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磨いた成果を試すとき  作者: うみたたん
1 クロノスの章

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13/33

医務室とステファン

出だし、プロローグと同じ軸になります。

転入した頃のことを思い出して僕はぼんやりしていた。なんだかまだ目が覚めない。


穏やかな気配がふわっと目の前を通って、僕の髪をくるくると自分の指に巻いていた。


「ステファン、なあに?」


「細くてしっとりしてて、エリオの髪は猫の毛そのものだな」


僕は嬉しくて、わざとステファンの肩に頭を寄せた。


「猫と僕、どっちが好き?」


「そんな、わがままな恋人みたいなこと言うなよ」


「恋人みたい……みたいかぁ」

僕はステファンの腰に手を回した。


「言葉のあやだよ。ああ……まだ木曜日か。週末まで長いな」


「僕って見た目も性格も、好奇心旺盛な猫みたいだってよく言われるんだ」


「ふっ。確かにエリオはそうだな」


ステファンが黙って僕を引っ張る。彼のこういった強引なところがたまらなく好きだ。窓際の後ろにはいつもマリオンがいたから、僕らは前に移動したんだ。


僕たちは、二人で閉まっているカーテンを勢いよく開けた。強い日差しが教室に差し込む。

久しぶりの快晴だった。


「いい天気だな!」

「眩しすぎるよ」


僕たちは笑いながら見つめ合う。僕の耳元でステファンはそっと囁く。

「マリオンが眩しそうにして困ってる」


ステファンは笑いを堪えていた。ちらっと見ると手でひさしを作っているマリオン……ごめんね、と思いつつも、ステファンに合わせるようにくすくすと笑ってしまう僕。


なぜだろう……他のやつにだったら、例えば「悪い悪い!ニコ」とかなんとか声をかけるんだ。僕たちだって意地悪じゃないし。でもなぜかマリオンにはこんな感じになってしまうのは、実は僕たちだけじゃない。クラスの大半がそうなんだ。


なぜか彼にだけは、そんなことをしたって許される暗黙の了解--

そんなようなものができていた。それは僕が転入してくる前からだった。最初は違和感を持ったけど、僕もすぐにそれに慣れてしまった。


ステファンがふと窓際の後ろを見た。彼の視線は、今度はマリオンよりもっと後ろだった。


「……そういえば、転校したあいつ……元気かな?」


まただ。

早く忘れてほしいな。僕はステファンの腕にしがみついた。


「元気なんじゃないの?」

(知らんけどね)


「……こうやってさ、エリオの髪を触ってると思い出すんだよ。あいつの髪もこんな感じでちょっとくるっとしていて……ブロンドの髪が眩しかった」


「僕はブロンドじゃないよ、こげ茶だけどさ。でもいつまでも触ってていいよ。思い出したら、きっとあいつも喜ぶんじゃない?」


窓際の一番後ろに座っていた、眩しいくらいのブロンドの髪のあいつ。体を壊してしまって、クロノス学園から急に出て行ってしまった。


さよならも言わないなんて--


この学園でも、学期の途中に新しい生徒が来たり、出て行ったりすることがたまにあるらしい。

(僕もだけど)

わりと出入りは多いのかもしれないな。


二時間目が終わって、僕とステファンが中庭に行こうとすると、ルシアンがこちらに向かって歩いてきた。堂々とした足取りに僕はハッとする。


まるでどこかの国の王子みたいだ。ルシアンの亜麻色の髪は肩までかかっていて、風に靡いている。

一度見たら吸い込まれてしまいそうな翡翠(ひすい)色の瞳。


本当に眩しいくらいで、ルシアンて実は女の子なのかな?なんて思ってしまう。


「ルシアンさん! 急いでどちらへ行かれるのですか?」


僕は少し離れた距離から、わざと丁寧な口調で呼びかける。みんな、ふざけて敬語を使ったりするんだ。


「うるさい! 新参者。担任から呼び出しだ」

 

撤回します。絶対女の子ではないです。はい、声も太いし。


また何かやらかしたに違いない。ルシアンは僕のことを新参者ってからかう。最初は仲間外れにされたのかと思ってショックだった。だけど彼なりのコミュニケーションだとわかって、最近はそれも嬉しく感じる。


彼は亜麻色の髪を肩で払った。 そしてすれ違う瞬間、ステファンを見て手を上げると、二人は無言でハイタッチした。


 えっ……。

 いいなぁ--


まるで昔からの親友みたいだった。言葉を交わさなくても互いを信頼している雰囲気。羨ましいな。ステファンは僕にはそんなことしないから。

僕とステファンは内緒で付き合うとことになったけど、まだそこに足りないものはたくさんあった。信頼関係もそのうちの一つ。


今度、とりあえず僕にもハイタッチしてもらおう。


◇ ◇ ◇


中庭に行くと、アマンドが夢の話をしてた。

みんなでその岬の女の子はお姫様か? なんて騒いだせいで、ステファンがいきなり調子に乗って、アマンドに決闘みたいなのを申し込んだ。まあ、別に気にすることでもないと思った。うん、ここまではね。ここまでは!


それにしたって、あれは何だよ? イライラしながら僕は中庭を後にする。ステファンが僕の名前を呼んでるけどもう知らない。顔も見たくない。


なんなんだよ! アマンドと格闘ごっこなんて始めてさ。みんなから拍手喝采浴びて。満足か? 

マジでくだらない。しかも僕が話しかけたのに完全に無視! せっかく秘密でステファンと付き合ったんだけど、やっぱり別れようかな。


…………あぁ、もう嫌だ。なんで自分がこんなに怒ってるのか、ちゃんとわかってる。わかってるんだ。


アマンドとステファンの格闘、すごい白熱して、かっこよかったからだ。

前半はプロローグと同じホームルーム前後の時間です。「眩しい」など同じセリフです。


後半は中休み、中庭の格闘ごっこのエリオ目線です。めちゃくちゃ怒ってましたねー。

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