医務室とステファンと……
ステファンとエリオとブロンド君はどうなるのでしょう?
ステファンと二人で保健室のベッドに寝転がっている。夢のような時間のはずだった。
だけど僕は、再びクロノス学園に来たばかりのことを思い出していた。
◇ ◇ ◇ ◇
クロノス学園に転入して、数日が経過していた。みんな優しくしてくれるけど、僕はいつもステファンを目で追っていた。
「なぁ、ステファンが気に入ってんの?」
眩しいブロンドの髪の少年が、満面の笑みで話しかけてきた。驚いた僕はもじもじしてしまう。
(やっぱり誰でも気づくんだ。僕がステファンを見ていること--)
「あ、あの……」
「一緒に移動教室に行こうか!」
そうブロンドの少年は言ってくれたっけ。そしてステファンとブロンドの子は、寮や学園を案内してくれた。案内は済んだ場所もあったけど、まだ行ったことがない場所もあった。なにせクロノス学園は広い。
ステファンとブロンドの子は、とても親密だった。僕の後ろを二人が腕を組んで歩いている。
「ここはね、ステファンが前に転んだところだ」
「へぇ、そうなんですね」
「おい、そんな案内いらないだろ?」
「いや、覚えておきます」
なんて……ステファンとのエピソードもいれながら、案内をしてくれた。僕はステファンに夢中だったので、そんなステファンのエピソードも嬉しかった。
「次は三階を案内するね」
「あの……理科室の奥の扉ってなんですか? 先生にも学級代表も、そこは開けてはいけないって聞いて」
「そうだよ。二階の奥の扉は開けてはダメだ。なぜだっけ? なぁ、ステファン?」
「ああ、そうなんだ。そこは理科の実験とかで使う薬品があるから危険なんだよ。鍵はかかってるけどね。その扉の話題も避けたほうがいい」
「あ……はい。わかりました」
さすがステファン〜と言いながら、彼にしなだれかかるサラサラのブロンド髪。
「なんでさっきから敬語使うの? 同級生なのにおかしいよ、君」
ブロンド髪が冷笑した。
「エリオ、そんなに気を使わなくていいよ。このクラスはみんな仲がいいんだ」
ブロンド髪の少年よりも、ステファンは優しく教えてくれた。ブロンドの少年はニヤッと笑う。
「そうそう、敬語は禁止な〜」
そんなことがあって、僕は二人と急速に仲良くなっていった。ブロンドの少年がステファンと親密にしているのは構わなかった。
今までの僕なら嫉妬するのに。
僕の方が、後からこの学園に入ってきたのだから、それは当たり前だと割り切れた。魅力的なステファンならライバルがいるのは覚悟の上。後から入ってきて、さすがに邪魔しようとは思わなかった。
だって二人はバディ同士でもあるし。
ブロンドの子が僕に聞こえるように、独り言を言っていたから。
でも、それくらいで僕の気持ちは変わらない。そんなことでステファンを嫌いにはならない。むしろ誇らしいくらいだ。
もう前のように目移りする僕ではない。僕はステファンと会って変わったんだ。
◇ ◇ ◇ ◇
「なんで俺の前がマリオンなんだよ。あいつ、全然話してくれないし、いつもなにか書いてるんだぜ。すげえ不気味。変な絵も描いているし」
席替えがあって、ブロンドの少年は大いに不満を言った。僕がステファンの近くになったから、それも悔しいのかもしれない。
いや……ほとんどそのせいだと思う。
「エリオは近くにいてよかったよ」
僕とステファンは顔を見合わせて笑うと、ブロンドは寂しそうにそっぽを向いた。ステファンは気にせず話を続ける。
「なぁ、次の時間はなに?」
「やばい! ティーチャー・パンジーだ」
ブロンドが言うと、ステファンは頭を抱えた。
「うわぁ。最近赴任してきたあいつかぁ」
「ねぇ……ステファン……僕、ずっとお腹が痛いんだ」
僕がそう言うと、ブロンドが目を輝かせた。
「いいじゃん! 医務室に三人で行こうぜ!」
「……三人は多いよ。ステファン一緒に付いてきてくれるかい?」
それを聞くと舌打ちをしてブロンドは、ずるいー! パンジー先生の授業、エスケープするなんてと煽ってくる。
(そんなつもりじゃない……)
「本当に前の時間から痛かったんだ」
僕が懇願すると--
「俺も〜。本当に前の時間から痛かったの〜」
ブロンドの奴はにやにやしながら、真似をしてきた。僕は黙っていた。初めて声をかけられたときのことを思い出した。満面の笑顔で話しかけてきた。あの顔は親切心だったのだろうか?
「いいね! 三人で行こう」
ステファンは気にせず陽気に答えた。
北の端にある医務室は薄暗くて、なんとなく寒い。
ステファンが使用名簿に僕の名前を書いてくれる。
「医務室の先生、午後は出張だって。ラッキー」
そう言って、嬉しそうに飛び跳ねてブロンド髪が揺れている。
「エリオ、大丈夫かい? 横になって」
「あ、ありがとうステファン」
僕はベッドに横になった。すると少し身体が楽になった。
「エリオ、顔が青い……大丈夫か? なぁ……。
見てシドフ。エリオの顔、青いよな」
シドフ--
思い出した! ちょっと変わったあいつの名前。
シドフ……。
「昼ごはんの食べ過ぎじゃない?」
ブロンドの髪が輝いている……シドフ。なんだか馬鹿にした口調で僕に言った。もちろん無視をした。
「いたた……」
僕は、お腹を抱きしめるようにしてうずくまった。ステファンは僕の頭を撫でてくれ、毛布をかけ直し、僕の横に自分も横たわった。
ひえぇぇーー!
心臓が止まりそう。ステファンが横に寝ている!




