表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リーベの形  作者: 梨くん
16/19

おやすみ

ぐっすりと

 「おかしい…。おかしいよ…。」

階段を上がっていくにつれてもごもごと不満が増えていくお人形さん。こんな調子じゃ部屋につく頃には呪いの一つでも詠唱できるんじゃないかな。

「耳元でぼそぼそ言われるとくすぐったいんだけれど…?」

そう言って少しだけ首を動かす魔王。だって、考えてほしい。これから人類の脅威といわれるあの魔王の部屋に強制的にお邪魔するというだけでも心臓が破裂しそうなほど緊張するというのにそれどころか泊まるときた。愚痴の百や二百言いたくもなる。

「じゃあ帰して、ください。」

「うーん。無理かなぁ。引き受けちゃったからねぇ。」

そもそもなんでこの魔王はこんなこと引き受けたんだろう?不快じゃないのかな?安眠を邪魔されるかもしれないのに。

「どう、して?」

「頼まれたから。」

率直すぎる。頼まれたから引き受けるって、そんな魔王がいていいの?その理屈で言えば私の帰してという頼みも引き受けないとおかしい。さっきから愚痴と一緒に降ろして、帰してと必死に訴えているのに足は止まることなくどんどん魔王の部屋に近づいている。

「着いたよ。」

「やだぁ…。」

見るからに立派な扉の前に到着してしまった。どうしよう、これで部屋の中がとんでもない状態だったら。血の付いた変な武器だったり、血痕が壁についてたらまず私は間違いなく現実逃避のために気絶する。魔王の部屋ってことはやっぱり不気味で暗くて、人間にはおおよそ想像もできないようなおぞましい状態だろうから。おっきい蛇とかいたり?人を食べるような植物があったり?

考えつく限りの最悪な状態を想像しては冷や汗がでて、血の気も引いていく。

「そんなに怖がらなくても何もないよ。」

「…やだよぉ…。」

その言葉を聞いても全然安心できない。何もないわけがない。だって、魔王の部屋だもん。

「そこまで嫌がられると悲しくなってくるなぁ。」

うそ。全然悲しそうな顔してない。いつもの薄笑い。魔王の目も少し怖くて苦手だけれど、この表情が変わらないのも怖い。表情が変わらないだけでこんなにも不気味に感じるなんて思ってなかったからなおさら。

精一杯の不満を目で訴えているがそんなことはお構いなしに魔王が扉に手をかけた。いよいよ扉が開く。きぃ、と微かな音を立てて動く扉を固唾をのんで見ていればあらわになる内装。

「え。」

…。身構えていた割には変わった物はない。血痕もないし、荒れてもいない。人を食べそうな植物もなければ蛇やそのほかの動物がいる様子もない。ただ、私の部屋より一回りほど広くて立派だ。宝石など見当たらないのにどうしてここまで立派に見えるのだろう。また、カーペットとカーテン、天井ベットのカーテンが青くて私の部屋とは違う。ベットも少し大きい気がする。想像とはかけ離れた部屋にひとまず安堵した。

「ね?何もないでしょ。」

「うん…。蛇いない。」

「お人形さんはオレを何だと思ってるの???」

「…。へんなひと…。」

「へん…。」

そう考えてしまうのも仕方がないもとはと言えば常識のない魔王が悪いと思う。私多分悪くない。そのまま部屋の中に入るとベットに降ろされる。やっぱりふかふかだ。

「はい、じゃあお人形さんは寝る時間。」

「私、寝れないよ。」

「まずは横になって。問題はそれから。」

言われたとおりに横になって、シーツを被る。私が横になると魔王はベットに座った。てっきり隣に寝るのかと身構えていたのに。まさか、ここで一晩中見てるつもりなのだろうか。

