診察
習慣とは身に刻まれるもの例えそれがおのれの身を蝕むようなものであろうと自分で抜け出すことなど出来やしない
一冊目はこの世界の種族についてだった。この世界には大まかに分けて四つの種族が存在している。まずは人間。はるか昔神様が自らの姿を模して造られたといわれている魔力量や身体能力がほぼ均等に備わっているバランスの良い種族らしい。髪色や目の色に法則性はあまりない。どの種族も一貫して目が赤いと魔力量が多い傾向になる。また、他種族と比べて感情が豊かであり良くも悪くも自然の摂理とは離れている。寿命が短い分、他の種族より数は多く、文明的な成長が著しい。
次に妖精。神様の清らかな部分を具現化したといわれている平均的な魔力量がどの種族よりも多い。体がとても弱くて空気が汚れているとすぐに弱ってしまう。特徴としては自然から生まれることが多いらしく人間と同じように成長し、比較的明るい色の髪に澄んだ色の瞳。整った容姿に背中に大小どんな形であれど必ず羽が生えている。この種族は唯一の魔法形態を持ち、魔力を声にして唄として使う。その歌声は誰もが聞き惚れるほどらしい。羽が大きくて美しいほど歌の精度は良いとされ、周りに与える影響力は大きくなる。また、百年弱に一度妖精族の間で聖女とされる妖精が妖精の国で生まれる。高い魔力量はもちろんのこと、どの妖精よりも大きくて美しい羽をもって生まれるその聖女はその歌声一つで国を揺るがすほどだ。人間より長寿ではあるものの自然を好むあまり文明は発展しにくい傾向にある。しかし彼らは持ち前の魔力で生活は楽に出来ているらしい。人間や獣人族の国で見れる妖精族はみな冒険者という仕事を請け負い、自分たちの国ではできないことを学んでいる。
そして獣人族。神様が持つ本能を具現化した種族。魔力を持つ獣人はあまり多くない。その代わりか素の力が強く獣人族に単なる力で勝てる種族はそういない。また、五感がどの種族よりも優れている。それぞれがそれぞれの動物の特徴をその身に宿し、耳やしっぽ、瞳孔の形、肌質が同じ獣人族の間でも異なる。そのためか、一番髪と目の色のバリエーションが多い。寿命は人間より少し短い傾向にある。人間の次に数が多い種族で人間の国でもよく見かけるらしい。文明は人間が知能を獣人が身体能力をお互いに補う形で発展している。
最後に魔族。神様の負の部分全てを具現化した種族。比較的暗い髪と目を持ち、赤い目を持って生まれる確率が一番高い種族。たとえ目が赤くなくとも所持する魔力量は多い場合が多く、身体能力も高い。必ず頭に角を生やして生まれてくるため見分けは比較的簡単とされているが獣人族にも角を持って生まれてくる者はいるため注意が必要。残虐性が他の種族と比べて高く、利己的で貪欲。一般的な動物とは別に区別される魔獣を従え、他三種族とは常に敵対関係にある。また、身体の形が同じ魔族同士でも異なり、目が多い者、歯の形が違う者、翼が生えている者など多種多様だ。魔族の間では角が多いほど強い魔族の証らしい。平均寿命が長く、数が少ない上、他種族と戦争以外で関わることがほぼないため、生態は一番謎に包まれている。魔族の国がある場所もいまだに知られていない。
知られていない…?じゃあ、私が今いるこの国は…。
本の後ろを見ると聞いたことのある国の名前が書いてある。プレシュレーズ…。村長の奥さんが働きに行っていた国の名前だ。確か久しぶりに長い休暇を貰ったからしばらくは滞在できると言って嬉しそうに貰ってきた宝石やお金をテーブルに広げていた覚えがある。あとはなんだったか…誰かの世話をする仕事だとかなんとか…。聞き耳を立てていたことがバレて奥さんに火掻き棒で叩かれてしまった記憶しかないからあまり覚えていない。だけどわかった。この本の著者は人間だ。つまり、私は魔族以外が知らない場所に連れてこられたということ…。確かに空から来たし、城下町の周りは森だった。もし仮にこの国が樹海の奥の奥にあったのだとしたら誰も気が付かない…のかも?
