医務室とステファン 3
ステファンとエリオ、保健室のさぼりは見つからないといいですね。
たまにステファンが遠くをぼんやり見ているときがある。僕と身体をぴったりと密着させているのに、遥か遠くにいるようなステファン。
「名前なんてもういいだろ。僕、あいつのことほとんど知らないし、忘れたよ。それにクロノス学園に来て、次から次へと覚えること多いしさ。ルールもよくわからないこと書いてあるし」
「確かにな。もっと俺に聞けばいいだろ」
「うーん、生徒同士の接触は、過度なものは禁止だけど、軽いのは推奨するって……意味がわからないよ」
「はは、それか……まあ学園だってよくわかってないのさ」
僕は首を傾げた。
あぁ、そうだった。ブロンドのあいつ……名前は忘れたけど、あいつと入れ替わりみたいに僕はここに転入してきた。だから僕はブロンドとは一ヶ月くらいしか一緒にいなかったんだ。
「はぁ午後の授業、めんどくさ。あの先生だ。嫌だな……ずっとここにいようぜ?」
そう言って、ステファンは医務室のベッドにばたんっと横になってしまった。
彼が怪我をしたと言う口実で医務室に来たけど、これで完璧にさぼりになった。
(本当に小さな怪我はしたけどね……)
ステファンはベッドに大の字になった。
「ステンドグラス制作苦手なんだよ。エリオは楽しいかい?」
「うん 。座学なんかよりずっとね。ステファンは違うの?」
「俺は身体を動かしたいの。もちろん授業が潰れるからステンドグラスでもいいけど……格闘技にでるやつらはその練習させてくれよ」
確かにステファンは運動は得意だもんなぁ。
「初めて君を見たとき……校庭でサッカーをしていたっけ。みんなあんまり上手くなくておかしかったな。やってる方は必死かもしれないけど。まぁ僕もサッカーはできないけどね。でも一人だけ、ずば抜けて上手くて、背の高い男子がいたよ」
「前にも聞いた」
ステファンは呆れている。でも何度だって話したい。
「あのシュートかっこよかった」
「盛大に外したけどね」
「え? ちゃんとゴールに入っていたよ! 僕見てたから」
ステラはふぅとため息をついた。
「エミリー側からだとそう見えたかもな。サッカーってさ、場所によって入ったように見えるんだよ。俺はそれでみんなに怒られる」
「え? そうだっけ?」
入ったように見えたのに。それにみんな喜んでたけどな。僕と女の先生は、その後すぐに移動してしまったけど。なんだか記憶って曖昧だな。
あの一瞬でステファンを好きになってしまった。
もう入ってようが入ってなかろうが、どっちだっていいんだ。遠かったけど、シュートした後、僕のことに気づいて手を挙げたんだよ。僕に向かって。
そのこと聞いても、ステファンは無意識だったから覚えてないって。
ぼくはステファンが寝転がっているベッドの縁に座った。
「ステファン……授業を抜け出さないかって言われて、すごく嬉しかったよ」
「そうなの? …… 君、アマンドとワルツでも踊ってこいって言ったじゃないか」
(ワルツではなく決闘だけど)
「それは……あのときはとても怒っていたから」
「エリオ、男の焼きもちはカッコ悪いぞ〜」
「もう、言うなよ」
抜け出さないかって誘われて、いやだと言うのがどれほど難しかったか。本当は人目をはばからず抱きしめたいくらい嬉しかったんだ。
「天の邪鬼だもんね、お前は」
「そんなことないってば! でもすぐに許す気持ちになれなかった」
「エリオ、大声出したらまずいぞ」
そうだ、ここは医務室だった。
「ステファン、そろそろ戻らないとまずいかも。医務室の先生が来たら怒られるし、担任に言いつけられる」
まだ平気だよとステファンは話を続けた。
「懐かしいと思わないか? エリオ……ここに君と寝転がったよね……こうやってさ!」
そう言って、ステラはベッドの縁に座っている僕の腕を後ろへ引っ張った。
「わぁ!」
お互い向き合うように横たわる。あぁ……もう教室に戻りたくないよ、本当に。
ステファンは僕の頭を自分の腕に乗せてくれる。腕枕をしてもらえるなんて、久しぶりだった。
「ねえ、エリオ。キスしないか?」
僕は黙っていた。
心臓がバクバクする。初めて校庭で出会ったときのようだった。
目と目が合う。ステファンが目を閉じた。あっ、と思って僕も目を閉じた。
僕たちはそっとキスをした。ステファンの唇はかさついているかと思ったけど、思っていた以上に柔らかかった。
僕はもう、すごく恥ずかしくて……すぐに唇を離した。まずい……顔が真っ赤だ。なにか気を紛らわせたい。
「あの、あの、あのときは狭かったよね……」
僕はステファンの胸元に顔を寄せて言う。恥ずかしくて、彼の顔を見ていられなかった。
「そうか?」
「うん、そう。今日はちょうどいい」
「あー、そうか。あのときはあいつがいたからね」
そうだった!
またブロンドの奴の話になってしまった。僕はバカだ。せっかくのファーストキスだったのに。いない奴の話を自分から振ってしまった。
ブロンドのあいつの話もこれから出てきます。




