医務室とステファン 2
ステファンとエリオの話。
ステファンvsアマンド
アマンドが、あんなに動けるとは思わなかったんだ。だっていつも本ばかり読んでるんだよ。
ステファンはハンデを与えていたと思うけど、それもあまりわからなくて、対等に戦っているように見えた。二人とも背が高いし、がっちりした体格だから、なんかすごくカッコよかった。
クロノス祭で、ステファンは他の男子と格闘するんだけど、あぁ……また僕は嫉妬するのかな。自分のことが嫌いになりそう。それともちゃんと応援できるかな。
格闘技に僕もエントリーしてしまったけど、やめればよかったかな……格闘技だけは強制ではなかったから。やっぱり怖いな。本番だって本当はステファンとやりたいくらいだ。もちろんクラス対抗だから戦うわけないけど。
三時間目のアートレッスンの途中、担任の先生まで顔を出してきた。ちょっと過保護すぎないか?
丁寧にゆっくり切りましょう……だって。僕たち小学生じゃないんだから。って思ってたら、もうアホな奴が指を切っていた。
「なぁ、エリオ……無視するなよ」
ステファンが、作業中の僕の横にやってきて腕をピッタリとくっつけてきた。僕は思いっきり反対方向を向いた。
(よくも……平然と話しかけてこれるなぁぁ)
すると、ステファンが急に吹き出した。
は? なんで笑うんだよ?
「怒ってるエリオって……すごくいいよ』
「え?」
「だっていつも俺に気を使ってるだろ?」
頬が熱くなってるのが自分でもわかる。ステファンは子供みたいに企んだ笑みを浮かべた。
「なあ、抜け出さない? もうすぐ先生が隣のクラスに行くから」
「…………いやだよ。今、集中してるんだ……アマンドと行けば? 決闘してくればいいじゃん」
するとステファンは、笑って前髪をかきあげた。その仕草に僕はハッとして、目が離せなくなる。
あー、いい男だからムカつく。 彼は肩をすくめた。
「妬いてる?」
「はぁぁ? そんなわけないだろ!」
大きい声を出したので、周りの奴らがびっくりして僕を見る。否定したけど、どう見たってそんなわけはあって、僕は妬いていた。100%、いや120%妬いてる。
200%かもしれない。
「エリオ、実は手を怪我したんだ」
ステファンは右の人差し指を僕の目の前に出した。うっすら血が出てる。 小学生がここにもいたのか。
「君もか、嘘だろ…… ハサミで切ったの?」
「違うよ。厚紙で切ったんだ。ピッてな」
「ステファン、雑なところがあるから、そうなるんだよ」
思わず心配して出された指を掴む。たいしたことなくてよかった。僕はハンカチを出してステファンの指を押さえた。その様子を微笑みながら見ている。ステファン。
「エリオが舐めてくれたら治るよ」
「はぁ?」
僕たちは副代表に声をかけ、二人で保健室に向かった。ほとんどさぼりだった。
「誰もいないな」
薄暗い医務室はアルコールの匂いがした。
「医務室の先生、忙しいみたいだな。たぶん見回りだろ」
どかっとステファンは丸い椅子に腰をかけた。
僕はステファンの名前を使用名簿に書いて、症状に「切り傷」と書く。 ページをめくると、いろんな生徒の名前が書いてあった。やっぱり腹痛が多いな……。本当の腹痛もいるだろうけど、偽物の腹痛がほとんどじゃ……。
(あ、僕も腹痛になったことあったっけ?それで……)
「ねえ……ステファン? 包帯じゃ大げさだし、消毒してガーゼでいいか?」
「いや、もう何もしなくていい。押さえて止血してたら止まったよ」
「なんだそれ? なんのために来たんだよ!」
文句を言うと、ステファンは僕をそっと抱きしめた。
「エリオと二人きりになりたくて」
「なっ、なんだよ、それ」
そうは言ったけど、僕は思わずステファンの胸に顔を埋めた。涙が出そうになる。意地を張るのって疲れるんだな。ステファンの心臓に耳を当てる。
この鼓動は僕のものだ……僕だけの……。
そう思うと満たされる。ステファンは僕の髪をまたくるくると触ってる。それがすごく心地いい。耳を軽く指でなぞられた。気持ちが良くてさらに、僕は彼に身体を任せた。
ステファンは僕の頭にキスをして、背中をつぅっと撫でてきた。ビクッと背中が震えてしまう。
ああ……ずっとこのままでいたい。
「こっちの気も知らないで……」
「だって……ずっとエリオとばっかりいるわけにもいかない。付き合うのは禁止なんだから。バレないようにしないといけない。……エリオもいろんなやつと仲良くしてるだろ?」
それはそうだけど……。 でも、格闘ごっこなんて休み時間にやらないけどな。
「エリオだって、最近ルシアンと仲いいだろ?」
ルシアン--
僕はステファンからさっと離れた。なぜか妙に納得いかなかった。違和感のような……。
「ルシアンは別にいいだろ。みんなでつるんでるし。ジャンミンとかアマンドとかも……」
ルシアンはみんなにとって特別な存在だから。
(ステファンだって、ルシアンと本当は仲いいだろ。あまり二人でいるとこ見ないけど)
「そうだ、中庭で僕の話、無視したよな! 頭きたんだよ。アマンドの話に夢中になってて」
僕は捲し立てた。
「ごめんごめん、あんまり覚えてないけど。ちょっとアマンドの話に興味があってさ」
覚えてないって……。なんだよもう。なんだか僕はステファンに振り回されてばっかりだな。
だけどそんなステファンが好きなのかもしれないけど。
「なあ、そんなことよりエリオ。あの、マリオンだっけ? 絵が上手いやつ……その後ろにいたブロンドのあいつ、名前なんだっけ?」
またそいつの話……もうやめてくれよ。
医務室はドキドキしますね。