「このまま見てるの?」

「そうしてもいいけど、それじゃ寝れないでしょ。まずは慣れてもらおうかな。」

「慣れる?」

「そう。まずはベットに慣れる。寝るのはそれから。だから今はそのままでね。無理に寝ようとしなくていいよ。」

「でも。」

「暇ならオレとお話ししてよう。トルとポルと同じように。オレはもっとお人形さんのこと知りたいしね。」

どうやら拒否権はなさそうだ。それにどうせ寝れないからずっとこのまま何もしないで起きているより話して気を紛らわせたほうがきっといい。

「何を話せばいいの?」

「なんでもいいよ。お人形さんのやりたいことでも、お人形さんがオレに聞きたいことでも。」

「えっと、じゃあ、魔王さんは何が好きなの?」

「キルファでいいのに。オレの好きなものかぁ、たくさんあるけどやっぱり一番は星かな。綺麗だからね。後は青、甘いものも好き。」

「星?意外。」

てっきり血なまぐさいものを想像していた。拷問とか。虐殺とか。

「魔王らしくないとはよく言われるけど。お人形さんは?」

「まだわからない。美味しい料理も好きだし、本も好き。あったかいものも多分好き。ふかふかも好き。でも、最後には私、苦しくなっちゃう。」

「苦しく?どうして?」

「わからない。私が何かを好きになるなんて許されてなかったから…魔王さんはならないの?」

「ならないかなぁ。」

「羨ましい。」

「そう?オレからしたら愛を持ってる君たち人間のほうが羨ましいよ。」

また愛。どうしてそこまでこの魔王は愛にこだわるんだろう。

「どうして愛にこだわるの?」

「持ってないものを欲しいと、知らないことを理解したいと思うのは当然でしょ。周りが持ってないのならなおさら自分が欲しくなる。知りたいこと、欲しいもの、食べたいもの、見たいもの、触れたいもの…オレたち魔族はそういう欲を満たすために生きてる。それがどんな欲であれ満たしたいことに変わりはないし諦めることもしない。欲のために命が必要なら喜んで死ぬしあるいは殺す。欲望に忠実な生き物。オレはその対象が愛なだけ。何もおかしくはないでしょ?」

「じゃあ、なんで私なの?私、愛なんて知らないからあなたの役には立てない。」

「お人形さんは鳥のヒナを育てたことはある?」

「ない。それどころじゃなかった。」

私があの村にいて仮に鳥のヒナを見つけていたらまず間違いなく食べてた。ヒナを育てる余裕なんてなかったし、パンくずしか食べてなかった私にとって鳥は貴重なお肉になってただろうから。

「オレはカラスのヒナを拾ったことがあるんだけど、その子が飛べるようになった時凄く驚いたの。オレ教えてなんかいなかったのにいつの間にか飛べるようになってた。凄いよね。本能で飛べるようになってるんだもん。お人形さんはそれと同じ。お人形さんが人間である限り必ず愛はある。愛は君たち人間の本能だからね。オレはそれを観察したい。最初から最後まで。だから愛を知らないお人形さんはオレにとって都合がいいってこと。愛を知らないお人形さんが愛を知った時、すぐ近くで観察していればオレも理解できるかもしれないでしょ?」

「愛は勝手には生まれないと思うんだけど…。」

「色々試してみるつもり。まずはお人形さんを大切にしてみる。これは何年か前に教えてもらった愛のカタチ。一番興味があったからちょうどよかった。」

「…。」

まるでペットか家畜のような認識のされ方だ。実験体にされている気分。けど魔族側の人間に対する認識なんてそんなものなのかもしれない。

「他にはないの?聞きたいこと。話したいこと。全部教えて。」

「そんなこと急に言われても…。」

「じゃあ、オレが質問。お人形さんは人間だよね?親はいないの?それともオレが燃やした中にいた?だったらもったいなかったな。なんでお人形さんをこんな状態にしたのか聞いておけばよかった。」

