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1 ラノベオタク

新たなる世界が創造される時

 それは必ず破壊から始まる

 そして神の世界では今

 新たなる世界の創造に向けた

 想像を絶する破壊が始まる

 

 

 

 

「キンコンカンコーン……」

「起立、礼、ありがとうございました」

「ありがとうございました」

 ふぅ……終わった。

 と同時に開放感が半端ない!  

 破虎ハルトは教科書やノートをパタンと閉じ、これらをカバンに投げ入れ、席を立とうとした。

 

「よう、そこの()()()()くん、暇してるかい?」

「マコもいるよ」

 ギクッ!

 右方向至近距離に二つの人影を捕捉した。

破虎ハルト、なんか嫌〜な奴と出会でくわしたって顔せんといてくれるかな」

「ねぇ、マコもいるよ」

 悠人、君はいつも空気読めないくせに、心は読めちゃうの?。

「待て待て! 悠人さん。テスト前はいつも助けてもらっている俺が、そ〜んな失礼な顔するはずないじゃん」

「それは嘘だよ、破虎ハルトくんは困った顔してたもん」

 うわっ! ここにも一人空気読まない女子いたわ。

「悠人くんは破虎ハルトくんにお願いがあって来たんだよ!」

「俺に、お願い?」

「この後さ、ちょっと 顔貸してくんね?」

「どこへ?」

「カラオケ」

「なんで?」

「なんでって、そんなの決まってるじゃんか。女の子呼ぶからだよ」

「俺はパスでええわ」

「ええわじゃねえよ。こちとらお前が来るって話しちまったんだよ」

「なー、悪いがこの後、稽古もあるしパスパス」

「なぁ頼むぜ、破虎ハルト。二組の七瀬きらりちゃんに五組の春山桃ちゃん、それに八組の山下かのんちゃんも来るんよ、美少女に囲まれてカラオケ盛り上がろうぜ!」

「フーッ、悪いが遠慮しとくよ。みんなお前の目当ての子たちだろ?」

「まあそうなんだけどさ。女の子たちが皆んな言うんさ。俺と破虎ハルトのダブルイケメンが熱唱するツーショットが見たいってリクエストあるんだわ」

「……やっぱゴメン。体調不良にしといてよ、なっ!」

 机にヒョイッと腰掛けた悠人が、上目遣いの破虎ハルトを見下ろしながら会話する二人のイケメンツーショットに、マコは見惚れていた。

 話の切れ間にデレっとしていたマコのゆるんだ顔が視界に入り、破虎ハルトは歩み寄り声をかけた。

「マコ! ヨダレ垂れてんぞ」

 破虎ハルトは何気にハンカチでマコの口元をサラリと拭いた。

「ありがと……」

 マコは破虎ハルトの何気ない優しさに胸キュンしてるよ。

 そう思いながら、マコは照れ笑いを見せた。

「話戻すけど、悪いな悠人、そう言うことでよろしく!」

 そう言って破虎ハルトは、悠人とマコを残して足早に教室を後にした。

 悪いな悠人。

 まぁこれで本当に解放されたわ。

「よし!」

 でも悠人の奴……ちょっとくらいモテるからって、手を広げ過ぎじゃないの? 

 あいつといると俺までチャラ男に見られるっつうの。 

 まぁ、いいや。

 あいつはあいつ。

 俺は俺。

 人生に限りあり、時は金なりってね。

 そう、小遣い残ってなかったわ……

 仕方ない。図書館での出会いに期待しましょうか。

 

 小遣いがある時は、隣駅前にあるラノベ専門店で新刊をめるようにチェックしながら気に入った文庫本を購入して、向かいのバーガーショップでペプシ飲みながら、ラノベをパラ読みして読了。

 その後は感想と評価をつけたらブログにアップして反応を待つ。 仕上げはフォロアーさんが寄せてくれたコメントを吟味。

 帰宅後は二時間の稽古の後、夕食を終えたら、後は眠りに着くまで電子書籍を読みあさる。

 これが俺のルーティン。

 

 でも、小遣いがないから、仕方ない。

 人間誰しも欲求が満たされない時は、別に欲求の対象を移して擬似的にこれを満たそうとする。

 破虎ハルトもしかりであった。

「図書館のラノベ新刊チェックしてなかったじゃんか!」

 金欠時の破虎ハルトにとって図書館は、欲求の擬似的解消が叶うかもしれないオアシス的存在であるようだ。

 

——人間ってのは本当に面倒な生き物だ。

 

 久しぶりに来ましたよ。市立図書館。

 さぁ新刊コーナーは?

 破虎ハルトは図書室に入るなり、真っ先に新刊コーナーに向かった。

 すべて借りられた後でしたか。

 最新刊入ってたみたいだけど。

 そんな想定がなかった訳じゃないけどと残念に思い、奇跡みたいな出会いを信じた新刊コーナーへのたかぶるテンションは、泡と消えてしまった。

 更に擬似的欲求解消への行動は続く。

 気持ち入れ直してライトノベルコーナーだと期待を繋ぎテンションを上げなおした。

 しかし、期待とは儚いものだと知らされる。

 これも、これも……読みかけて辞めたハートを鷲掴わしづかみされなかったラノベ達が未練がましく目に立ち並ぶのか。

 来てから思い出した。

 けど何?

 目を細めてそっと近づく。

 見慣れた文庫棚の隅の方に、見慣れない古びた重箱判サイズの燕脂色の……本?

 手にとってもらいたげに地味に目立つ意匠。

 まさかの一目惚れしたかのような感覚に、三度目をパチクリして見開き、そっと本に手を伸ばした。

 

 背表紙には『A story waitting to begin』(始まりを待つ物語)と書かれ、表紙はなにか紋様の縁取りがあって、ここに『An unfinshed story』(未完成の物語)とサブタイトルらしき表記が付されていた。

 外形はまさに謎だらけの玉手箱ってな感じ。

 

 これって……何なんだ。

 手のひらで(ほこり)を払い除けた後、表紙をめくった。

「なんなんだ、これは?」

 と思わず声を発した。

 見開いた表紙の裏側には『The Sixシクス Commandmentsコマンドメンツ』(六つの戒律)と記されていた。

 連想されるのはモーセの()()

 つまり()()

 六つの守るべき誓い。

 その戒律の下には『Don'tドント readリード a storyストーリー withoutウィズアウト a signatureシグニチャー』(署名なきは読むべからず)と書いてあった。

 その下にはサイン欄か?

 これ、なんかやばいやつかも!

 そう思った瞬間、破虎ハルトは「パタン」と表紙を閉じていた。

 本を読むのに署名? 何それ?

 これは何のための儀式?

 理解が及ばない、いわゆる想像の外にあるこの本は、不気味そのもの。

 しかし、好奇心と言う尺度では、それとも怖いもの見たさなのか、もう一度開いてみたいと言う複雑な感情が入り混じる。

 

——これは人間の心理を逆手に取った巧妙ないざないだな。

 

 やっぱりどんな物語なのか読みたい!

 そんな衝動にられ再び開いた訳だが、その先をめくろうとしても、どうしてもめくれない。

 署名をすればこの状況から進展するのかも知れないが、いまいちそれも信用しかねぬため、それができない。

 ストレスを感じる始めると同時に、次第に湧き上がる書籍への抑えられない好奇心。

 テーブルに置いてあちこちから見てみたことで、一つ気付いたことがあった。

 図書ラベルが貼られていない。

 やはり怪しい!

 そしてこのままではらちがあかない。

 さっさとこいつの正体を聞いてしまおう。

 破虎ハルトはどうしようもなくなり、この本を受付担当者に差し出したのだ。

 

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