そこまで読んでふと顔を上げると部屋の明かりがついていることに気が付く。バルコニーの方向を覗けばもう外は真っ暗だった。いつの間にこんな時間がたっていたのだろう?全く気が付かなかった。
続けて本を読もうとしたところで肩をポンポンと叩かれる。見れば手袋たちが寝間着を持っていた。そして私を立たせては空色のドレスと包帯を取って、傷を確認、再び薬を塗りたくられて包帯を巻きなおされる。そのまま寝間着を着せられてそそくさとベットに連れていかれた。もう寝ろ、ということだろうか。
大人しく従ってふかふかのベットに横になる。やわらかい。いい匂いがする。ぽふぽふと軽く枕を叩いていると手袋たちがこれまた柔らかい毛布を掛けてくれる。太陽の匂いだ!そのまま堪能していればベット横にある小さいテーブルの上にあるランプの小さい明かりを残して部屋の電気を消され、手袋たちは礼をして部屋から出て行ってしまった。
.........。…。静かな部屋…。少し動けば擦れる音と揺れる影。…。ひとりだ。ひとりぼっち。今更なんてことはない。いつもひとりだった。硬い床に香る砂埃。ネズミの走る音、風に煽られて軋む木々と騒めく葉。何も聞こえない。何も…。…。なんでだろう…。寝れない。なんだか落ち着かない。試しに再びぽふぽふ叩くけれどもこの不快感は消えない。床が柔らかすぎる気がする。これじゃ、寝れない。試しにベットから降りて床に横になってみる。…。村の地面程硬くはないがなんだか落ち着く。もちろんネズミの足音は聞こえない。けど、これなら寝れる気がする。私、あれだけベットで寝てるみんなを羨んでいたのにいざ自分が寝てみると落ち着かなくなるくらい床で寝ることに慣れちゃったんだ。なんだか、寂しいな。
せっかくこんなふかふかなベットで寝れることを許されたのに…。でも、寒くないことは嬉しい。虫にも刺されないし…。いつもよりよく眠れそう。
…………………………。
…………。大ガラスが朝の訪れを知らせてくれる中、姉妹たちを連れて魔王様のお客様である少女の部屋へと朝の身支度をしに伺った。…………。私は何を見ているのだろう。昨夜私は確かに彼女をベットに入れたはずだ。それなのに今彼女は床で寝ている。何か不満があったのだろうか。布団の質?肌触りが悪かった?
”…………。”
”わぁ!?どうしよう!姉さん!ミラ様死んでる!”
”ばか!死んでないわよ!寝てるだけ!”
”床で!?どうして!?”
”私が知るわけないでしょ!きっと寝相よ!”
”ベットから落ちたのに起きないのはおかしいわ!”
”じゃあ、どうして床で寝てるのよ!?”
”それを今姉さんに聞いてるんじゃない!”
”…………。まさか…。気に入らなかったんじゃ…。”
”そんな!満足していないの?駄目よ駄目!”
”あんたがちゃんと布団干さなかったからじゃないの!?”
”違うわ!いつも通りにやったもの!姉さんのベットメイクが下手だったのよ!”
”私のベットメイクは完璧よ!”
”姉さんがそう思っているだけだわ!”
”何よ!!”
”おやめなさい。”
”でもお姉さま!!”
”私は悪くないわ!この子が悪いの!お姉さま!”
”悪いのは私たち全員よ。お客様に満足頂けないのは全て私たちの力不足。誰か一人のせいではないわ。”
”そうね、ごめんなさい。”
”ごめん、お姉さま。でもどうすればいいの?”
”私たちのすべきことは変わらない。お客様に快適に過ごして頂くために全力で私たちの仕事をするだけよ”
”そうね!私頑張るわ!あの子可愛いもの!”
”可愛いだけじゃないわよ!とってもいい子!”
”そうね。さぁ、二人ともミラ様を起こすわよ。準備なさい。”
”はーい!”
”私はお湯を用意してくるわ!”
