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リーベの形  作者: 梨くん
15/19

かくなるうえは

最終兵器はまさかの…

 今日も朝からドアがノックされてサビクさんが入ってくる。そしていつものように私の傷の具合を見ては膝から崩れ落ちた。これで何度目だろう。もう慣れてしまった。数日前から新しい薬を試しては膝から崩れ落ち、また新しい薬を試しては崩れ落ちを繰り返している。最初は薄かった目元の隈も濃くなり、今にも死にそうな顔をしている。

「あー…治ってない。またしてもダメ。いったいなぜ?何が悪いって言うんスか…やばい。もう、キルファ様に首差し出したほうがマシなのでは…?こんな役立たずの魔族一匹消えてもなんもならんでしょ…。」

「サビクさん。その…。」

「栄養のあるご飯食べてる、質の良い寝具で寝てる、風呂も入ってる…。やっぱり僕のせいだ…。キルファ様…僕はもう合わせる顔どころか何もありはしないようでス…はぁぁぁぁぁ。こんな役立たず消えてしまいたい。あぁ…こんな小娘の治療すら満足にできないんだ…そりゃ、腕生える薬なんて夢のまた夢…。ははは…。」

どんよりとした空気を纏い、私を診察していくサビクさん。…。だんだん申し訳なくなってきた。なぜなら私はいまだに床で寝ている。どうしても暖かいベットで寝ることができない。本当に床でしか寝れないのだ。そのことを伝えようと口を開いたところでベージュの手袋がサビクさんの肩を叩く。

「?なんでスか…?あぁ、申し訳ないっスね。お前たちも頑張ってくれてるのに僕が無能で…。え?違う?なに?………寝てない?寝具で?…………………………は?」

私が先に言う前に手袋が伝えたらしい。みるみるサビクさんの目が開いていく。さっきまで開いているかどうかも怪しかったのに。

「はぁぁぁぁぁ!!??ど、どういうことっスか!?寝てない!?寝具で!?床ぁぁあ!?ばっかじゃねぇの!?!?え?ずっと?前から!?は!?え、じゃあ、もうそれが原因じゃないスか!!!え?じゃあ僕の努力は!?僕の睡眠時間は!?無駄ってこと!?おまっ、ちょ、み、ミラ様!?」

凄い驚いた顔でこちらを見てくるので気まずそうにこくんと頷けばガシィッと両肩と腕、腰を掴まれる。

「馬鹿なんでスか!?ねぇ、馬鹿なの!?えぇ!?はぁぁ?今までの僕の努力返して!時間も返せ!もぉー!!真剣になってた僕が報われないにもほどがある!!もー人間嫌い!さらに嫌い!大っ嫌い!!」

す、凄い剣幕だ。

「僕がどれだけ頭働かせてたかわかりまス!?一日中研究室籠って薬作って…ってもう!!うぅぅ…。キルファ様にどう首差し出すかも片隅にあったのにぃ。」

「ご、めんなさい。」

そう絞り出せば少しの沈黙の後今まで聞いたことない大きなため息をついてサビクさんの腕がするすると離れていった。そのまま顔を覆って、しゃがみ込み残りの腕は膝を抱えてしまう。

「ありえない…。ショック…。眠いし…。」

少し籠った声でぼそぼそと呟き続けるサビクさん。これは…相当最低なことをしてしまった。そのまま呟いているとサビクさんのおでこにかかっていた眼鏡がことりと床に落ちてしまう。しかしそれを拾う様子はない。それどころではないらしい。こうなったのは十中八九私のせいだ。なら私が何とかしなければ。そっと、眼鏡を拾って声を掛ける。

