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第5話

「ぐっ……!」


 俺は数メートル下の、硬い石畳に背中から叩きつけられた。

 全身を走る激痛に息が詰まる。

 衝撃で一瞬、視界が白く染まった。

 崩れた古書庫の地下空間に落ちたのだ。


「レオン!」


 フィオナの悲鳴が聞こえる。

 心配そうに覗き込む彼女の顔が、上から見えた。


 見上げると、リリスが苦しげな表情で俺を見下ろしていた。

 彼女の青い瞳には珍しく動揺の色が浮かんでいる。

 どうやら自分とフィオナを氷の足場に乗せるのが精一杯の状態のようだ。


「早くここを封鎖しないと、魔獣が来るわ!」


 フィオナが叫ぶ。

 彼女の声には焦りが滲んでいる。


「……くっ、魔力が……もう限界……」


 リリスの声は弱々しく震えていた。

 普段は冷淡な彼女が、今はか細い吐息を漏らしながら必死に足場を維持している。

 整った制服の裾が汗で濡れ、彼女の細い脚にまとわりついている。


 地下空間には、湿った土の匂いと、不気味な魔獣の気配が満ちていた。

 ズシン、ズシンという重い足音が壁の向こうから近づいてくる。

 時間がない。


「リリスさん! レオンに力を貸して!」


 フィオナが必死に叫ぶ。

 彼女の琥珀色の瞳は真剣だ。


「どういう意味?  彼には魔力はないはず……」


 リリスの声には疑惑と混乱が混じっている。


「パンツの紋章を見せて! レオンは、それで魔法が使えるの!」


 フィオナの爆弾発言に、リリスは一瞬、言葉を失う。

 彼女の上品で整った顔が、みるみるうちに赤く染まっていく。

 白い肌が夕焼けのように紅潮し、耳まで真っ赤になる様子は、普段の冷淡な彼女からは想像もできない。


「な……何を馬鹿なことを……! そんな……!」


 リリスが言葉を詰まらせた。

 彼女の長いまつげが震え、薄く開いた唇から荒い息が漏れる。


 壁の向こうから、ズシン、ズシン、と重い足音が近づいてくる。

 空気が振動し、古い壁からは砂埃が舞い落ちた。

 状況は一刻を争う。


 フィオナがリリスに、俺の能力について必死に説明しているのが聞こえる。


「私のパンツの紋章を見た時、レオンは雷撃魔法を使えたの!  私たちの紋章は、古代魔法の何かなのかも!」


 リリスは信じられない、といった表情で俺を見ているが、その瞳には迷いの色が浮かんでいた。

 高貴な貴族の娘として、彼女がどれほどの勇気を必要としているか、想像するだに気の毒になる。


「……信じられない。でも……他に方法がないというのなら……」


 リリスは覚悟を決めたように呟くと、真っ赤な顔のまま、俺たちに背を向けた。

 彼女の細い肩が緊張で震えているのが見える。

 普段は威厳に満ちた彼女が、今はか弱く、脆く見える。


 そして、震える手で、ゆっくりと、ほんのわずかにスカートの裾を持ち上げる。

 