とんとん、と背中を軽くたたかれる感覚がして目を覚ます。まだぼやけている視界で見ればベージュと白の手袋がいた。起こしに来たのかと体を起こせばすぐにベットに座らせされた。やっぱり床で寝るのは駄目だったのかな。そのまま包帯の交換、薬の塗り替えをしてまた新しいドレスを着せられる。少しして黒手袋がお湯の入った器とふわふわのタオルを持って入ってきた。どうするのかと思っていればどうやら顔を洗うらしい。やっぱりタオルはいい匂いがする。
その後はアルコルの言った通りに部屋から出ずに本を読んでいるとコンコンとドアが叩かれる。双子たちだ。そのまま双子たちと入れ替えで手袋たちは布団を持って出て行ってしまった。
「ミラおねえちゃん!おはよおはよ!ご飯持ってきたよ!朝ごはん!」
「ねむれた?ねむれた?ふかふかお布団!ほかほかごはん!早く元気になってね!」
「私は元気だよ?」
「魔王様に抱っこさせるぐらい体力ないのに!それに包帯巻いてるでしょ!」
「そうだよそうだよ!いっぱい食べて怪我治さないと!」
「うぅ…。」
何も言い返せない。でも私は抱っこされたい訳じゃない。断じて。あれは魔王が勝手に抱えてくるのだ。
「今日はパンだよ!ふわふわ焼きたて!ミラおねえちゃんは何つけて食べたい?」
「バターにジャムにチョコレート!いっぱいいっぱい種類あるよ!」
「チョコレート…。」
それって王族とか貴族とかが好きなお菓子だっけ?名前だけは聞いたことあるのだけれど…確か凄く高級で王都でもごく一部しか食べられないっていう…。本当に何でもあるんだ。
「そんな高級な物私が食べていいの?」
「もちろん!このお城にあるもの全部魔王さまとミラおねえちゃんのだよ!チョコレートは魔王さまのお気に入り!」
「数十年前人間の国で食べた時に魔王さますごく気に入ってね!こっちでも作り始めたの!」
「そんな堂々と…。」
「変装してたから多分バレてないよ!それに魔王さま甘いの大好き!ミラおねえちゃんもきっと大好きになるよ!」
「ほら早くたべてたべて!」
「いただき、ます。」
促されるままにふわふわのパンにチョコレートを塗ってみる。パンが…硬くない!あの石ころのようなパンはなんだったのか…こんなにふわふわなのになんで私の食べていたパンはあんなに…ん!甘い!なんだろう。かぼちゃとは違う甘さだ。
「ミラおねえちゃん今日ひま?」
「ひまひま?」
「私?うん…特にやることもないから…ひま?なのかな。本を読むくらい。」
「じゃあ、僕たちとお話してようよ。」
「いっぱいいっぱい!ミラおねえちゃんの知りたいこと教えてあげる!」
「今日は魔王さん?来ないの?」
「魔王さま?魔王さまは今仕事中だよ。城下町で暮らしてる魔族たちの相手してるの。」
「謁見ってやつだね!ミラおねえちゃんも魔王さまに会いたいの?」
「会いたくはない…。」
何度も言うがあの魔王の常識は私にとっての非常識だ。何をされるかわからない。何よりあの魔王の目が苦手だった。何を考えてるかわからないジッとこちらを見てくるあの目。いっそアルコルや村の人たちみたいに嫌悪感を向けてくれたほうがまだ楽だ。トル、ポルみたいに好意的ではなくてもまだ自分が相手にどう思われているのかがわかる。魔王の口元はいつも弧を描いているもののあれは作り物だろう。
「魔王さんはいつも笑ってるけど…どうして?」
「魔王さまいつも笑ってるよ。昔から!それ以外の表情見たことないかも!どうしてだろうね?どうしてだろう?」
「でも怒ってるよりはいいよね!前の魔王さま無表情か怒るかだったから!」
「前の魔王さま?昔から?」
「そうだよ!何百年も前の魔王さまは四本しか角がなくて真っ黒な髪の毛で怖かったの!」
「僕たちがごはん作っても美味しいも美味しくないも言わなかった。つまんない魔王さま」
「え…トルとポルはいくつなの?」
「500とちょっと!」
「今の魔王さまより年上だよ!」
「…………。え゛?…………。う、そ。」
「ほんとだよ。」
「ほんとほんと!」
「え、でもこど…も…。」
