アマンドと夢の続き 4
図書館でさぼっていて大丈夫?
声が大きいよって、ニコに注意された。
ステファンとクレオが付き合ってる? でもそれはだめじゃないか。規則違反だよ。
「バディってこと?」
この学校は、バディーシステムがあって、親友とか仲のいい子を先生に報告している。そのほうが何かと学校側もわかりやすいからだ。つまりクロノス学園ではバディは親友のことだ。
「いや、それ以上なんじゃない? 内緒だけど、どちらかが告白したみたいだ」
「えー、知らなかった」
「ははっ。周りに流されないから好きだよ、アマンドって」
「いや……そんなことない」
マリオンが一生懸命、絵を描いていて……それをみんなで冷やかしている。苦笑いで見ているボク……。急に頭の隅に浮かんで、消えた。
ニコは僕のほうに向き直って、僕の黒縁眼鏡を外した。
「えっ? なになに?」
ニコは僕の眼鏡を、自分の顔にかけてみた。
「うわっ、なかなか度が強い」
「そうだよ返して。ニコの目が悪くなっちゃうよ」
ニコは黒縁眼鏡を頭の上に引っ掛けた。それは伊達眼鏡を頭に乗せた彼女……みたいでとても可愛らしかった。ニコは僕の顔を頬をギュッと両手で包み込んだ。
「アマンドの素顔、しっかりと見たかったんだ」
「え……」
「ステファンと戦ってるとき、かっこいいなぁって思ったんだぜ」
「あ、ありがとう」
ニコはふっと手を離して、下を向いた。
「ねぇ、恋愛体質……って、なにかアレルギー体質みたいなものかい?」
僕がとぼけてそう言うと、ニコはプッと吹き出した。
「違うよ。ちょっと優しくされると、その人をすぐ好きになっちゃうやつのこと。エリオのやつ、レイモンドにも惚れかかってたしなぁ」
レイモンド? レイモンドなんて生徒いたっけ? と思ったけど、同じ学年にも先輩にもいない……あ、先生とか?…………事務員さん?!
まじか。まぁ、確かにかっこいいかもだけど。なにがあって好きになったのだろう?
「心配だね、エリオって」とボク。
「まぁな。でもどっちかっていうと、俺はステファンが心配かな」
「ステファン?」
運動神経が良くて、みんなの人気者のステファン?
さっきの中庭でのステファンとの格闘は、とても楽しかった。みんながステファンに夢中になってた。
「ステファン、無理してるんじゃないかなって……あ、そんなことより、小説に出てきた岬! そうそう、ロザンカーナの小説だったかな?」
「ロザンカーナ……そうだっけ?」
なんだかその名前は、好きじゃないと思った。なぜかはわからないけど。なんか気持ち悪いと思ったんだ。勘……とでも言うのかな。
ニコが小説の棚にさっさと行っちゃうから、ボクも立ち上がって追いかけた。
本の背に顔くっつけて、ニコが題名を読んでる。こんなに大量の小説がある。これは探すの大変そうだ。僕も眼鏡を押さえながらじっと見ていた。僕も小説は結構読むけど、ちょっと好きなジャンルではなかった。
「これだ……流行ったな。この物語」
「もう見つかったの? あ、この表紙……」
あんまり見ないシンプルな表紙。題名がちっちゃい字で書いてある。それがかっこよくて、人気に火がついたんだ。
ニコが作者の名前を知ってたなんて。こんなすぐ見つかるとは思ってなかった。これでやっとクロノス祭の作業に戻れる。
そう、このときは気楽に思ってたんだ。
(でも、そう簡単じゃないってことは、ボクはこのときはまだ知らない)
「この話の主人公、この三日月の岬に行くんだ。片思いしてる子と一緒に」
ニコがパラパラページめくってる。
「へえ、そうなんだ。実はボク、読んだことなくて」
「なんであんな流行ったのか、わからないって」
読んだことないボクは、そうだねって言うしかなかった。
「あった、ほらここ」