やっぱり魔王だ。とんでもない思考回路をしている。

「いないよ。あの村にはいない。」

「そうなの?ならいいや。」

「私は捨てられたの。朧げな記憶もないほど小さいころに。もしかしたら生まれてすぐかもしれない。理由は多分この目と髪の色。人間離れしてる髪色だし、目は色が変わっちゃう。気味が悪いって思われちゃったんだ。村にいたころだって気持ち悪いとか、魔族とか言われてたし。だから親の顔も知らない。どこにいるかも。何をしているのかも。今生きてるのかさえも何もわからない。」

「そうなんだ。会いたいとかは思わないの?人間って家族を大事にするでしょ?」

「私を捨てた人たちに会いたいとは思わないよ。それにきっと親も私を捨てるくらいだから会いたいとは思ってないと思う。」

それに今更何の希望も期待も抱いてはいない。捨てられた時点で私は私の親が嫌いだ。捨てるぐらいなら殺せばよかったのに。そうすればこんなに苦しむこともなかった。

「子供を捨てるなんて人間も変なことするねぇ。時には命を懸けて守ったりするくせに。」

「それは全員じゃないよ…私の親がそうじゃなかったみたいに…ふぁぁ.........。」

あれ?私、今…?

「眠くなってきたの?」

「そ、んなはず。私、寝れない。だって…。」

怖いから。不安だから。寝て目が覚める瞬間を考えると寝れないから。薄暗い部屋で揺れる影を見て、眠ろうと努力はしてたのに目をつぶると不安がどんどん押し寄せてきて心臓がバクバクなって、最初に見る景色が違っているんじゃないかってずっと。ずっとずっと…こわ…あれ?そういえば今日、私…体こわばってない?いつも、寝なきゃって思って横になるけど意識しちゃって全然力抜けなかったのに。なんで。いつの間に?会話に集中してたから?

「試しに目を瞑ってみたら?」

「でも。」

「目を瞑るのが怖いの?なら手伝ってあげる。」

どうやって、と口にする前にスッと目の前が暗くなる。これは魔王の手だ。今、魔王の手が私の目を覆っている。暗い。でもどうしてだろう、全然怖くない。いつもならすぐ不安になるのに。不思議と私の心は落ち着いている。

「そのままゆっくり息して。何も考えなくていいよ。ただずっと呼吸の音だけ聞いてればいい。」

言われた通りにゆっくり呼吸する。…。暗い視界、あったかい布団、静かな部屋、いつもと違って心地よく感じる。しばらくそのままでいるとだんだんと呼吸音が遠くなってきた。瞼が自然に重くなって、頭がぼんやりしてきて…それで…。

「…。」

お人形さんの呼吸が無意識なものに変わったのを確認するとどうやら無事に寝れたみたいだ。そっと、手をのけるとちゃんと閉じている。こうしてみると本当に人形みたいだ。動かないし、感情の起伏も乏しい。部屋に連れてきた時もそうだけどもっと泣くなり喚くなりしてもよいと思うのだけれど。従順、とは違う。かといって反抗するわけでもない。アルコルが報告した通り、諦めているというのが一番近い。だからこそ興味がある。この子が愛を知った時にどんな風に変わるのか。今から楽しみだね、お人形さん。


…………………………。

「ん…。」

瞼に刺す僅かな光と鳥の声で意識が浮上していくのを感じる。瞼を開くとぼんやりとした視界の大半が白い。赤じゃない。つまり、カーペットじゃない。じゃあここは?ここまで考えたところで昨日のことを思い出してハッとする。昨日の記憶が夢や幻覚じゃないことは私が今シーツに寝てることで証明された。要するに今は暢気に寝てる場合じゃないということ。ここは魔王の部屋、今魔王のベットで寝てる。寝てしまった。というか寝れた。ぐっすりと。我ながらどうかしている。

小さなため息をついて起き上がろうとしたところで違和感。…。起き上がれない。体が重いとか動かないとかじゃなくて、誰かに押さえつけられているような。そういえば、お腹に不自然な感触がある気がする。…。今、嫌な考えが頭によぎった。ここは魔王の部屋。そしてそのベットを私は使ってしまっている。じゃあ、当の本人はどこで寝るのか。床?そんなわけがない。恐る恐る布団をめくろうとしたところでグイっと体が引き寄せられた。