「見た目のこと?あはは!駄目だよミラおねえちゃん、魔族を見た目で判断しちゃ。」
「見た目だけ子供のまま生きてる魔族なんてたっくさんいるんだから!僕たちはそういう魔族なの!」
「…。」
なんだか裏切られた気分だ。ずっと子供だと思い込んでいたからなおさら…。魔族が長寿だとはわかっていたけれどここまで長寿だとは…。
「ミラおねえちゃんは何歳なの?」
「100ぐらい?」
「17…。」
「あかちゃん!!」
「え!?あかちゃん!!??」
「違う…!私あかちゃんじゃない!人間はそんなに生きないよ…。100歳なんておばあちゃんだもん。」
「そうなの!?」
「何もできないじゃん!」
「できるよ…。」
「でもそんなんじゃ強くなれないでしょ?」
「僕たち魔族はまともに強くなるのに100年はかかるもん!」
「百年…。」
私たち人間にとっての一生分だ。人間が生まれて死ぬまでの一生、この種族は自分の力を伸ばしている。人間が勝てるはずもないか。そんな種族に。
その後も双子たちと色々な話をした。私の村のこと、トルとポルの角のこと、食べた朝食のこと、今後食べたい食事のこと。やっぱりトルとポルの角はもふもふしていた。もふもふした棒が頭に生えているという表現が近いだろう。私の村のことを話すと二人は凄く怒ってた。食べ物の質に。二人らしいと思う。そして日が暮れるまで話すと二人は帰っていった。また話そうと言って。他人と話すのがこんなにも楽しいとは思ってなくてなんだかすっきりした気がする。今までは口を開けば殴られて声なんて誰にも届かなかったし誰も私の話を聞こうとはしてくれなかったから。また、本を読んでいると手袋たちが布団を持って入ってくる。今度はなんだか花のような匂いがした。昨日よりも丁寧に寝かしつけられる。…。駄目だ。また寝れない。床じゃないと寝れない。再びカーペットに横たわる。そんなことを数日続けたある日のこと。扉が叩かれて現れたのは双子たちではなく初めて見る魔族だった。深い青緑色の髪に鼠色の目。頭に目立つ角は見当たらないが腕がいち、にぃ、さん…五本ある。おでこには大きな丸い眼鏡が乗っていて白い外套のような服を着ていた。目元に少しだけ隈がある。
「たのもー…。っていないわけないっスよね。お初に失礼。僕、サビクっていいまス。えー、貴女は…ミラ様で間違いないっスか?」
「え、はい。」
「まじかー…。遂に会っちゃったな人間に。嫌だなぁ、ほんとに無理。なんで僕なんかなぁ。まぁ、キルファ様に言われたらやるしかないんスけど。」
なにやら毒づきながら持っていたカバンを開いてその中から組み立て式の机のようなものを取り出すと、別のカバンからは見たこともない道具が次々にと出てくる。それを机に並べ始めた。
「あー。ベットに座っててくれまスかね。危害加える気はないんで。」
「わかり、ました?」
大人しく待っていると道具を並べ終えたサビクさんは口を鳥の嘴のような形の何かで覆い、手袋をして私に向き直った。
「今からミラ様を診察しまスんで。暴れないで欲しいっス。マジで。ほんとに。」
「診察ってなんです、か?」
「…。体の状況を調べまス。あー。言い忘れてた僕が悪いっスね。僕この城の医者やってるんスよ。一応。」
「お医者さん?」
「はい。お医者さんっス。」
「じゃあ、薬くれたのもサビクさん?」
「まぁ、一応…。成り行きで。」
「そうだったんだ…。ありがとう。私あの薬のおかげで体が痛くなくなって凄く嬉しかったです。本当にありがとう。」
「ん゛ん゛~~~…。フクザツな心境…。僕はキルファ様に言われて差し上げただけなんで。お礼ならキルファ様にした方がいいっスよ。」
「うん。でも…ありがとう。」
「はぁぁぁぁぁ…。調子狂う…取り敢えず診察するんで大人しくしててくださいっス。」
「はい。」
そのまま何かの道具を胸に当てられたり軽く触れられたりする。何かを確認しては別の手で紙に書き留めて、書いている間に別の手は他の部位を診察しているようだ。
「口開けて貰えまスか。ほら、あ~~。」
「あ、あー。」
「ちょっと苦しいけど我慢っスよ。」
「うっ゛。」
