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リーベの形  作者: 梨くん
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いざ行かん

掴めるモノは何でも掴め

 「なぁ、ガネットそろそろ機嫌直せって…誤解は解けただろ?」

ため息交じりに彼女と俺の分の料理をテーブルへ運ぶ。ここは王都のレストラン。いつもは宿屋の下にある酒場なのだか帰りが遅くなったため治安の良いレストランを選んでいる。夜の酒場ほどめんどくさい輩が溜まる場所は他にない。面倒ごとは起こさぬが吉だ。なんせ冒険者のランクには日頃の世間体も加味される。問題を起こせばすぐ通報、連絡、降格の三段拍子だ。上がるのに時間はかかるのに下がるのはあっという間。だからこそ、ランクが上の冒険者はまともなやつが多い。

椅子に座って向き合うと彼女はむすっと顔を膨らませて不服そうにこちらを見ている。誤解は解けたんだ。そんな顔しなくてもいいだろ。

「解けたけど…ショックだったんだもん。」

俺からフォークとナイフを受け取り、姿勢を正すガネット。様になるものだな。流石は王族といったところか。俺は仕草は全く知らない。相手に不快感を与えない程度に食えればそれでいいと思ってる。だからこそ、彼女は酒場で大いに浮くことだろう。財布には多少の痛手だが、もとはと言えば俺のせいだ。

「それは、本当にすまなかったと思ってる。」

「ほんとに?」

「誓う。」

「はぁ、じゃあいっか。いいよもう。ご飯食べよ!」

「いただきます。」

「いただきまーす!」

ガネットの食器使いは素人の俺が見ても洗練されてることはわかった。音が一切しない。どうやってるんだそれ。

「!おいしーい!!」

「それはよかった。口に合わないかと心配してたんだ。」

「もーカイヤくんってば毎日そればっかりだね。そんなに心配しなくてもアタシは気に入らないからって料理を投げたりしないよ。それに、今のほうが断然おいしいから。」

「そんなにここの料理人の腕がいいのか?」

「うん。それもあるけど。カイヤくんと一緒だからかな。」

「俺と?なんでそれだけで美味しくなる?まさか自分だけ食器を上手く使える優越感でか!?」

「カイヤくんはアタシがそんな性格の悪い子に見えるの!?もう!誰かと一緒に食べると美味しくなるの!今まで部屋で一人で食べてたから!寂しくないの!」

「冗談だよ。俺もガネットと食べると美味しい。」

「え!ほんとに!?」

「もちろん。」

「えへへ、やったぁ。」

ようやくガネットの機嫌が直ったみたいだ。取り敢えず一安心。それにガネットと食べると美味しく感じるのは嘘じゃない。これまではほぼ流すように必要最低限の食事しかしていなかった。食事というかどうかも怪しい。何を食べても鉛や粘土のような味しかしなかったから。けれど、ガネットと食事をするようになってからはきちんと時間をかけて、会話をして味わって食べるようになった。その点は感謝してもしきれない。久しく忘れていた食事の醍醐味と同時に家族で食べていた時の楽しさも思い出させてくれたのだから。

夜も更けるころ食事を終えた俺たちは宿屋に向かう。早く寝ると決めていたのに。もう日付が変わりそうだ。隣同士の部屋でそれぞれ別れると窮屈な装備たちを脱ぎ捨てて風呂へ直行。早々に済ませてベットに座り込んで張りつめていた息を吐く。…。疲れた。とんでもなく疲れた。剣は折れるし、足はパンパンだし、手首はまだ痛いし。あの鳥もあの鳥だ。まるで小枝のように折りやがって。また、新調する羽目になった。明日ギルドに行く前に武器屋に寄らないと。あとは、効率よく確実にランクを上げないとな。幸いばら撒いたジュラットたちは回収できてガネットのランクも3に上がったから出だしは順調よりだろうし。あとは…。違う国に行って少しでも情報を集めないと……。いつまでもここにいたら進展なんてありはしない。出てくる魔物の種類も一定になってしまう。まだまだ先は長い。やることもたくさんだ。取り敢えず今日はこのまま寝てしまおう。考えても今すぐには解決しない。


…………………………。

朝、窓から差し込む光で目が覚める。身支度を整えて部屋を出ればちょうどガネットも出てきた。互いに朝の挨拶を交わして下で軽い朝食をとり、武器屋へと向かう。武器屋の外装は立派で中も引けを取らない。