「サビクさん。」

「なんスか。」

「ごめんなさい。全部私が悪いんです。」

「しってまス。僕の薬は完璧だったのに…それなのに。」

「ごめんなさい。でも私ずっと床で寝てたからかベットで寝れなくて。ごめんなさい。」

「…。なんで言わなかったんスか。」

「だって私、迷惑だし。言ってもきっと変わらないだろうから。」

「迷惑なのは言わないほうっスよ。それに変わる変わらないはミラ様が独断で決めていいものじゃないっス。医者という存在がいるのなら。」

「ごめんなさい。」

謝るとサビクさんは顔を上げた。何となく安心したような顔をしている。そのまま眼鏡を受け取っておでこに戻すと私のほうを向きながら静かに立ち上がった。

「もういいっス。ミラ様の事情はわかりました。それに僕の薬は完璧ってことが今わかったんでね。はぁ。次から必ず何かあったら言うこと。わかったっスか?」

「うん。もう、隠したりしない。」

「当たり前っスよ!次何か隠したらどんな手を使ってでも吐かせてやるっスからね!それと!今日からちゃんと布団で寝ること!!」

「うん。頑張ってみる。」

「頑張ってみるじゃない!!やるの!!ったく、何考えてるんスか。もう葉の燃ゆる季節っスよ!?寒くなるの!!一気に!!そうなったらもう免疫低下!ウイルス増加!体調悪化!即死亡!の四段拍子っスからね!?」

なんて極端な…。

「わかったら今日は布団で寝ること!もう僕は帰りまスからね!誰かさんのせいで寝てないんスから!今日は飴ちゃんあげないっス!!この悪い子!!」

そう言い残してサビクさんは部屋を出て行ってしまった。布団で寝る…。それが私にとってどんなに難しいか…。布団に入って目を閉じた瞬間から言いようもないほどの心細さに襲われる。これは都合のいい夢なんじゃないか、朝起きたら全てなくなってまたあの村にいるんじゃないか。また、殴られて、貶されて、誰も私の言葉を聞いてくれないんじゃないかって。この生活に慣れてしまったらもう二度と戻れなくて、この都合のいい夢から覚めた時、私はきっと耐えられない。今までずっとパンの味しか知らなかった、硬い床の質感しか感じなかった、無知を恥じるどころか学ぼうとも思わなかった。他人の温もりなんてもってのほか、それが今はどうだ。美味しいご飯が三食必ず出てくる、ふかふかのベットやタオルに触れられる、本が読める、何かを知りたいと思える…他人の体温を覚えている。あぁ、駄目だ。これに慣れちゃ。いっそのこと何も与えなくてよかったのに。そうすればこんな、こんな幸せの片鱗に縋るような感情なんて抱かなかった。手袋たちに優しくされるたび喉が締まって、本を読むたび胸が苦しくなる。サビクさんが真剣に私のために薬を作っていると知ってからもそうだ。どうしようもなく苦しい。どうして、私なんかに。あたたかいのが怖い。ここの魔族たちの優しさがある日突然消えてしまう…それがどうしようもなく怖くて。怖くて。苦しい。もうこれ以上苦しみたくはない。だからもう優しくしないでほしい。希望を抱かせないでほしい。諦めさせて。これ以上縋らせないで。これ以上この感情の蓋を緩めないで。押し込ませて、殺させて…私をどうか…。

ベットのシーツを握り込む。今日も違う匂いが鼻をかすめた。毎日毎日違ういい香りがする。枕も日に日にふかふかになっていって、サイドテーブルには火をつけるといい匂いのする蠟燭が置かれた。バルコニーにはいつの間にか大きい花瓶が置かれて煌びやかとした花が咲いている。寝間着もふわふわカーペットでさえ初めよりも心地の良いものになっている。もう、やめてほしい。これ以上私を駄目にしないでほしい。ほらまた、胸が痛む。


…………………………。

後日、ハンド達からまた床で寝ていたと聞いて怒りを通り越して呆れた。これだけ言ってもダメなのかあの人間は。呆れ顔で診察にいけば気まずそうな顔をしている。

「ごめんなさい。」

開口一番これだ。悪いとわかったうえで改善しないのだから救いようがない。もうどうしようもない馬鹿だ。馬鹿を治す薬など存在しない。となれば実力行使一択。

「そっちがその気なら僕たちだってそれ相応の対応しまスからね。」

「でも。」

「でもじゃないでス。今日、ベットで寝なかった場合次の日から覚悟決めてもらいまス。」

「な、にを?」

「秘密。」

冷たい目で淡々と告げられる。一体何をされるのだろう…。縛り付けるとか、一日中手袋たちが私を見張るとか?

