心酔
何気ない一言がアタシの全てを左右する
「いやぁぁあぁ!頭壊れるぅぅ!!!カイヤくんスピード落としてぇ!」
「できるかぁ!!死ぬぞ!」
「もう死にそうだよぉぉ!!」
「そもそもガネットが!!うお!?」
目の前から急降下してくる大型の鳥の爪をギリギリで避ける。発端は僅か一時間前だ。ジュラットの群れを発見した俺たちが一網打尽にしようと切ったり燃やしているといつの間にか森の奥に入り込んでしまったらしく、この大型の鳥、グラーグルの縄張りに片足を踏み込んでいた。引き返そうとしたところでガネットが木の根に躓いて転倒、その拍子にジュラットを入れていた袋を落として周りに中身をぶちまけてしまった。
そして運悪く宝石部分が反射、頭上を旋回していたこいつに見つかって今現在、ガネット片手に逃げている。この鳥は体長約15m翼を広げると20mは優に超える巨体だ。魔物ではなく崖や渓谷に巣を作る。高い縄張り意識を持ち、領域を侵す外敵が現れればたちまち牙を剥く凶暴性が高い鷲だ。そのため過去に乱獲、駆除が行われ数が激減今では保護対象である。巨体の割に目撃数が少ないのは警戒心が強く滅多に人里に現れないか目撃者が総じて餌食になってるかのどちらかだ。こいつの狩場ということはずいぶんと深い森に迷い込んでしまったらしい。道は何となく覚えているのが幸いだが、そもそもこいつから逃げられるかどうかが怪しい。いかんせんこの鳥はそこらの魔物とは比べ物にならない程強い。時には大型の魔物ですら狩られてしまう。そういえば過去に遠征中魔物の襲撃を受けたどこかの国の軍がこの鳥に助けられたという話が孤児院の本に書いてあった。今ではその国の国章だとかなんとか。この個体は助けてくれるどころか殺しに来てるが!
「カイヤくんまた来るよ!」
「ぐぁっ…!」
再び急降下してきた爪を避けられずに剣で受け流すが、片手なのもあって力が乗らずもろに衝撃が手首に来た。それどころかガキンッと金属音がして見ると剣が折れている。いつかの二の舞だな。
「なんでカイヤくんの剣ってそんな折れやすいの!!??」
「普通の剣があれの攻撃耐えられるわけないだろ!魔獣の外殻ですら切り裂く威力だぞ!?腕持ってかれなかっただけでもあの剣はよくやったほうだ!あれを作った鍛冶屋に感謝したいね!!」
「じゃあ私があの鳥に向かって魔法打つのはどう?」
「いや、生半可な威力じゃ何の意味もない。あれは魔物を狩ってるから耐性がある!」
「どうするの!このままじゃ私たちあの鳥にやられちゃうよ!」
「この森はあれの狩場だ。つまり獲物がいる。あれほどの巨体を維持するには獲物もそれ相応のサイズだろ。そしてランクが高い魔物ほど森の奥にいる。」
「ねぇ、まさか。今向かってるのって…。」
「なにも闇雲に逃げてたわけじゃない。…。俺の体力が切れる前に擦り付ける。」
「人里に向かってるんじゃなかったの!?」
「その前に捕まるわ!!」
今、辛うじて生きている理由、それは森の奥だから。木が生い茂り狙いが逸れるほか、急降下するときのスピードが大幅に落ちる。普段なら大型の魔物を狩っているであろう鳥は人間のように小さい獲物を仕留めるのに慣れていない。でなかったら既に腹の中だ。木が相手の邪魔になっているのならわざわざ樹高の低い木が生える人里付近には行かないほうがいい。何よりあの後、ジュラットが見つからず王都から遠出をしてしまった。王都ならこいつを倒せないが追い払うことは出来る。しかし、たとえ来た道を戻り、人がいる場所へ戻れたとしてこの鳥に対抗できる可能性は低い。できたとしてもその後の被害の責任はまず間違いなく俺たちに来る。そうなったら終いだ。
「!…見つけた。」
「え!?何を!?」
「あれの獲物。」
数十メートル先に見えたのは同じく巨体の蛇。ランク6に識別される大型魔獣グラーセル。全長約12m、幅は成人のウエストほど。昔からグラーグルと食う食われるの関係性で名前も似通っている。あの蛇が鳥に対面で勝つことは稀だがそれは鳥が成鳥の場合、雛や卵は蛇にとっての絶好の餌だ。つまりあの鳥の天敵。ひとたび視界に収めればこんなちっぽけな人間よりも天敵にヘイトが向くのは自然なこと。
「カイヤくん!今度は後ろから来るよ!!」
「ちょうどいい!急降下のタイミングを教えてくれ!そのまま目の前の蛇に擦り付ける!」
「目の前に蛇いるの!?」
「いいサイズのがな。」
蛇のほうもこちらに気づいたようで鎌首をもたげて威嚇している。これ以上近づいたら襲い掛かってくるのは間違いない。蛇と鳥の攻撃のタイミング、それを上手くぶつければ狙いはお互いだ。
「アタシ蛇嫌いなのにぃぃ!…!来るよ、カイヤくん!急降下!わ!?」
「あぁ!捕まってろ!」
蛇が飛び掛かってくるタイミングに合わせて一気に右に曲がる。背後で二匹がぶつかり合う音が聞こえ、その衝撃波が襲ってきた。