クレセント岬
その言葉を見た瞬間、心臓がギュッと掴まれた気がした。いや、本当に心臓が締め付けられて、潰れかけた。良くないことが起こりそうな、嫌な予感がした。僕はすぐその小説閉じた。
「アマンダ……どうした?」
「ニコ、早く制作に戻ろう。もう、ここにいたくない」
「待って。アマンド、この観光名所の本にクレセント岬って、載ってると思う」
(うっ……心臓が痛い……ニコ……)
「えっと、あった! ほら目次に写真がある」
肺を撃ち抜かれた-
ように感じた。写真を見たとたん、息ができなくなって、ヒューって細く息吸ったんだ。
ボクはその場所をよく知ってた。それどころか、行ったことある場所だった。夢の場所は僕が以前に行った場所。予知夢ではなかった。
ニコが開いた本には、三日月の岬がバッチリ載ってた。
思い出した。ボクは膝をついた。
「アマンダ、大丈夫? ……何かあった?」
ニコの声が遠くに聞こえる。どうして今まで忘れてたんだろう? ボクはそこに行ったんだ。
クレセント岬に行けばやり直せるって、船に乗れるって。助けてくれる人が待ってるって……。最後だから絶対に信じろ!ってあいつは言った。
父親は事業に失敗したんだ。莫大な借金だけが残った。もともと考えなしの人だった。母さんはとっくにいなかった。僕を置いて一人で逃げてしまった。
父親は返すあてもないのに金を借りまくって、夜逃げしたんだ。クレセント岬に、ボクを無理に連れて行った。あいつは外道だ。畜生だ……。
「クレセント岬から船に乗るはずだった。借金取りから逃げるために、父は新しい女に大金を払って……段取りはその女がするって言ってた。そのためにみんなを騙してお金集めたんだ。肥沃の大地って呼ばれる新天地で事業やるって……ああ、岬にいたあの人……」
「ア、アマンダ、わかったよ。医務室行こう」
「背が高くて……」
現実に三日月の岬……クレセント岬にいたのは、細くて、蛇みたいな目をした女だった。父親はその女に大金を渡したんだ。女はすぐに船を用意するって言ったけど、戻ってこなかった。 破産してたボクのお父さんは、さらに罠にハマった。バカだから仕方ない。
よくある話で、今思い出すとおかしいよな。狡猾な詐欺師は、借金で首が回らない人をさらに狙ってくる。もう後がないから、判断ができなくて騙されやすいそうだよ。
船で渡るはずの肥沃の大地って場所もね、数年前にゴーストタウンになってるって。岬に住む人たちが教えてくれた。船もずっと出航してない。
クレセント岬は、今はデスピア岬って呼ばれてるんだ。
あはははは! あはははは!
図書館だと言うのに、ボクは大きな声で笑ってしまいました。あははは! とんだ悲劇ですね!
こんなことってある?
それにしてもボク、どうしてここにいるの?
そこで意識がだんだんと遠のいてしまった。あぁ、クロノス祭の制作も、合唱も……格闘大会の応援も……もう参加できないと思うな。
これは僕の予知。
「水の都ベネチア」クラスのステンドグラス制作、もっとやりたかった。
格闘大会はステファンを応援したかったな……。
混沌とした意識の中で、またボクは夢をみた。
霧で覆われた森を抜けた。
三日月のように弧を描いた岬の先端には、いつも通り、若い女の人がいる。彼女周りには朝の光が--
放たれてない。こんなことは初めてだった。
海から顔を出した朝日は、厚い雨雲に覆われて隠れていた。いつも太陽が輝いていて眩しかったけど、雨が降り出した。初めて、振り返った女の顔が見えた。
痩せていて、蛇のような目つきの女の顔がはっきりと-
ありがとうございます。アマンドー(´༎ຶོρ༎ຶོ`)
次は同じ時間軸で、ステファンとエリオの話です。どこに行ったのかな?