「いつ見ても立派だな。」

「王都の武器屋だからね。色んな人に合わせて武器を並べなくちゃいけないから大きくなるよ。それに武器は冒険者の要!手を抜いたら大損害だからね!」

「その杖もここで?」

「ううん。宝物庫から勝手に貰ってきた。」

「それは貰うとは言わない。盗人め。」

「いーのいーの!たっくさんあるうちの一つなんだから!」

「はいはい。ガネットはどうする?見るか?」

「ううん。アタシは外で待ってるよ。ゆっくり選んできて。」

「あぁ、そうする。」

雑談もそこそこにドアベルを響かせて入れば主人と目が合った。

「お前さんまた来たのかい?来るのはいいが身の丈に合わない武器を使っては身が持たないよ?」

「それが…。」

事の経緯を主人に話すと彼は呆れたような、ほっとしたような顔をした。

「お前さん良く生きてたね。あのオオカミの件といい鷲といい…運がいいのか悪運が強いのか。どっちにしろ良かったよ。そうだ、ちょうどいい。その折れた剣を打った鍛冶屋の新作が出たんだ。見てみるかい?」

「!あぁ。頼むありがとう。」

「あいよ。少し待ってな。」

主人がカウンターの奥の部屋に消える。戻ってくるのにそう時間はかからなかった。手には刀身が片手剣にしては多少長い剣を持っていた少しだけ青みがかっている。

「はいこれ。きっとお前さんに合うと思うよ。今までお前さんが買って行った金属製とは違って魔物の外殻でできているんだ。少し軽くて最初は違和感が強いと思うけど慣れれば大丈夫さ。切れ味は個人の感性に寄るけどこれはいいほうだよ。手入れさえしていれば。それに魔物素材だから耐久力も両手剣までとはいかないが今までよりも持つね。」

「おぉ…持っても?」

「もちろん。」

主人から剣を受け取る。確かにいつもより軽くて振りやすいが違和感は拭えない。しかし、これは俺が使っているうちに慣れることを考慮すれば悪くない。むしろ良すぎるぐらいだ。当分はこいつが相棒になりそうだな。

「ありがとう。期待した通りのいい剣だ。これにするよ。」

「そう言うと思ったよ。じゃあ、金貨50枚きっちり頂こうか。」

「…………。ごじゅう…。」

「そ、50。」

「足元見てないか?」

「…。そんなことないよ。」

「間があったぞ、間が。」

「まぁまぁ、長い目で見れば安いほうだよ。」

「やっぱり見てるじゃないか。」

「じゃあ、これと同じ素材のナイフを一本セットでいいよ。」

「…。二本。」

「やれやれ、抜け目がないね。わかった交渉成立だ。もってけ泥棒。」

「泥棒は主人のほうだろ。ったく、はい。」

「まいど。気を付けて行くんだよ。そしてたくさん稼いでおいで、いつでも待ってるからね。」

「俺の金を待ってるの間違いだろ。はぁ、そん時はもっといいもの揃えておいてくれ。」

「あぁ、任せておきな。」

新しい剣とナイフを手に外へ出るとガネットが寄ってきた。

「わぁ!カイヤくんの新しい剣雰囲気あるね!ちょっと抜いて見せてよ。」

「触るなよ。ほら。」

「おおお!!青くて綺麗!これなにでできてるの?」

「魔物の外殻らしい。何の魔物かは知らないが、多分虫か何かだと思う。」

「へぇ、いいね。カイヤくんにぴったりの色!それじゃあ、武器もそろったことだしギルドへ行きますか!」

「その前に、これ。」

先程貰ったナイフのうち一本をガネットに渡す。

「なにこれ。ナイフ?どうしてアタシに?しかもこれカイヤくんのやつと同じだ。」

「あぁ、護身用だな。」

「護身用?」

「魔法専門の奴は接近戦が苦手だろ?だからもしもの時のために護身用の武器ぐらいは持っていたほうがいい。」

「あ、ありがとう。」

魔法を専門に戦う奴は確かに強力だ。しかし、その分魔法に頼りすぎて身体能力が他より疎かになる傾向がある。つまり隙ができやすい。まだ魔法に慣れてない奴はもちろん詠唱や状況判断のために近接よりも攻撃するまでの時間が多く必要となる。サポート系の魔法ならなおさらだ。だからその隙をつかれると戦況は大きく傾き、一気に怪我や全滅の恐れが出てくる。これはそれを少しでも緩和するための方法。たとえ筋力がなくても軽いナイフなら振り回せるし最悪相手に向かって投げれば当たらずとも気は逸らせる。ガネットに持たせておいて損はない。この重さなら邪魔にもならないだろうし。

