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リーベの形  作者: 梨くん
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傷モノ

拾った人間は状態が悪いらしいので

 どうしてこうなったんだろうか。私の目の前には白い手袋と黒い手袋が宙に浮いており、白い方が青いドレスを、黒いほうが空色のドレスを持って身振り手振り…身振り????いや、手振りだけで喧嘩のようなことをしている。その光景を隣に座って私と同じように見ている魔王。

「!、!!!…!?…!!!!!!!!!!!」

「?…~~!!~~~~!!!!!!!!!!」

だんだんと手袋の動きがエスカレートしてきた。

「うーん。どっちの意見もそうだねぇ。オレは青が好きだから白い君の方が好きかなぁー。」

「!?…………………………~~~。」 へたり…

「!?、!!~♪~♪」

どうやら決まったようだ。へにゃ、と空色のドレスと一緒に床に転がる黒手袋。それとは対照的に嬉しそうに青いドレスを揺らす白手袋。そして、コンコンとドアをノックする音が聞こえてきた。

「入っていいよ。」

魔王の一声と共にガチャリと扉を開けて入ってきたのはベージュ色に金の豪華な模様が刺繍されてある手袋だった。その手袋は手を重ね一礼するような手の動きをした後どうぞ、とでもいうように手を扉のほうへ向けた。

「準備できたの?ご苦労様。じゃあこのお人形さんをよろしくね。とって食べちゃダメだよ。」

この手袋も人間を食べるのだろうか。口などは見当たらないが。

そんなこと思っていると、立ち直ったようだ黒手袋が服の裾を引っ張ってくる。

「大丈夫だよお人形さん。この子たちはお世話が得意な魔物だから。オレよりも力加減は上手だし。」

そういう心配をしてるつもりじゃないのだけれど…。そんなことこの魔王に言ってもどうしようもない。黒手袋に引っ張られるようにして立ち上がるとそのままされるがままについていく。目の前をベージュの手袋が、私の横をドレスを持った白手袋が、そして黒手袋は私の両肩にちょこんと乗っている。話の流れだと私はお風呂に向かっているようだがそのあとはどうなるのだろう。よろしくとは言われたものの何をどうよろしくすればよいのだろうか。

数分歩いたところでベージュ手袋が一つの扉の前で止まる。そのまま扉を開けると優しい匂いと一緒にふわりとした湯気が顔に当たる。あったかい。本当にお湯だ。促されるまま中に入ると黒手袋が私の両手をつかんで上に持ち上げるとベージュが服をつかんでそのまま上へ。すると突然白手袋がぱさッと音を立ててドレスを落としてしまった。

咎めようとした黒手袋が硬直し、ベージュも同じように固まってしまう。どうしたんだろう?しばらく気まずい雰囲気が流れる。その流れを壊したのはベージュでお湯がたまっている浴槽に手を入れた後、私にふわふわのタオルを巻いた。そのまま促されるままにお湯に入る。あったかいけど、これ。傷に沁みて痛い!ビリビリする!でもタオルで隠れてるところはあんまり痛くない。もしかしてこのために?優しい…のかな?お礼言ったほうがいいよね?

「えっと…あの。あり、がとう?」

「!!!」

「!!!」

「…………。」

白と黒の手袋はなでなでと私の頭を撫で始めた。なんだか変な気持ち。村にいた時は少なからず羨ましかった触れ合い。遠くから見ていただけだったけど。あぁ、村の子供たちはこんな気持ちだったんだ。凄く、あったかい。


