仲間だから
器が割れてしまう前に
「カイヤくん!こっち終わったよー!!」
「早いな。助かる。」
「ううん!もう足手まといになりたくないもん!」
「そうは思ってないが…。休憩するか?」
「大丈夫だよ。まだまだやれる!早くカイヤくんに追いつきたいもん!」
「追いつくのか。」
「ふふっ楽しみにしてて。」
ガネットとパーティーを組んで数日経って分かったことがある。異様に持久力と魔力量が高い。威力はまだまだ弱いその高い魔力量で次々と休みなく依頼をこなしている。使うのが魔法ということもあり俺と違って小さい魔獣を一匹一匹相手する必要がないのだ。特に炎系の魔法の扱いが群を抜いて洗練されている。今だってほら…。迅速かつ無詠唱であたりを焼き尽くし魔獣たちを一網打尽にしている。お陰で効率は上がったが…。
「すまない、ガネット。ちょっといいか。」
「うん。何?」
「その、なんだ。お前の魔法には正直助かってる。俺一人の時とは違って効率もぐんと上がった。けど。その、あたりを燃やし尽くす魔法…。あまり使わないでくれるか?」
「え?」
「もちろん言いたいことはわかる。身勝手なことを言ってることもわかってる。せっかく覚えた新しい魔法だ。存分に試したい気持ちも痛いほどわかる。だけど、すまない。俺はその魔法好きじゃない。たとえ火がすぐに消えるとしても。すまない。」
「好き…じゃない?どう、して?」
「それは…。」
あの日を思い出すから。脳裏にふつふつと浮かび上がってくるから。あの光景、あの匂い、あの声…。
「…………。分かった。もう使わないよ。カイヤくんが好きじゃないなら使わない。」
「……。すまない。」
「ううん。大丈夫だよ。きっとカイヤくんの過去に関係あるんだよね?辛そうな顔してるもん。」
「.........。」
「ねぇ、カイヤくん。人はね、溜め込んで吐き捨てずにいると耐えきれなくなって壊れちゃうんだよ。アタシ、カイヤくんにそうなってほしくない。それにもうアタシたちは仲間でしょ?ゆっくりでもいいし、気が向いたらでもいい。だから吐き出してほしいな。」
「うん…。ありがとう、ガネット。」
「うん!でもこれからどの魔法使おうかな?アタシ炎系統しか上手くないし…。水は適正ない。風もいまいちだから光かな?なんか炎と系統と近いし。」
「ち、違う!ガネット!その、俺は炎系の魔法そのものが嫌いなわけじゃなくて、こう…炎が周り一面をなりふり構わず燃やし尽くすようなそんな魔法が苦手なんだ。めんどくさいとは思う。本当にすまない。」
「ううん。大丈夫!じゃあこの魔法だけ使わないようにするね!約束!」
「ありがとう。それにしても凄いな。魔力量。ほぼ休憩なしじゃないか。魔力切れも起こしてないし。」
「これ?ふふふ、違うんだなーそれが。アタシ魔力量は全然多くないよ。赤い目も持ってないしね。アタシは魔力量が多いんじゃなくて魔力変換効率に無駄がないだけ!」
「なんだそれ。」
「えぇ!?カイヤくんしらないの?冒険者見習いの訓練受けたのに?」
「俺は剣術一択だったからな。魔法部門は受けてない。」
「あ。そっか。じゃー説明してあげる!魔法には魔力が必要これは常識だよね?そしてそれの最大内容量には個人差がある!全くない人からすっごくある人まで!カイヤくんは多分少ない人かな?アタシは平均より少し多いくらい!そして魔力変換効率は持ってる魔力を魔法に変換するときの効率!魔力自体は何も効果がないからそれを魔法に変化させる必要があるの!でも変化させるときに多かれ少なかれ必ず無駄が出る。魔法になり切れなかった魔力だね。その無駄な魔力が多いほど魔法の威力は下がっちゃうし、威力を保つにはもっと魔力が必要になるの。例えばこのフラムって魔法は火の玉を出す魔法。この火の玉の素の威力が100で作るのに魔力が100必要になる場合、変換効率が悪い人はたとえ火の玉を出せたとしても威力が50ぐらいに落ちてるか、威力が落ちてなくても150の魔力を使ってることになる。これはどの魔法も同じ。これが変換効率。だから魔力量が多くても変換効率が悪ければすぐに魔力切れを起こしちゃう。逆に魔力量が平均でも変換効率が良ければ魔力切れは起こりにくい。私は良いほうだからいまだに使えてるんだよ。」
「なるほど。じゃあ、属性は?」
「いい質問だねカイヤくん!」 ぴしっ!
