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月夜譚 【No.301~】

小さな桃源郷 【月夜譚No.367】

作者: 夏月七葉

 桃の香りがする。それにつられて顔を上げると、水彩絵の具を刷いたような透明感のある青空が目に映った。

 最近はついていないことばかりで、気持ちが落ち込んでいた。折角の休日だが特に予定はなく、先ほどまで家にいたのだが妙に暗いことしか考えられなくて、気晴らしに散歩に出た。

 外の風に当たれば少しは気分が楽になるかと思ったが、ついつい下ばかりを見てしまっていて、今ようやっと視界が広がった。気持ちはまだ晴れないが、桃の匂いに思考が逸れる。

 これは何処から香ってくるのだろう。辺りを見回すが、普段の住宅地の風景しかない。道なりに歩を進め、いつもは曲がらない角を曲がってみた。

 そこから少し行った先に、小規模な果樹園があるのを見つけた。数本植わった木にはピンクに色づいた桃の実が幾つも生っており、風が吹く度に甘い香りが鼻孔を擽る。

 こんなところに果樹園なんてあっただろうか。不思議に思いながらも、心地良い香りと風景に頬が緩む。

 帰りに桃を買おうと考えながら踵を返した刹那、ふっと視界が自分の家の天井に変わった。ぼんやりとする頭で、今のは夢だったのかと思い至る。

「……桃、食べたかったなぁ」

 その日を境に、今までが嘘のように順調な日々が続くようになった。

 仕事の帰り、桃の入ったビニール袋を提げて近所を歩いてみたが、あの果樹園はもう何処にもなかった。

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