なにやら薄い金属の棒みたいなものを入れられた。苦しい…。そのまましばらく見てはまた何かを書き込む。
「風邪はひいてないみたいっスね。あとは傷の具合なんスけど…一部の包帯外しまス。直に触れる必要があるんで痛かったら…言うなりなんなり…反応お願いしまス。人間診察したことないんで加減が…。」
「わかった。」
そのまま腕の包帯を取られて直接傷に触れられる。しばらく触れられているとサビクさんはボソリと呟いた。
「…………?治りが遅い…………?」
「何故だ?僕の薬が力不足?そんなはず…栄養が足りてない?自己回復が乏しいのは確認済みだからそれを含めて食事と睡眠の質で補助してるはず。食事の質が悪い?あの双子に限ってそれはないな。なら睡眠の質だが…ハンド達が寝具の状態を悪くすることは考えにくいし、となると他の要因だが…見当もつかない。やっぱり僕の薬が悪い?魔族用にしか想定してないからか?もっと自己回復力を補助するような…いや元々低い能力を多少高めたところで焼け石に水か?あぁクソ…腹立つな…。」
ぶつぶつと私の腕の傷を見ながら呟いている。
「サビクさん?」
「この薬でダメなら新しく作る必要があるな。何が必要だ?人間の回復量を魔族の50分の1として今持ってる素材で一番回復力が高いのは妖精の素材だがいかんせん量が足りない。炎症はしてないから薬のベースは合ってるな。なら、ただ単に効果が薄い。あれで?クソ、どんだけ貧弱なんだよ。古傷はどうだ?」
するすると包帯をほどいていくサビクさん。私の声はもう聞こえていないようで完全に自分の世界に入ってしまった。
「古傷は治ってるな…治りかけだと聞いていた傷も問題なし。治ってないのは新しい傷か?膿んだか?細菌でも入ったか?いや、ハンド達は毎日風呂に入れていると言っていた。あざは?内出血は大分引いているが予想よりも芳しくはない。あ~~~…完全に僕の目測の誤りってわけか…。…キルファ様に合わせる顔がない…。やってしまった…。新しく作るしかないな。」
「サビクさん…?」
「!?あ…ッスーー…。スミマセンデシタ。つい熱くなっちゃって。えっと…診察はこれで終わりっスね。お疲れ様っス。包帯巻き直しまスんでもうちょいお付き合いください。ミラ様。」
「うん。」
器用に包帯を巻き直しながら使った道具を片付けていくサビクさん。便利そう。全て終わったら口を覆っていた変なものを取り、手袋と一緒にしまっていく。一通り片付け終わると立ち上がった。魔族の顔はみんな端正なのかな。
「改めてお疲れ様っス、ミラ様。これからたぶん毎日僕が来ることなるんでそこだけよろしくっスね。」
「わかりました。ありがとう。」
「お礼はいいんスよ。僕は僕の仕事をしただけなんで。」
「でもありがとうは伝えるべきだと思うから。」
「あぁ、も~。ほんっとに調子狂う…。僕は人間嫌いなんスからね!」
困ったように眉をひそめてサビクさんはため息をついた。私だって人間はもう嫌い。荷物をまとめて部屋から出て行こうとするサビクさんは扉に手をかけたところで思い出したようにこちらに戻ってくる。どうしたんだろう。忘れ物かな。
「あ、そうだ。ミラ様。手を。」
白い外套のポケットをごそごそと漁って何かを差し出してきたので反射的に受け取る。ぽん、と手のひらに落とされたのは丸い包みに入った何かだった。
「これは?」
「飴ちゃんっスね。頑張った子供にはあげることにしてるっス。じゃないと次から顔見ただけで逃げるようになるんで。」
「私子供じゃないよ。」
「でも欲しいでしょ?」
「…………。うん。」
「なら大人しく貰っとくのが得策っスね。次は何が欲しいっスか?」
「いらないよ。逃げたりしない。」
「じゃあ、僕のチョイスでも文句は受け付けないっスからね。」
そう言い残して出て行ってしまうサビクさん。いらないって言ったのに。ここの魔族たちはみんな私の言い分無視する…。でも、なんでかな。村にいた時よりも全然嫌じゃない。悲しくならない。…。私、きっとおかしくなっちゃったんだ…。おかしく。
今夜も徹夜か…おのれ僕のポンコツな頭め