「その燃えてる眼鏡どっから取り出した?」
「炎で作った。」
「危ないからやめてくれ。」
「はーい。それでね!属性は主に炎、水、地、風の四種類が基礎なのね?そこから枝分かれするように細かく分かれてるの。炎は光、水は氷、地は闇、風は電ってね。そして炎が得意な人は光も得意。水が得意な人は氷も得意って、属性が似てれば大体使える。でも相性が合って炎は水に弱い、でも氷に強い。氷は炎に弱いでも電に強い、電は氷に弱いでも地に強い、地は電に弱いでも風に強い、風は地に弱い、でも水に強い、水は風に弱いでも炎に強い。光と闇はお互いがお互いの弱点でもあり強みでもある。それ以外の属性同士は等倍かな。そして!!個人で扱う属性にはもちろん得意不得意がある!これはもう相性だね。生まれた時の。そして、その属性は魔力を魔法に変換する時につく!それが属性!」
「じゃあ俺は?」
「多分水!」
「髪が青いからじゃないだろうな?」
「実際に髪色と属性がマッチすることは多いよ。」
「ふーん。」
「あと大切なのは属性にも攻撃が得意な属性と回復や色んな効果を乗せてくれるサポートが得意な属性があるの。炎は攻撃系の魔法がほとんどだけど光は回復魔法のほうが多いってね。攻撃系は炎、氷、地、風かな。後の光、水、闇、電はサポート系。」
「闇と電でどう回復するんだか。」
「それはわからない。使わないもん。例えば闇は敵の力を吸い取ったり、電は味方の移動速度を上げたり。バフやデバフ系の魔法かもね。」
「なるほど。」
「さ!説明も終わったことだしジャンジャン行こう!今日で私ランク4に行くんだから!」
「流石に無理だな。パーティー組んでランク上げは普通しない。本当ならランク5以上になってやっとパーティー加入を視野に入れるってのに…。」
「えーーー!どうして!?」
「ランク1~3の昇格条件は覚えてるか?」
「そのランクに応じた低級の魔物をたくさん狩る。」
「そう。そしてそのどれもがすばしっこい。なにより、パーティーを組むと昇格に必要なポイントが全ての段位で二倍になる。」
「にばっ!?」
「つまり今までジュラット500匹程度でランク4に行けてたがパーティーを組んだ時点で1000匹狩る必要性が出てきたわけだ。」
「せ、ん。」
「だから普通、数をこなす必要がある1~4段はソロで行く。5以上は量より質だな。」
「だからって…二倍って。」
「諦めろ。」
「あーもー!わけわかんない!じゃあ後数日はネズミじゃん!」
「数日で済むといいな。」
「もー!!カイヤくんにもちゃんと手伝ってもらうからね!絶対!すぐ終わらせるんだから!」
「はぁ。依頼の争奪戦になりそうだな。」
「そういえばね、たま~に一属性しか使えない人がいるんだよね。」
「一属性?」
「うん。例えば炎だけ。光もその他の属性も使えない。本当に炎だけしか使えない人。」
「それは、不利だな。」
「確かに傍から見ればそうかもしれない。でもそういう人の場合、その唯一使える属性魔法の威力が桁違いなの。同じ炎通しがぶつかったら必ず押し勝つぐらい。私は違うけど。」
「威力が桁違い…。」
「そうだよ。あんまり強力だと魔法の見た目に変化がある人もいるらしいよ。」
「それは…色とかか?」
「えー。わからない。それは本当に個人差だし。それに一属性でも珍しいのに、そこに見た目の変化も加わるとなると…それはもうあれだね。言い方悪いけど化け物だよ。すっごく強いと思う。」
「だろう…な。」
「でもそんな人いないよ~。これ噂みたいなものだし。」
「噂?」
「うん。みんなが面白おかしく騒いでるだけ。そんな人いたらどこの国にも引っ張りだこだし、お城の記録にも残るよ。私、お城の本全部読んだけどそんな記録なかった。過去にも今にも。」
