第6話
その日、アスフォード魔法学園は創立記念祭で賑わっていた。
中央広場には全校生徒と教師、そして招待された貴族たちが集い、華やかな雰囲気に包まれている。
無数の魔法の灯籠が空を彩り、周囲には様々な屋台が立ち並んでいた。
俺は相変わらず隅っこの方で、この場違いな空気をやり過ごそうとしていた。
学園最弱の烙印を押された俺が、こんな晴れ舞台に出る意味はない。
フィオナは屋台の食べ物に夢中で、両手にキャンディアップルとフライドポテトを持ちながら口いっぱいに頬張っていた。
短いオレンジ色の髪に、彼女特有の甘酸っぱい匂いが漂っている。
ひらひらとしたスカートの裾が風に揺れるたびに、ふとその下の青いパンツと雷の紋章を思い出して、思わず顔が熱くなる。
リリスは貴族令嬢として挨拶回りに忙しく、完璧に整えられた銀色の長髪と青を基調とした高級制服で、まるで妖精のように優雅に人々の間を移動していた。
彼女の整った横顔を見るたび、あの時見た純白のパンツと氷の紋章が脳裏に浮かび、胸が高鳴る。
あの日以来、彼女と目が合う度に、俺たちは互いに頬を染めて視線を逸らすという、妙な関係になっていた。
セシリア先輩は、来賓の世話役として穏やかに微笑みながら、時折負傷した生徒に癒しの魔法を施していた。
薄紫色のなびく長髪と優しい紫紺色の瞳、そして聖職者の象徴である白いショールが、彼女に女神のような雰囲気を纏わせている。彼女は学園一の癒し手であり、上級生として敬愛される存在だ。
俺が保健室で診てもらった時、背中の痣に触れた彼女の指の感触がまだ残っているようで、思い出すと不思議と背筋がゾクゾクする。
◇
「我がアスフォード魔法学園は、二百年の歴史と伝統を誇り——」
学園長の高らかな演説が始まった、まさにその時だった。
ドゴォォォン!!
空気を震わす轟音と共に、学園を覆っていたはずの防御結界がガラスのように砕け散った。
破片となった魔力の欠片が、星屑のように空中に漂う美しい光景と裏腹に、場内は一気に緊張に包まれた。
そして、空間の裂け目から、これまでとは比較にならないほど巨大で禍々しい魔獣が出現した。
「な、なんだアレは!?」
「結界が破られたぞ!」
広場は一瞬にしてパニックに陥る。
教師陣と上級生たちが必死に防衛線を張るが、魔獣の放つ濁った魔力の波動が、彼らの魔法を簡単に打ち消していく。
次々と生徒たちが吹き飛ばされ、女子生徒たちの悲鳴が広場に響き渡る。
「こんな強力な魔獣……データにないぞ!」
アルバトロス教授の焦った声が聞こえる。
魔獣は巨大な四本の角と、禍々しい赤い瞳を持ち、全身から黒煙のような魔力を漂わせていた。
混乱の中、負傷者を庇いながら治療魔法を使っていたセシリア先輩が、魔獣の二次攻撃のターゲットになった。
巨大な爪が、彼女目掛けて振り下ろされる!
「セシリア先輩!!」
フィオナの絶叫が響く。
彼女は琥珀色の瞳を恐怖で見開き、震える唇から先輩の名を必死に叫んでいる。
リリスも駆けつけようとするが、魔獣との戦闘で魔力は尽きかけているようだった。
彼女の額には汗が浮かび、普段の完璧さとは裏腹に、今は荒い息遣いをしていた。
俺は覚悟を決めた。
この力を使うしかない。
背中の痣が熱く脈打ち、なにか大きな力が解放されそうな予感が全身を駆け巡る。
「フィオナ! リリス! 力を貸してくれ!」
俺の言葉に、二人は一瞬ためらったが、すぐに強く頷き合った。
この状況で恥じらいなど二の次だ。
命がかかっている。
近くの柱の陰に隠れる三人。
時間の猶予はない。
フィオナは少しだけ落ち着いて、かえって色っぽさが増した表情で、自らスカートをたくし上げた。
彼女の下着は前回と同じ鮮やかな青い縞々だが、今回は間近で見るその生地の薄さに、思わず息を呑む。
雷の紋章が前回よりも鮮明に輝き、彼女の太もものふくらみに沿ってパンツがぴったりとフィットしている様子が生々しく視界に飛び込んできた。
「レオン、しっかり見てね?」
フィオナの声には、緊張の中にも、かすかな甘さが混じっていた。
彼女は本来、人前で下着を見せるような性格ではないはずだ。
それでも命がけでこの力を使おうとしている彼女の勇気に、胸が熱くなる。
リリスはまだ頬を染めながらも強い意志を目に宿して、同じくスカートの端を持ち上げた。
彼女の白い指先は微かに震えているが、瞳には迷いはない。
彼女の純白のパンツには、以前より複雑で美しい氷の結晶紋章が浮かび上がっている。
レースの縁取りやリボンなど細部にまでこだわった上品な下着は、彼女の気品と美しさを際立たせていた。
ウエストのラインに沿った生地の伸縮具合や、僅かに透ける肌の色合いに、吸い込まれそうになる。
「頼んだわよ……レオン! 失敗したら、ただじゃおかないんだから!」
リリスのツンデレな檄が飛ぶ。
その言葉の裏には「信じている」という感情が隠れているのが分かった。
二つの紋章が、俺の内で共鳴する。
雷光と氷雪の力が、俺の体を通して溢れ出す!