「もう、決めたんでスから。ハンドたちと。なのでハンドたちは助けてくれないっスからね。」

「努力は…します。」

「怖いもの知らずで結構結構。マジで。後悔。するなよ。小娘。」

念入りに釘を指して出て行ってしまうサビクさん。でも、いくら脅されても私きっと布団で寝れない。もちろん試した。何回も何回も。でも決まって目を閉じると怖くなって押しつぶされそうになって、どうしても床に横になってしまう。たとえ全身麻縄で縛られようと、手袋に見られてようと多分結果は変わらない。

今夜、手袋たちに念入りに寝かしつけられる。日を増すごとに丁寧になっていきチクチクと痛みも増すばかり。今日も駄目そう。手袋たちが出て行ったのを見計らって床に降り、目を閉じた。床に寝ることは慣れている。だから目を閉じればすぐに意識は薄らいで周りの音も聞こえなくなっていった。

少女が寝た少しあと、小さい音を立ててドアが少しだけ開き、手袋たちと一人の魔族が様子を伺っては互いに落胆した。

”あーーー!!駄目だわ!今日も駄目!!”

”あれだけ言ったのになんてこと!!”

”それではやはりあの方法を取るしかないのですね。サビク様。”

「そうっスねぇ。これだけ言ってもダメなら強制的に治すしかないっス。」

”あぁ、そんな。強制だけはやめて差し上げたかったのに。”

”仕方ないのね。”

”そうね。では早速行動に移すとしましょう。魔王様に報告よ。”

「じゃあ、あとはよろしくっス。」

”かしこまりました。サビク様。”


…………………………。

数を数えるのも億劫になるほどの書類を処理しているとコンコンと軽い音が響いて顔を上げる。許可を出せば入ってきたのはハンド達だった。珍しい。

「こんな夜更けにどうしたの?もうすぐ君たちの活動限界じゃない?」

マイアハンドは実態を持たない魔物。それ故闇に溶ける性質がある。もとはと言えば暗闇に住んでいる煙のような存在だ。もっとも闇が濃くなる日付が変わる時間帯は彼女らの意思とは関係なく元居た闇に溶けて、日が差す頃に再度手袋の姿を形作る。本来ならば、もうすでに各自の部屋に戻っているはずだが今日は違うらしい。

”夜分遅くに失礼いたします魔王様。どうしても報告をしておかねばならないと思い参りました。”

”ミラ様のことです!”

”サビク様の許可も取ってあります!”

「へぇ。体調でも悪くなった?もう木の葉が燃ゆる季節だからねぇ。それにあれ以降お人形さんに会えてないからなぁ。死んじゃうのは嫌かな。」

”その…。”

彼女たちの報告とその改善策に思わず吹き出す。これを許可したのか、サビクは。これは相当切羽詰まっているに違いない。でなければこんな無謀なこと魔王のオレに提案などしてくるものか。

「いいよ、引き受けてあげる。別に支障はないしね。」

”ありがとうございます。”

”でも、本当にいいのかしら?”

”仕方ないわよ。”

”上手くいくのかしら?”

”いってもらわないと困るわね。最終手段なんだもの。”

”慎みなさい。あなたたち。魔王様の御前よ。”

”ごめんなさい、お姉さま。”

”ごめんなさい。”

「別にいいのに。」

”そうはいきません。”

「君は真面目だね。」

”光栄です。”

「まぁ、いいや。日付が変わるまであと少し。オレの目の前で消えるつもりなの?」

”ちっ違います!魔王様!今出て行きますわ!”

”し、失礼しますわ!”

”それでは失礼いたします。”

「ご苦労様。」

パタンと静かに閉じるドア。あの、サビクが。人間嫌いなあの子が人間のためにオレを使おうと提案するなんて思いもしなかった。気が変わったのか、プライドなのか随分と熱心に治療してくれているようだ。アルコルがサビクを見かけた際に酷い隈を持っていたと報告してきたし、一段落着いたら休暇をあげるのもいいかもしれない。しかし、だとしてもこの提案は。

「思い切ったなぁ…。」


…………………………。

「はい、ミラ様おはようございまス。えー、今回も無事僕の言いつけ守らなかったッスね。お陰様で覚悟決めてもらうことになったんでよろしくッス。」

いつもの時間に私の部屋に来るサビクさん。今日はなんだか気分がよさそうだ。目が生き生きしている。

「元気そうだね、サビクさん。」

「そりゃあもう、やっと解放されるんで。嬉しさ爆発っスよ。もうね、ミラ様のこれからを考えれば勝手に笑いが零れるほどには。ちゃんと苦しめ。」

そんな、魔族が想像して笑うほどのことを私はこれからされるのか。縛り付けるなんてヤワなものではないのかもしれない。例えば無理やり気絶させられるとか、箱に入れられるとか…もう呆れられてしまって外に放り出されるのかもしれない。