…………………………。

「…………。補佐がいつまでいじけてるの?」

「いえ、私はなんて可哀そうな魔族なんだと思っていただけです。私より不幸な魔族なんていません。」

「前々から人間を連れてくる用意はしてたでしょ。その時に察せない君の能力不足じゃない?」

「だからって!!ほんとに!!連れてくるとは思わないじゃないですか!!!!」

「何百年とオレのそばにいるくせに君はオレのこと何にもわかってないんだねぇ。かなしーなぁ。ショックすぎて君の首へし折っちゃいそう。」

「貴方が一度決めたことは絶ッッ対に曲げないクッッッソ面倒な性質をお持ちなことは理解してますよ!!それと!私以上に優秀な補佐官なんていませんからね!!!」

「そうだねぇ。だから困るよ。」

「こまっ!?」

「替え時が来ない。」

「首切られてたまるかぁぁぁ!!!」

「じゃあもっと優秀にならないとね。」

「有り得ない。本当に有り得ない。過労で死にそう。後で労働に関する制定を作らなければ。」

「それの最終決定権ってオレにあるよね?」

「だぁぁあ!くそ魔王!!」

「まぁ、提案書には目を通しておくよ。」

「どうせ目の前で燃やすんでしょう。そうだ。そうに決まってる。」

「流石オレの補佐官さん。よくわかってるね!」

「こっっっのっっっっ!!!!」

コンコン…。

「ん?」

「入っていいよ。」

いつものように会話をしていたらノック音に遮られる。ハンド達だろう。メンテナンスが終わったのだろうか。あれだけ汚れていた割には早く終わったな。

ドアを開けて入ってきたのは案の定まとめ役のベージュで何かを言いたそうにしている。

「~~。…。…。~。」

「薬だぁ!?人間ごときに我々の…ぐえっ。」

「君はうるさい。」

これ以上うるさくなる前に早々に押しのける。優秀だが口うるさいのが玉に瑕。

「どうしたの?自傷でもした?」

「×××。~~~。.........。~。~、…。」

「なるほどねぇ。報告ご苦労様。そういうことならすぐ用意するよ。君は戻って優しくしてあげてね。」

「!」

そのまま一礼して戻っていく。ハンド達は口がないからうるさくなくていい。そこの床で白目をむいて伸びている補佐官も彼女らを見習ってほしいものだ。

「君もあれぐらい静かだったらなぁ。」

「静かってレベルじゃないでしょう。あれは。」

「それじゃあ、オレは薬貰ってくるから邪魔しないでね。」

バタンと扉を閉めて魔王様は行ってしまった。あの方の突拍子もない行動は私の仕事の難易度と量を底上げしてくる。それでも従っているのはあの方以上に相応しい魔王候補がいないのと、あの方が底の見えない程の残虐性をお持ちだからだ。しかも当の本人はそれを自覚していない。息をするように他者の命を奪い、さも当然のことのように傷つける。まさに最高の魔王の器といえるだろう。そんなあの方に私が惹かれるのも至極当然だ。私は魔族だから。…………………そういえば居たな。私と同じくらい不幸な魔族が一人。

「…………。」

口うるさい子が追ってこないのを見るとやはり優秀なんだとつくづくおもう。きちんと引き際をわきまえている。もし、これ以上邪魔をするようなら手足の一、二本もぎ取るつもりでいたがそんなことをしなくて済んだ。

しかし、気になるのはベージュが報告してきたこと。体中傷だらけのあざだらけ。ほんの小さな切り傷ですら跡が残るほど痛々しくまだ赤みを帯びている新しい傷や古傷、治りかけの傷まであるらしい。あざに関しては皮膚が青や紫に変色し、大きいものは人の拳ほど、小さいものでもかなり内出血が進んでいて、あの小さな体を所狭しと蝕んでいる。もちろん自分でつけたわけではないだろう。自分にあれだけの傷をつけるくらいならさっさと死んだほうが早い。大方犯人たちの予想はついている。

間に合ってよかったというべきか。愛を知らない人間なんて中々いない。死ぬ前に回収できたのは幸運だった。まだ安心はできないが。なんせ傷で死ぬことは珍しいことじゃない。魔族だって傷つけば感染症で死ぬこともあるし、後遺症にもなる。それが人間ともなればその確率もぐんと上がるだろう。だから奇麗さっぱり治す必要がある。不安要素は今のうちに消しておくべきだ。

ほんの少しだけ足を進める速度を上げる。今向かっているのはこの城の地下室。そこには主に薬の制作や研究をしている魔族がいて、そのほかにも解剖、手術、治療などを受け負ってくれる。魔族に医療の概念を叩きこんだ面白い子だ。

ただ、自分の生活に疎く、いつ何時野垂れ死んでも何ら不思議のない子のため、多少心配になるのだ。彼が死んでは我らの死亡率が上がる。損失も大きい。

「生きてるといいなぁ。」

固く閉ざされた扉は並みの力では開かないようになっている。それを難なく開け、そのまま中へ入ると途端に顔にかかるのは様々な薬品が混ざった何とも言えない匂い。

薄暗く、いたるところに何に使うかもわからない道具や機械が散らばっている。さほど歩かないうちに奥のほうで何かか動く音が聞こえてきた。

「よかった、生きてたみたいだね。」

「ぎゃあ!!」

ガシャンという音と共に地に伏すお目当ての子。

「ちょっと、キルファ様ぁぁあ………………いきなり現れないでくださいよぉぉ。僕の研究最初からになっちゃったじゃないスかぁぁぁ…。はぁぁぁぁぁぁ…………………………。」

