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第4話

 魔獣との戦闘で、俺は派手に腕を擦りむいていた。

 フィオナが大袈裟に騒ぐので、仕方なく学園の保健室へ向かう。

 そこには、噂に名高い学園一の癒し手、セシリア・ミストレイン先輩がいた。


「あらあら、派手にやりましたね。こちらへどうぞ」


 ウェーブのかかった薄紫の髪、穏やかな紫紺色の瞳。

 常に微笑みを絶やさない、まさに聖女様といった雰囲気だ。

 

 だが、俺はどうもこの人が苦手だった。

 優しすぎる笑顔の裏に、何かを見透かされているような気がして。


 フィオナが事情を説明し、俺は促されるままにシャツを脱ぐ。


「まあ……」


 セシリア先輩の瞳が、俺の背中に注がれ、わずかに見開かれた。


「この痣……生まれつき、ですの?」


 静かな声で尋ねられる。

 俺の背中には、自分でもよく分からない、蛇が這ったような形の痣があるのだ。


「ガキの頃からある、ただの痣だよ、」


 俺はぶっきらぼうに答える。


 セシリア先輩は何も言わず、そっと俺の背中に手を触れた。

 彼女の手から、温かく柔らかな薄紫色の光が溢れ出し、擦り傷がみるみるうちに塞がっていく。

 これが治癒魔法か。

 素直にすごいと思う。


「すごい! セシリア先輩の治癒魔法は、やっぱり学園一だね!」


 フィオナが隣で目を輝かせている。


 治療中、セシリア先輩の指先が、さりげなく俺の背中の痣の上を滑った。

 その瞬間、ピリリ、と痣が熱を持ったような、奇妙な振動を感じた。


「……あなた、とても変わった魔力の流れをしていますね」


 セシリア先輩が、ふっと息を漏らすように言った。


「はは、俺に魔力なんてないって。魔力ゼロ、学園最弱の称号は伊達じゃない」


 俺はいつもの自嘲気味な口調で返す。


「ふふ、見えるものが全てとは限りませんよ」


 セシリア先輩は、やはり謎めいた微笑みを浮かべるだけだった。

 治療が終わり、俺たちが保健室を出ようとすると、彼女は呼び止めた。


「レオン君、フィオナさん。最近、学園の様子がおかしいことには気づいていますね?  特に、魔獣の出現には、くれぐれも気をつけて。そして……」


 彼女は何かを言いかけたが、ふっと言葉を切った。


「……いえ、何でもありませんわ。お大事に」


 保健室を出た後、フィオナが俺の腕をつつく。


「ねぇ、レオン。セシリア先輩、あなたのこと、なんか特別に見てた気がする!  あの背中の痣、本当にただの痣なの?」

「さあな。でも……」


 俺は自分の背中に手を当てる。


「昨日、フィオナのパンツ……じゃなくて、紋章を見て魔法を使った後から、妙にこの痣が疼くんだよな」


 これは偶然なのか、それとも……。

 俺の中で、点と点が繋がり始めているような、嫌な予感がしていた。


 ◇

 

 数日後の夜。

 俺とフィオナは、図書館にある禁断の古書庫エリアに忍び込んでいた。

 目的はただ一つ、「紋章」に関する手がかりを見つけることだ。


「うーん、やっぱりそれらしい記述はないねぇ」


 フィオナが埃っぽい書物を閉じて、溜息をつく。

 

 その時、カチャリ、と扉の開く音。

 

 俺たちは慌てて巨大な本棚の陰に身を隠す。

 月明かりに照らされたシルエットは……リリスだ。

 彼女も何かを探しているのか、慣れた様子で書架の間を進んでいく。


 まずい、見つかると厄介なことになりそうな予感がする。


 俺がフィオナに合図を送ろうとした瞬間、足元の本につまずき、派手な音を立ててしまった。


「誰なの!」


 リリスの声と共に、鋭い氷の欠片が飛んでくる。

 やべっ!


「わ、悪い!  俺だ!」


 俺は観念して姿を現す。

 フィオナも慌てて俺の後ろに隠れる。


 リリスは俺たちを氷のように冷たい目で見下ろす。


 「あなたたち……そんなところで何を……?」


 その時、ゴゴゴゴ……! と古書庫全体が激しく揺れた。

 緊急警報のけたたましいサイレンが鳴り響く。


「魔獣接近警報!?  こんな夜中に!?」


 フィオナが叫んだ直後、足元の床が轟音と共に崩落した。


「きゃあああっ!」

「うわあああっ!」


 俺たちは、なすすべもなく暗闇へと落下していく。

 リリスが咄嗟に氷の足場を形成し、フィオナと自分だけをかろうじて受け止める。


 俺は……間に合わなかった。



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