「ミラ様の顔が見ものっスね。楽しみにしときまス。」

「私、放り出されるの?」

「さぁ、どうでしょう。ミラ様の態度次第っスかね。でもその確率はほぼゼロだと思うっスよ。」

「態度次第?」

「えぇ。あ、逃げ出しちゃ駄目っスよ。そもそも逃げられるとは思ってないっスが、一応でス。」

「逃げないよ。」

「そう言えるのも今のうちっスよ。あ、駄目笑いが…ふっ。」

何を想像したのか私の顔を見てはくすくすと笑っているサビクさん。本当に私何されるんだろう。そのまま診察を終えて帰ろうとしたところでコンコンとドアが鳴り、にゅるりとすり抜けて入ってきたのはマキュリーさん。手には数冊の本が抱えてある。

「よっ、ミラ…とサビクか。聞いてはいたがマジで人間の世話してんのな。人間嫌いのお前が。」

「マキュリー?なんでここにいるんスか?目薬切れた?今持ってないんで悪いんスけど研究所のほうに顔出して欲しいっス。」

「あぁ?ちげーよ。まだスペアがあんだわ。俺が用あんのはそっちのチビ。」

そう言って私のほうにスイーっと寄ってくるマキュリーさん。まだ包帯だらけの私を見た後、彼が渡してきたのは手に持っていた本だった。

「ほら、これ。もうそろ読み終わってる頃だと思ってな、追加。前回渡した本を少し深掘りしたやつだ。挿絵もついてるやつ選んできたからわかりやすいとは思うが…もっと簡単に見たかったら図鑑にする。」

本のタイトルを見ると魔獣や種族についての詳細な調査書(?)らしい。パラパラとめくれば所々絵が描いてある。

「いいの?」

「ん。」

「ありがとう、マキュリーさん。」

「別に礼を言われるほどじゃねぇよ。どーせ、あの無能に言われてこの部屋からあんま出られねぇんだろ?そんなんじゃ暇で死ぬわ。」

「出られないわけじゃないよ。私が出ないだけ。それにトルとポルが毎日話に来てくれるしマキュリーさんから貸してもらった本があるから。」

「へぇ。ならもっと図書館に来ればいい。なんなら毎日来い。毎日。」

「毎日は無理っスね。一般魔族のこともあるんで。」

「んだよ。別にいいだろ。」

「いや普通に、反感食らうでしょ。最悪目障りって理由でミラ様殺されるっス。」

「図書館で騒ぐ奴は俺がシバく。」

「返り打ちっスね、一本角。」

「うるせぇ、弱小角。」

お互い睨み合って喧嘩になりそうだったので慌てて口をはさむ。

「ま、毎日は無理…です。流石に読み切れないので、でもなるべく行くようにします。マキュリーさんが許してくれるなら。」

「あ?いつでも来いよ。許す許さないじゃねぇし。」

「ほどほどにお願いしまスよミラ様。まだ治ってないんスから。」

「テメェも無能か?サビク。」

「これは僕のせいじゃないっスね。」

「あっそ。じゃ、俺は戻るから。ちゃんと図書館来いよ?自分で選ぶのも楽しみだからな。」

「うん!」

「それでは僕も失礼しまスね。夕方ごろまたお伺いしまス。では。」

「…なんでドア開けないんスか。」

「必要ねぇから。」

「絶対その方法で僕の研究所入ってくるなよ。」

「俺の勝手だな。」

「最悪っスね。」

子競り合いをしながら二人は出て行ってしまった。後には不安だけが残る。いつも1日一回しか来ないはずのサビクさんが夕方に来る。つまりは夕方に何か起きるということ。今更だけれど怖くなってきた。


…………………………。

しかしどうすることもできなく、日は傾き始め、窓から差し込む光はオレンジ色に染まっている。なってしまった。夕方に。少し緊張しているとサビクさんが入ってきたのでさらに緊張した。

「朝ぶりでスね。ミラ様。」

「うん。ねぇ、私やっぱり何されてもベットで寝れないと思う…。」

「それはわかんないっスよ?あー、でもこれで駄目ならお手上げでスね。」

「そうなの?」

「はい。なのでこれで駄目だったらもう好きにしてくださいッス。」

「う、うん。」

つまり、最終手段ってこと?あぁ、どうしよう。きっととんでもないことをされるに違いない。心臓がバクバクと跳ねる中、まるでやってもいない罪で吊るしあげられるような感覚に陥る。それでも知らないよりはマシだろうから必死に目をつぶってサビクさんの言葉を待った。