「噂…か。」
しかし、その噂が本当の場合当てはまるのは一人しかいない。そしてそいつは俺がこの世の何よりも憎んでいる奴だ。この旅の、俺の人生の終着点でもある。…。たとえ、噂が本当だとしても俺の目的は変わらない。実力差があるのは理解している。それでも、必ず。
「あー!カイヤくん血!血!血が出てるよ!手、開いて開いて!」
「え?あ、あぁ。すまん。」
いつの間に拳を握りしめていたようだ。手のひらにはくっきりと爪の跡がついている。あの時から無意識に拳を握りしめる癖がついた。気を付けていたのに。
「もー。これじゃ剣握るとき力はいらないでしょ!何やってるのおバカ!包帯持ってきてよかったよ!ほら手出して。巻いてあげる。」
「自分で出来る。」
「アタシがやりたいの!」
「…………。好きにしてくれ。」
「うん!」
くるくると巻かれていく包帯を眺める。昔、怪我をしたらにぃちゃんがこうして麻布を巻いてくれた。自分の服を裂いてまで。こんなに上手ではなかったけど、その気遣いが嬉しくて怪我が治った後もしばらく巻いていた。汚い、とにぃちゃんに怒られるまで。…………会いたい…。
「よし!我ながら完璧!どう?カイヤくんもう痛くな…えぇえ!?」
「?どうした?」
「どうしたじゃないよ!?なんでカイヤくん泣いてるの!?そんなに痛かった!?アタシ巻くの下手!?ごめん!カイヤくん巻き直す!」
「違う。下手じゃない。むしろ上手いほうだと思う。悪いのは全部俺だからガネットは気にしないでくれ。すまん。すぐ止める。」
気が付かなかったがいつの間にか泣いていたらしい。そういえば妙に頬がぬるかったな。もう、泣くのにも慣れてしまって自分が涙を流しているという感覚が薄い。あぁ、くそ。止まらない。
「カイヤくん。アタシもね今のカイヤくんみたいに突然ぽろぽろって泣いちゃうことあるんだ。一人で、窓の外を見ながら。急に溢れてくるんだよね。泣きたい訳じゃないのに。泣くのは悪いことじゃないよ。むしろ自分の心がまだ生きている証拠。恥ずかしくもない。だから止めなくてもいいし謝らなくてもいい。カイヤくんは一人じゃないよ。自然に止まるまでアタシはそばにいる。」
「…。うん…。」
その言葉通りガネットは俺の涙が自然に止まるまで何も言わずにそばにいてくれた。人前で泣くのは慣れてない。ずっと一人で押し殺して泣いてることがほとんどだった。だからか、なんだか胸の突っかかりがするりと取れた気がする。そばにいてくれる存在は大きいな。…。ガネットはこんなうんともすんとも言わずに涙だけ流す奴をどう思っているのだろう。気持ち悪くないのか。それとも本当にガネットもこうなるのか。何はともあれ情けないところを見せてしまった。このままではいけない。もっと気をしっかり持つべきだ。だが、ガネットの前では気が緩んでしまう。同じ目標を持つ人間同士だからか?
「…………。ありがとう。」
「うん!よかった。」
「もう、平気だと思う。…。大分軽くなった。なにか、お礼…。」
「もー!ほんとにカイヤくんってば律儀なんだから!頭の固ーいカイヤくんには何度も言うけどアタシたちは仲間なの!弱みはお互いにあるしそれを支えるのも仲間の役目!だからお礼とか謝罪とかはいらないんだからね!」
「そうなの、か。じゃあ、ガネットの弱みは俺が支える。」
「よろしい!それじゃ!改めて依頼再開!せん、匹…頑張るんだから!行くよカイヤくん!」
「あぁ。」
包帯が巻いてある手で剣を持ち、長杖を持ったガネットの後を追った…。いつもより剣が手に馴染む気がする。
支え合う、それが仲間というもの