「カイヤくんも持つの?」

「あぁ、いつ何時剣が折れるかわからないからな。手ぶらよりはいい。」

「折れる前提なんだ…。」

「努力はする。」

「でも、そしたらこれ、カイヤくんとお揃いってこと?」

「まぁ、そうなる。嫌か?」

「まさか!全然嫌じゃないよ!むしろうれs…!?」

「むしろ?なんだ?」

「な、なんでもない!大切にするね!命に代えても!」

「それじゃ意味ないだろ。命には代えてくれ。そのためのものだ。」

「う、うん。」

なぜだか嬉しそうなガネットと共にギルドへ行けば随分と騒がしい。何かあったのだろうか。なんにせよいいことじゃなさそうだ。

「どうしたんだろうね?冒険者たちがみんな集まって騒いでる。」

「わからない。これじゃ受付に行けないな少し前に出てみるか。はぐれるなよ。」

「うん。」

人混みの中を掻き分けてクエストボードのところへ行けば一番上に緊急とでかでかと書かれた依頼が貼ってある。その依頼はどうやら妖精の国の聖女様の捜索願の様で見たところその聖女様とやらが数日前から急に行方をくらましたらしい。皆が騒ぐのも当然だ。聖女と言えばあの聖女である。様々な影響を与える唄を持ち、彼女がひとたび声を震わせれば誰もが聞き惚れ、草木の青々しさも増し、空気が浄化されてそこら一体が神聖な聖域となる。そんな彼女の及ぼす影響は世界中の国に広がるだろう。その彼女が行方不明。騒がないほうがどうかしてる。

受付にやっとの思いでたどり着き、詳細を聞けば、この依頼は緊急度が高すぎるがゆえに本来ならば設定されているはずのランクがない。ランク1の冒険者からランク10の冒険者までこの依頼を受けられる。なんなら聖女様を見つけた者は問答無用でランクが3段階上がるらしい。それに加えて報酬金額白金貨1000枚。とんでもない額だ。ギルドの金庫を何個空にするつもりでいる。

「これを受けた場合期限はどうなるんですか?」

「これは無期限になりますのでたとえ達成できなくても罰金はありませんよ。もし仮に聖女様が亡くなったと判断されればこの依頼は消え、誰にも報酬は支払われません。」

それぞれの依頼には達成期限がある。数をこなす依頼は駆け出しのためか無期限が多いが中型や大型の魔物を相手にする場合、いつまでも倒せないでいると被害が出るため期限が付く。もし仮にその期限を守れない場合ギルドで受けた依頼は他の冒険者に渡り、罰金を支払わなくてはいけない。今回はそんなことがないようなので誰もが受けることになるだろう。こんなチャンスは滅多にないのだから。

「そうですか。では俺たちのパーティーも受けます。」

「ありがとうございます!数は多いほうが助かりますので!」

「妖精の国に行けばいいんだよね?どこの妖精の国なの?」

「はい、そうでございます。今回行方不明になられた聖女様はモルフォーという国のご出身でしたのでそこへ行くことをお勧めします。この国から馬車で二日、船で三日の計五日ほどかかりますが冒険者様達も同じルートで行くようなので実際はもっとかかりそうですね。」

「わかった。ありがとう。」

「いえいえ。それではいってらっしゃいませ。」

またしてもやっとの思いで外に出る。これだけで疲れた。しかしぐずぐずはしてられない俺たちもこの機に乗らねば、上手くいけば一気にランクは7。魔族の依頼を受けられるようになる。

「モルフォーだって。確か妖精族の国の四つあるうちの一つ。蝶々みたいな羽の妖精族が生まれやすい国だよね。聖女様どうしちゃったんだろう?周りの圧に耐えきれなかったのかな?」

「理由はわからないが俺たちがやることはひとつだ。聖女様を見つけてランクを上げる。そうだろ?」

「そうだね!じゃあ行こうきっと今頃馬車取り合いだよ!!」

「まだ残ってるといいが。」

受付が言っていた馬車に向かって歩き出す。正直妖精の国なんて初めてだから勝手はわからないがどうにかなるだろう。いや、どうにかしなければならない。これは千載一遇のチャンスだ。目標を達成するための大きな一歩となる。逃したくはない。

それが未知の領域だとしても

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