背中の痣が熱く灼け、全身の血が沸騰するような感覚が走る。
二人の紋章の光が、俺の瞳を通して体内に流れ込み、混ざり合い、新たな力となって解き放たれる瞬間——。
「雷氷連牙!!」
俺は融合魔法を放ち、巨大な魔獣の動きを一瞬だけ止める。
雷を纏った氷の槍が、魔獣の体を貫き、地面に固定した。
その隙にセシリア先輩のもとへ駆け寄る。
「先輩! 大丈夫ですか!」
セシリア先輩は、魔獣の攻撃から幼い生徒たちを庇っていた。
髪は乱れ、いつもの完璧な姿とは違う、生々しい魅力を放っている。
汗で濡れた彼女の首筋から滴る雫が、鎖骨を伝って制服の中へと消えていく様子に、俺は思わず見とれてしまう。
「レオン君……あなた、その魔法は……?」
セシリア先輩は驚きと、何か確信したような表情で俺を見つめる。
その紫紺の瞳が、俺の心の奥深くを見透かすようだ。
だが、感傷に浸っている暇はない。
さらに強力な魔獣が、地響きを立てて迫ってくる。
最初の魔獣は単なる前触れだったのか。
さらに巨大で、より強力な魔獣が、結界の裂け目から這い出してきた。
セシリア先輩は負傷者を守るため、最後の力を振り絞って防御バリアを張るが、その光は今にも消えそうだ。
彼女の体からは大量の汗が吹き出し、制服が透けるほどに濡れている。
あまりの魔力の消耗に、呼吸も荒く、胸が大きく上下する様子に、俺は思わず目を奪われる。
「……レオン君。私の力も、あなたに使ってほしい」
突然、セシリア先輩が静かに、しかし強い口調で言った。
彼女の瞳には決意が宿っている。
「え?」
「あなたの背中にある痣……それは、私たち『紋章魔法』の適性を持つ者の証。そして、私もまた、紋章を受け継ぐ者なのです」
そう言うと、セシリア先輩は、驚くほど毅然とした態度で、俺に向き直った。
彼女の表情には迷いはなく、ただ強い覚悟だけがあった。
セシリア先輩を知る者なら誰もが驚くだろう、意外なほどの決断力を感じさせる表情だ。
「見てください、レオン君。これが私の……」
彼女は自らのスカートを少しだけたくし上げ、そこに宿る紋章を示した。
フィオナやリリスとは対照的に、彼女の仕草には無駄がなく、むしろどこか儀式的な厳かさがあった。
その所作に俺は息を呑む。
上品なレースがあしらわれた純白のパンツには、複雑で神々しい光を放つ、生命の樹のような紋章が刻まれていた。
紋章の複雑な線は、まるで人体の血管や神経を思わせる有機的な模様を描き、中心には花のように開いた命の源が輝いている。
それは、フィオナやリリスの紋章とは明らかに異なる、暖かく、力強いオーラを放っていた。
セシリア先輩のパンツは上品さがあり、単なる下着というよりも、神聖な儀式に用いる衣装のような荘厳さすら感じさせる。
その神聖さに反して、透けるような薄い生地からは彼女の身体のラインがかすかに浮かび上がり、俺の鼓動を早めた。
三つ目の紋章が、俺の中で輝きを放つ。
雷、氷、そして……癒しと浄化の力が、濁流のように俺の中に流れ込んでくる。
三つの力が渦を巻き、共鳴し、融合する——この感覚は、まるで三人の少女の魂と繋がったかのようだ。
背中の痣が燃え上がるように熱くなり、全身の血が沸騰する。
「これが……三つの紋章の力……!」
俺は天に向かって手を突き上げる。
指先から放たれた光は三色に輝き、やがて純白の光となって空へと昇っていく。
それは巨大な天使の翼のような形となって広がり、学園全体を包み込んだ。
放たれた光は、魔獣の禍々しいオーラを浄化し、その動きを完全に封じ込めた。
負傷者たちの傷も、その光を浴びて瞬く間に癒えていく。
空に現れた光の翼に、生徒たちから歓声が上がる。
魔獣は光の中で徐々に形を失い、やがて消滅した。
結界の裂け目も、光によって閉じられていく。
魔力を使い果たした俺は、その場にへたり込んだ。