瞬間、ふわっと少し冷たい風が頬を撫でる。驚いて顔を上げ、バルコニーの方向を見ればそこにいたのはここ数週間は見ていなかった魔王だった。そのまま、私の部屋に入ってきて流れるように私の隣に座る。さも当然のことのように。

「あ、え?」

「遅れちゃってごめんね。会議が思った以上に長引いちゃって面倒だったからアルコルに任せてきた。もう説明はしたの?」

「いえ、ナイスタイミングっスよキルファ様。これからでス。」

「なら良かった。」

ど、どいうことだろう?なんで魔王がここに?説明って?ま、まさかこれから起こることって…。

「えー、ミラ様には本日よりキルファ様と一緒に寝てもらいまス。」

「…ア゜…?」

ズドンと頭に殴られたような衝撃が走った。もしかしたら実際に殴られたのかもしれない。そう勘違いするほどサビクさんが言った言葉は私にとって衝撃的なものだった。頭が真っ白になって何も聞こえなくなってどこか遠くを見ているような近くを見ているような不思議な感覚に包まれる。

「おーい、ミラ様?あ、駄目だこれトんでる。キャパオーバーっスね。」

「…。お人形さん?本当にお人形になるつもりなの?」

パチン、目の前で手を叩かれて我に返った。長いような短いような感覚。これ、嫌だ。

「おかえりなさい。」

「あ、え…や、だ。」

「ミラ様に拒否権はないっスね。自業自得でス。何度言っても聞かないような馬鹿には一度痛い目見せたほうが効果あるんスよ。」

「オレ痛い目なの?」

「人間にとっては痛いどころじゃないと思いまス。」

「さ、サビクさん…し、縛り付けるんじゃなかったの…?」

「は?そんなことして寝れるわけないじゃないでスか。」

「多分こっちのほうが寝れないと思います。本当に。あの、ちゃんと寝ます。頑張ります。だから…。」

これだけはやめてください…!だって、おかしい。ね、寝れないからって魔王と一緒に寝ようってならないと思う!普通は!おかしい!ど、どうにか…。

「あー、だから忠告したんスよ。残念でスね。自分から無駄にしちゃって。」

「うっ。」

ぐうの音も出ないとは多分このこと。でもだからって!!

「もう決まっちゃったことなんで。とりあえず一晩試してみたらどうスか?人肌が恋しいだけかもしれないっスよ?」

「ひ、ひとでなし…。」

「あ、そういえばそうっスね。ざまぁみろ小娘とでも言っておきまス。」

誇らしげにこちらを見つめるサビクさん。ひ、酷い。絶望していると手袋たちが視界に入った。そうだ!まだ手袋たちがいた。助けてほしいと目線を送るがそれを嘲笑うかのようにサビクさんが口を開く。

「お忘れっスか?言ったでしょ?僕たちで決めたことだって。ハンドたちも仲間っスよ。」

「そ、んな。」

再び絶望する。アルコルの言った通りこのお城に私の味方なんていないんだ。最後の望みだった手袋たちを簡単に否定され、項垂れる。

「オレ悪者みたいだねぇ。」

もうそれでいい。わるものだ。わるもの。

「ということでキルファ様。後はよろしくっス。」

「うん。じゃ、行こうかお人形さん。」

ひょいっとまた軽々しく抱えられる。はぁ、もう観念するしかなさそうだ。どうせ逃げられない。腹をくくろう。頭からとって食べられたりはしないはずだし、これまで怪我をさせられたこともない。村の人たちよりは何倍もいいはずなんだから。たとえそれが魔王だとしても。

諦めて魔王の首に手をまわす。この魔王は背が高いからこうしてないと怖い。そしてちゃんと体温がある。いっそのこと氷のように冷たければよかったのに!!

「では、健闘を祈るっスよ、ミラ様。良薬は口に苦しって言葉がありまスんでなんとかなるっス。多分!」

「…………劇薬だよ…。」

お人形さんを抱えて部屋から出るときにサビクがかけた言葉に対して、小さく耳元で聞こえてきた反抗の言葉に思わず笑ってしまった。確かにその通りだと納得もする。このお人形さんは案外ここの魔族たちと上手くいっているようだ。

吉と出るか凶とでるか…それとも…?

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