「!?」

驚いて後ろを見れば布団ではない何かが体に当たる。それと同時に私のものではない呼吸音。ここまでくればもうわかる。お腹の違和感。背中に当たる硬い感触。呼吸音に視界にチラつく綺麗な糸束。そーっと目線を上げれば端正な顔が鎮座していた。いつもと違うところをあげるとするなら、特徴的な瞳は隠れて見えず、弧を描いている口元は自然な形で閉じている。魔王って寝るんだ、という場違いな感想を抱きつつ今の状況を整理する。背後に魔王、腹部にまわされている腕、呼吸音が聞こえるほど密着している体制。間違いない、抱き枕状態だ。嘘でしょう?朝起きたら魔王の腕の中、という人間が聞いたら卒倒しそうな状況下に置かれている。最初に腕の中で気絶するように寝てしまった私が言えることではないけれど。こうしてはいられない。何とかして距離を取らないと。この近距離で、状況で目を覚まされたらちょっと私頭真っ白になっちゃう。

腹部にまわされている手をどかそうとするがビクともしなかった。寝てる?本当に寝てるの?寝てる人の力じゃないと思うんだけど。チラッと確認すればやっぱり目は閉じている。ぐぐぐ、と結構な力を込めて再びどかそうとするが、全然動かない。どうして…。なんとか腕の拘束から逃げようと身をよじったり、どかせないのならと下から上から抜け出そうとごそごそしていると背後で大きな動きがあった。

「ん、なに。…。」

「あ。」

起きちゃった。起きてしまった。動けないでいると魔王はゆっくりと半身を起こしてどこか上の空という雰囲気でじっとしている。

「あさ…。ん?」

「えっと。」

まだ眠そうな目でこちらを見る魔王。

「…。だ、れ。きみ。」

「え?」

「…。?あぁ、おにんぎょう、さん。…。なんで、いるの?」

「なんでって。」

「まぁいいや。…。さむい。」

「わっ!」

ボスッと、再度ベットに潜り込む魔王。また引き寄せられて抱き枕にされる。起きたんじゃなかったの!?

「は、なして。」

「きみはあったかいねぇ。」

「え?ちょ、ね、るの?また?」

目を瞑ったかと思ったらまた寝息を立て始める魔王。この状況で二度寝?パンクしそうになる頭でふとアルコルが言っていたことを思い出す。魔王は朝に弱い。こ、こういうこと?どうしよう。私、もしかして魔王が起きるまでこのまま?

「お、きて。」

「ん。」

駄目だ、全然起きない。助けて…。動けずに困っているとコンコンとドアがノックされて入ってきたのはアルコルだった。あ、た、助けて!

「おはようございま……。」

「.........。あ。」

「…。」 ばたん

「ええ!?」

目が合ったかと思えばスッと扉を閉じられる。え!?どうして!?ようやく現れた助けが出て行ってしまい、絶望していると少し間をおいてまた扉が開いた。

「疲れすぎですかね。今、ありえないものが…。」

いつも通り朝に弱い魔王様を起こしに行ったら人間と目が合った気がしたがきっと幻覚だろう。そんなことありえないのだから。あの、人間がまさか魔王様と同じベットで寝てるなんてこと、そもそも入れるはずないではないか。魔王の部屋だぞ?魔王様が自ら招き入れない限りそんなこと起きはしないし、魔王様も安眠の邪魔をされたくはないはずだ。きっと私の幻覚だ。疲れすぎているあまり変な幻覚を見たんだ。そうに違いない。あとで休暇を申請しよう。

こめかみを抑えて再びドアを開ける。

「おh…。」

「あの…。」

「ぎゃああああぁぁぁ!?幻覚じゃない!?!?!?」

朝起きてからローディングに時間がかかるタイプの魔王様

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