6 ハルトダイブ
「破虎! ご飯よ!」
あゝもう夕飯時だったか。
旅立ち前の腹ごしらえだね。
このスパイシーな香り。
「よっしゃカツカレーだ」
縁起がいいや。
「頂きます!」
破虎はいつもの席に座り、一礼をしてカツを一口パクり「旨すぎ」と言いながらカレーを次々と口に運んだ。
そして思い出したかのように突然、斜向かいに座る母に尋ねた。
「さっきさ、話しかけた続き、聞かせてよ」
「あの話のことね」
「そう、聞かせてよ」
「破虎がお腹にいた時に起きた、不思議な話なんだけどね」
「俺が生まれる前の?」
「そう、母さんねあの頃、超能力が使えたのよ」
いきなり何? 超能力って?
「え、どんな力なの?」
「そうね、例えば目を閉じて、空に向けて自分の意識を解き放つようにイメージするとね、上空から地球を見下ろしてるような視界に切り替わって、自由に空を飛び回れる感覚になり、どこへでも行きたいところへ凄い速さで行けちゃたのよ」
「何それ? 身体ごとなの?」
「いいえ、意識が飛び回るの」
「それで?」
「あの時私は、長崎に住んでる母のところまで行って、彼女の意識に入り込んだわ。でも身体は東京にあったままなのよ。でもね、電話してるわけでないのに母と会話ができたのよ」
「本当に?」
「そして目を開くと意識が戻り、いつもの私に戻っていたわ。驚いたことに、長崎の母から電話がかかって来て、さっき意識の中で私と会話したが本当だったのかって確かめてきたのよ。私は思わず、母に惚けてしまったわ。超能力なんて信じてもらえそうにもなかったから」
それさっきあったことと同じだ!
「ねぇ、他にはなかったの?」
「そうね、目をつぶっていても周りがよく見えたり、手をかざすとものを浮かせたり、寄せたり、飛ばしたりね」
「凄いね、それ、今もできるの?」
「それがね、あなたを産んだ瞬間から不思議な能力はなくなって、元に戻ってしまったわ」
「そうなんだ。でも俺にはそんな力ないしな」
「そんな力、ない方がいいわ」
「どうしてさ?」
「だって、力のコントロールができないから、いつも手は開かず握ったままでいたわ。開くと手に持つ前に壊してしまうからね」
「そうなんだね」
「まあ、そんなことが不思議体験ってとこかしら」
「話してくれてありがとう」
どうやら今俺の周りで起こっている不可解なできごとは、俺が生まれる前から周りで起こっていたことと関係があるようだ。
夕食を終えた破虎は一人部屋に戻り、このゲートが誘う未来に進むことが、自分の運命なのだと改めて思い始めた。
そんな矢先、破虎の幼なじみのマコが羽山家を訪れた。
「ピンポーン」
「はーい、どちら様ですか?」
「マコです」
「あらマコちゃん。どうぞ、お上がんなさい」
「はーい」
本名は小笠原マコ。
破虎の母から華道を習い、眉目秀麗で優しい破虎が気になる、容姿端麗で愛らしい性格の女の子である。
マコはいつものように破虎の部屋に向かった。
では気を取り直して『始まりを待つ物語』へと参りますか。
メニューアップ。
スタートボタンをタップ。
「うおー、身体が消えて行く……」
「こんばんわ、マコだよ。入るね」
「ええ……破虎くん? 何?」
マコは思わず消えかかる破虎の身体に抱きついた。
「えー、私も消えちゃうのー?」
二人がこの世から消えてしまうと、『始まりを待つ物語』の表紙は『始まりを迎えた物語』とタイトルが書き換わり、開いたページは自然に閉じられた。