 彼女の指は長く、美しく、今は恥ずかしさからか微かに震えていた。

 スカートの下から覗く彼女の脚は、信じられないほど白く滑らかで、僅かに見える太ももの曲線は完璧だった。


「……見なさい。でも、変な気を起こしたら、氷漬けにして殺すわよ……!」


 その声は怒りと羞恥で震えていた。

 威圧的な言葉とは裏腹に、彼女の首筋や耳は真っ赤に染まり、髪の隙間から見える彼女の横顔は、思春期の少女そのものだった。


 俺は罪悪感と緊張で心臓がバクバク鳴るのを抑えながら、指示に従う。

 頭の中では『これは緊急事態だ、変な考えは持つな』と自分に言い聞かせる。

 だが、鼓動は早まる一方だ。


 スカートの裾からわずかに見えたリリスの下着は、彼女のプライドと品格を象徴するかのような純白。


 その繊細なレース模様は貴族の嗜みを感じさせる高級品だろう。

 しかしそれよりも目を引いたのは、パンツの中央に浮かび上がる神秘的な紋章だった。


 リリスの純白のパンツには、複雑で美しい氷の結晶を模した紋章が、淡い青色の光を放っていた。

 その模様は六角形の雪の結晶のようでありながら、中心には星形の核があり、そこから放射状に広がる繊細な氷の枝が、まるで生命を持つかのように脈打っている。


 視界が再び白く染まる。


 フィオナの雷の紋章とは違う、冷たくも強力な魔力が俺の体の中に流れ込んでくる。

 あまりの力の奔流に、背筋に電流が走るような感覚を覚える。

 頭の中で氷の鎖が一気に繋がり、全身の血が凍りつくような感覚と同時に、強大な力が解き放たれるのを感じた。


「うおおおおおお!」


 俺は地面に両手をつけて、叫んだ。

 指先からほとばしる氷の魔力が、俺の足元に巨大な氷の柱を作り出す。

 氷の柱は天空に向かって伸び続け、俺を地上まで運んだ。


 そして、地上に出た俺は、魔獣に向かって両手を突き出す。


 「氷漬けになれ!」

 

 俺の両手からほとばしる氷の魔力が、迫りくる魔獣を巨大な氷塊の中に封じ込めた。

 氷の造形は美しく、まるでリリスの純白のパンツと優雅な紋章を映し出すかのようだった。


「……はぁ、はぁ……」


 床に着地した俺は、魔力が抜けていく感覚と共に、その場にへたり込んだ。

 体から一気に力が抜け、額には冷や汗が浮かぶ。

 

 魔獣は完全に封印されていた。


 リリスはすぐにスカートを直し、俺から視線を逸らしながらも、魔獣の氷像を見つめている。

 彼女の長い睫毛の下で青い瞳が揺れ、驚きと困惑が交錯している。


「……本当に……使えるなんて……」


 リリスはまだ顔を赤らめながらも、驚愕の表情で俺を見つめていた。

 その視線には、これまで感じたことのない複雑な感情が宿っているように見えた。


「あなた……やはり、ただの魔力ゼロじゃなかったのね。その力は、間違いなく古代の『紋章魔法』……。私の祖父が遺した書物に、確かに記されていたわ」


 彼女の声は小さいながらも、次第に冷静さを取り戻していた。

 学問的好奇心が恥ずかしさを上回り始めているようだ。


 フィオナは俺の側に駆け寄ってきた。

 彼女の顔には安堵と興奮が入り混じっている。


「すごい! リリスさんの紋章は氷のタイプなんだね!  私のとは全然違う!」


 フィオナが無邪気に話す一方で、リリスはようやく足場から降り、俺たちの前に立った。

 彼女はまだ顔を赤らめ、まっすぐに俺の目を見ることができないようだ。


「こ、これは緊急事態だから仕方なかっただけよ。決して……普段からできることじゃないから」


 言いながらも、彼女は脚をきちんと揃え、衣服を正し、名家の令嬢としての威厳を取り戻そうとしている。

 だが、まだ耳まで赤いその顔は、彼女の動揺を隠せていない。


 氷漬けになった魔獣を前に、俺たち三人の間に、奇妙な連帯感が生まれていた。

 わずかな時間で、俺たちは「パンツの紋章」という秘密を共有する仲間になった。

 その状況がまだ信じられないが、同時に不思議な興奮も感じる。


 リリスが少し落ち着いた様子で言った。


「この『紋章魔法』の存在は、祖父の遺した極秘の書物にしか記されていなかったわ。千年前に封印されたはずの禁断の魔法……なぜあなたがそれを解放できるのか……」


 彼女の瞳に浮かぶ疑問は、俺自身も持っていた。

 

 この力は何なのか。

 なぜ俺が使えるのか。

 

 そして、この学園で何が起ころうとしているのか。

 謎は深まるばかりだが、今はただ、この仲間たちと共に、その答えを探し出すしかない。


 リリスは少し考え込んだ後、決意を固めたように俺たちを見た。


「この件については、徹底的に調査するわ。私の家の書庫には、古代魔法についての記録があるはず」


 リリスとの間にあった氷の壁も、少しだけ溶け始めたような気がした。

 彼女の視線は、まだ恥ずかしさを隠せないながらも、以前のような冷淡さはない。


 そして俺は、パンツの紋章という不思議な力を通じて、二人の美少女との絆を深めていくのだった。

 その瞬間、背中にある謎の痣がほんのりと熱を持つのを感じた。



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