頭がくらくらする。
だが、手を差し伸べてくれる三人の少女の姿が、かすかに見えた。
フィオナの明るい笑顔、リリスの安堵の表情、そしてセシリア先輩の優しい微笑み——。
◇
危機が去り、静寂が戻った広場で、俺たち四人は、人目を避けて学園の古い時計塔の陰に集まっていた。
外では片付けと負傷者の治療が進み、学園長が事態を収拾しようと奔走している。
「やはり……紋章魔法は生きていたのですね」
セシリア先輩が、感慨深げに呟く。
「千年前に、危険すぎる力として歴史から抹消されたはずの禁断の魔法……」
リリスが、厳しい表情で続ける。
彼女はスカートの端を強く握りしめ、紋章を見せたことへの羞恥と、その力の重大さで複雑な表情を浮かべていた。
「そして、レオン君。あなたこそが、その力を束ね、覚醒させることのできる唯一の存在……『紋章の主』なのかもしれません」
セシリア先輩の言葉に、俺は自分の背中の痣に触れる。
確かに先ほど、三つの紋章が俺の中で融合した時、痣全体が燃えるように熱くなった。
「でもさー、なんでよりによってパンツなの?」
フィオナが、この状況でも空気を読まずに素朴な疑問を口にする。
頬を両手で挟みながら首を傾げる彼女の仕草は、場違いなほど無邪気で可愛らしい。
俺はくすりと笑いそうになるのを堪えた。
「古代の紋章魔法師たちは、迫害から逃れるため、最も肌に近く、最も隠された場所に力を秘匿した……という伝承があります。それが下着、特にパンツに受け継がれたのかもしれませんね」
セシリア先輩の説明に、俺たちは微妙な表情で顔を見合わせる。
彼女は本気で語っているのに、内容があまりにも馬鹿馬鹿しい。
壮大な話なんだか、間抜けな話なんだか……。
「でも、よく考えたら理にかなってるわ」
リリスが真面目な顔で言う。
「紋章魔法が迫害された時代、魔法使いたちは常に身体検査をされていた。でも、下着だけは検査できない場所……」
「だから女性の紋章使いだけが生き残ったんだね!」
フィオナが頭に電球が点いたように叫ぶ。
「で、レオンは紋章を見る能力がある特別な人ってこと?」
「正確には、レオン君は紋章魔法の適合者……つまり古代の紋章魔法師の末裔なのでしょう」
セシリア先輩が説明する。
「その証拠に、あなたの背中には紋章の痣がある」
「……まあ、理由はどうあれ、やることは決まってるだろ」
俺は頭を掻きながら言う。
「この学園で起きてる魔獣騒ぎも、紋章魔法と関係があるなら、俺たちが突き止めるしかない」
「ええ、そうね。私たち四人でなら、きっと」
リリスが、初めて俺に同意するように頷いた。
彼女の青い瞳には、これまでにない温かさが宿っている。
「うん! レオンがいれば百人力だもんね!」
フィオナが元気よく言いながら、俺の腕にぴったりと寄り添った。
彼女の柔らかい体温と甘い香りが伝わってくる。
「ふふ、頼りにしていますよ、レオン君」
セシリア先輩も微笑む。
彼女の穏やかな微笑みの奥に、これからの戦いへの覚悟が見える。
頭上の古時計の鐘が鳴り、学園の復旧作業を告げる。
窓の外には、夕陽に染まる学園の風景が広がっている。
落ちこぼれの俺と、三人のワケありヒロイン。
なんだか妙なチームだが、悪くない。
彼女たちのパンツの紋章を見るたび、顔が熱くなるのは仕方ないが、それも含めて、この不思議な力は俺のものだ。
これを使って、この学園の、そして彼女たちの謎を解き明かしていこう。
(これが俺の運命なら、上等だ。見てろよ、このクソったれな世界!)
夕焼けに染まるアスフォードの空を見上げ、俺は心の中で、誰にともなく宣言した。
俺たちの、奇妙で、波乱に満ちた物語は、まだ始まったばかりだ。そして三人の美少女のパンツを見る機会が増えるかもしれないという事実に、思わず顔が熱くなるのを感じながら。




