の生徒でも、きっと落ち込むことなんだろう。彼は学級代表だ。だからその気持ちは計り知れない。


「何があったかは記録に書くことになってる。君たち三人がここにいたことも。生徒たちには言わない。それだけでも譲歩だと思うがね」


「ああ……」


うなだれるジャンミン。僕は、築き上げた信頼が一瞬で壊れるのを目の前で見ている。


「レイモンド、見逃してよ。具合が悪くなっただけだ」


平然と嘘をつくニコ。煙草を吸っていたのも、お菓子を持ち込んでいたことも当然隠している。


僕は共犯者だ。だけど他人事のように感じているのは確かだ。


「ジャンミン……学級代表は重荷かい?」

「……いいえ」


「レイモンド〜ここで起こったこと、全部書くのぉ?」


ヘラヘラしているルシアン。ぶん殴ってやろうかと思った。正しいのはルシアンなのかもしれないけど。


「はい。見たことを書きます」


パジャマを脱ぎ捨てて、急にレイモンドに抱きつくルシアン。


え?! こいつ、なにやってるんだ……。


「レイモンドも仲間ね」


そう言ってルシアンは、レイモンドにキスをした。思いっきり唇にだ。


二人がキスしているのを、僕たち三人はあっけに取られて見ていた。かなり長くキスをしているように見えるが、多分三秒くらいだったと思う。


「…………」


レイモンドの頬を押さえて離さないルシアン。真っ白な横顔と薄い上半身。女の子と錯覚しそうになった。レイモンドが強い力で、彼の肩を掴んで引き離した。


「なんだこれは」


「レイモンドが、僕を襲ったって言う」


ルシアンは真っ白な胸を、自分の爪で引っ掻いた。さらに強く爪を立てるーー


「やめろ!」

レイモンドが顔を紅潮させる。もちろん照れているのではなく、怒ってる。


生徒ではなく大人のレイモンドにこんなことしたら、罰則はどうなるのだろう?


「ルシアン、エリオ、ジャンミン、ニコ。君たち四人は庭園の池を掃除してもらう。報告は……多分しない。明日、放課後に池に集合。そして……あと30秒で、ここから出ること」


レイモンドはそう言いいながら、ルシアンの脱ぎ捨てたパジャマを羽織らせていた。

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