「次から気を付けるね。そんなことより傷とあざ治す薬ある?」

「傷とあざぁ?ありますけどぉ……………まさかキルファ様怪我したんで?スゲェ人間もいたもんだなぁ。尊敬尊敬。」

「オレはしてないけどね。拾った人間さんが酷い怪我してて悪化する前に治したいの。」

「そうっスよね、キルファ様が怪我なんかするわけ……………………はあぁぁあああぁああ?????いっ、今!今!!人間って言った!人間って!!!うわぁああキルファ様がご乱心だぁぁぁぁああ!!だっ、だれかぁぁぁぁ!!」

「君も下剋上かな?」

「嫌っス!勘弁っス!!まだ生きてたい!!」

「じゃあ出して。」

「ま、まさか!まさかまさかまさか!!僕の薬を人間に使うおつもりで!?僕の腕一本切り落としたあの忌まわしい種族に!?!?まだ腕生やす薬完成してないのに!?うーわ最悪!!無理。無理無理無理無理!!!やだ!スゲェやだ!!あああぁぁぁああ………あんまりっスよぉぉキルファ様ぁぁ…。」

「残りの腕五本全部オレがもぎ取れば魔族であっても出血多量で死んじゃうね。」

「イカれてやがるよこの魔王!!!」

「さーて、どこの棚かなー。」

「!?ア゜!ちょ、ちょっと待ってください!?ちょっと待って!キルファ様!?キルファ様やめて!ぐちゃぐちゃ!ぐちゃぐちゃなっちゃう!!ア、ソノタナサワンナイデ!ア、ダメ!わかった!わかりました!!!渡します!渡すから!!言う通りにしますから!!!ぐちゃぐちゃにしないでぇぇぇぇええ!!」

「…………。素直だねぇ。いい子いい子」

「はぁ、はぁ…。はぁ、はぁ。僕を動かす方法を…よくお分かりで…あぁあ。」

「君とは長い付き合いだからねぇ。」

「速やかな世代交代を望みまス…。」

「まだ、オレを超える子はいないかなぁ…。」

「でしょうね!!いたら怖いっスよ!!冗談の一つも通じないんだから…はぁ。えっと傷とあざ.......。傷とあざ。あった。どうぞ、お納めください。」

「うん、ありがとう。もう用は済んだからオレは帰るけど、君も少しは上に顔だしなよ。診療所の子たちが会いたがってるからさ。」

「気が向いたらっスね。」

「あと。」

「まだ何かあるんですか。無理難題は勘弁っスよ。」

「君ちゃんと食べてる?」

「え?あ、はあ。食べてると…思うんスけど。急になんスか。怖いんですが。僕、まだ死にたくないっスからね。」

「一体君達はオレをなんだと思ってるのかなぁ。」

「邪知暴虐の素敵な魔王様。」

「うーん。」

それは貶しているのか褒めているのか。

「前来た時より瘦せたようだから気になっただけだよ。研究熱心なのはいいことだけど君が野垂れ死んだら割と困るんだよね。」

「よく見てるんスね。恐縮恐縮。」

「もちろん見てるよ。オレには君が必要だもん。それじゃあね。」

それだけ言って帰ってしまう魔王様。あの人は最後にとんでもない爆弾発言をした自覚がないのか…。僕に素直だと言うがあの人のほうが誰よりも素直だと思う。

「ほんっっっとにそういう所だと思うっス。」

はぁ。本当に敵わない。


…………………………。

「ちゃんと効果があるといいけど。」

手に収まっている小瓶二つを握りしめ、向かう途中、ふと包帯やらなんやらの存在を思い出す。人間は自己再生能力が低い生き物だ。魔族とは違い、小さい傷でさえそういう道具が必要になるかもしれない。

「…………。」

念には念を。思い立つや否や踵を返した。

「さっきぶりだね!」

「ぎゃあ!!」 ガシャン!

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