「きゃぁぁあ!?」
「うわぁっ!?」
あえなく吹き飛ばされ、地面に転がる。
「うぅ…い、たい…。」
「ぶ、じか?ガネット?」
「う、うん。て、えええ!?」
「?どうした?」
頭でも打ったか?庇ったはずだが…。見たところ目立った外傷はなし。しかし、妙に顔が赤い。熱?極度の緊張状態で熱が出たのかもしれない。
「あ、え…あ、カイヤくん!?そ、その。重いというか近いというか心臓に悪いというか、えっと、えっと!は、恥ずかしいからそ、その…退いてくれるとう、嬉しい…。」
「…………?…あぁ!すまない!すぐに退く。」
しまった体勢が悪かった。慌てて体を起こし立ち上がる。蛇と鳥は…上手くいったな。見たところ当分決着はつかなさそうだ。今のうちにここを離れる必要がある。
アタシを不覚にも押し倒してる体勢に気が付いたのか慌てて離れていくカイヤくん。そのまま手を貸してくれる。振り返ると先程の鳥とカイヤくんが言っていた蛇が激しい攻防戦を繰り広げていた。とても人間が干渉できるものではない。
「…………。はぁ…。帰ろうガネット。来た道は覚えてる。そして今日はさっさと寝る。もう体力がない。」
「うん。そうだね。ずっと走ってたもんね。」
私を片手で抱えながらずっと走ってくれていた。守れるかわからないとは言っていたけどちゃんとアタシを守ってくれる。あの時の狼よりもずっと危険だったのに。そう考えると胸が熱くなった。ドキドキして嬉しくて思わずにやけてしまう程に。アタシ、ちゃんと大切にされてる。
「なに笑ってんだ…。」
「えー。カイヤくんかっこよかったなって。」
「お前なぁ、死にそうだったんだぞ。」
「じゃあ、アタシを置いてカイヤくんだけ逃げればよかったんだよ。」
「できるわけないだろ。ガネットはもう俺の大切な仲間なんだから。」
「…………。もぅ!!そういうの平気で言えるのずるいよ!!」
「ずるくはないだろ。」
「カイヤくんは乙女心がわかってない!そんなこと言われたらアタシ好きになっちゃうんだからね!」
「?俺は好きだぞ?」
「ふぇ!?」
「仲間を嫌いでどうする。そんなんでこの先やっていけるか。」
「ん~~~!!そういうことじゃないの!カイヤくんのばか!もうアタシ知らない!」
「はあ?」
カイヤくんは真っ直ぐな人だ。だからきっとこの言葉も嘘じゃない。だからこそタチが悪い!大切にされてる、この事実はアタシの心を鷲掴んで離さない…カイヤくんはアタシにとって太陽みたいな存在だ。冷え切ったアタシをあたかかく照らしてくれる太陽。かつてこんなにも心躍る瞬間などあっただろうか。乳母はアタシを見てくれたけど照らしてはくれなかった。だからこそカイヤくんの存在はアタシの中で強固なものになる。かっこいいカイヤくん、アタシを見てくれる、守ってくれるカイヤくん、弱みを見せてくれるカイヤくん。全部、全部好き。きっとアタシはカイヤくんの全部が好き。カイヤくんがアタシを支えてくれるようにアタシもカイヤくんを支えられるようにならないと。そうすればカイヤくんをはもっともっとアタシを見てくれる。そしていつか二人の目標を達成するんだ。二人で。
後ろの音を気にしないように二人で歩いていればふとカイヤくんがボソリと言った。
「…。ガネット、お前…案外重かったんだな。安心した。」
「え゛!?」
「いや、てっきりもっt…。」
「うわわぁぁあぁ!!!カイヤくんのばかぁぁぁ!人でなし!!もう嫌い!!」
ばちっと右頬に衝撃が来る。一瞬理解が出来なかった。叩かれた?ガネットに?なぜ!?いや、俺はガネットがいらない子だと蔑まれた過去を持ってるからあんまり食べてなかったんじゃと思って日頃気になって心配していたから、今回のことを踏まえて安心したと伝えたかっただけなのに。なぜ!?
「が、ねっと…。なぁ。」
「いやぁぁぁあ!聞きたくない聞きたくない!事実だとしてもカイヤくんの口から聞きたくない!!」
「なにか勘違いしてr…。」
「もう何も言わないでよぅ!!やっぱりカイヤくん乙女心わかってないんだ!!」
「ちょっ、まっ、話を。」
「あーあー!聞こえない!聞こえないもん!」
耳を塞いで早歩きを始めるガネットを追いかける。何かとんでもない発言をしてしまったことは明らかだ。ガネットを傷つける気なんてなかったのに。と、とにかくなんとか誤解を解かないと。王都に戻ったらなにか美味しいものでも食べに行って、そこで話をしよう。美味しいものを食べれば笑顔になれる。俺の家族も村のみんなもそうだった。何を食べようか、と考えながらどんどんスピードを上げ始めるガネットの後を追った。
前言撤回!!アタシ、カイヤくんのそいうところ嫌い!!!
ずっと剣術一筋だったから乙女の扱いなどわかるはずもなく…




