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第3話

 数日後。

 俺は、やはりと言うべきか、またしても面倒事に巻き込まれていた。

 放課後、フィオナに付き合って学園裏の森で薬草採取を手伝っていたのだが、運悪く小型の魔獣に遭遇してしまったのだ。


「レオン、危ない!」


 フィオナが雷の魔法を放つが、相手は素早くそれを躱し、彼女に襲いかかる。

 俺は咄嗟に木の枝を拾って魔獣の気を引こうとする。


「こっちだ、このトカゲ野郎!」


 魔獣は俺にターゲットを変え、鋭い爪を振りかざして突進してくる。

 黒い体躯から放たれる獣臭と殺気が、夕暮れの森に充満していた。


 学園最弱の烙印を押された俺——レオン・アークライトにできることなんて、たかが知れている。

 せいぜい時間稼ぎくらいだ。


「逃げて、レオン! あなたじゃ無理だって!」


 フィオナが悲鳴に近い声で叫ぶ。

 だが、俺が逃げたら、今度こそ彼女がやられる。

 最弱でも、そんな選択肢はない。


 その時、魔獣の尻尾がフィオナの足を払い、彼女はバランスを崩して派手に転倒した。

 小柄な体が地面に投げ出され、「きゃっ!」という悲鳴が森に響く。


 そのとき、短いスカートが無防備にめくれ上がる。

 瞬間、俺の視界が閃光に焼かれた。


 フィオナの太ももの間から覗いた鮮やかな青い縞々のパンツ。

 その生地は薄く、彼女の柔らかそうな肌の輪郭をかすかに透かし見えるほどだった。

 

 しかし目を引いたのはその色合いではない。

 パンツの中央には、複雑な雷の紋様が、まるで生きているかのように光り輝いていた。


 電流が走るような衝撃と共に、その紋章が俺の瞳に焼き付く。

 目の奥深くで何かが共鳴し、全身の血液が逆流するような感覚に襲われた。


 フィオナは慌ててスカートを押さえようとする。

 

 だが遅い。

 

 彼女のパンツに描かれた雷の紋章は、すでに俺の脳裏に鮮明に刻まれていた。

 雷光のように鋭く蛇行する線、中心から放射状に広がるエネルギーの筋——その模様が俺の中で脈打ち始める。


「うおっ!?」


 全身に走る電気のようなざわめき。

 指先がピリピリと痺れる感覚。頭の中で何かが爆ぜるような感触。


 訳も分からず手を突き出すと、俺の指先から、バチバチと音を立てて青白い雷撃がほとばしった。

 まるで意思を持つかのように蛇行しながら伸びた雷が、魔獣の胸を貫き、一瞬で黒焦げにした。


 魔獣の体が煙を上げながら崩れ落ちる音が、妙に遠くに聞こえた。


「…………は?」


 俺もフィオナも、目の前の光景が信じられず、呆然と立ち尽くす。

 森に静寂が戻り、ただ二人の荒い息遣いだけが聞こえていた。


「……ど、どうやったの、レオン?」


 フィオナがおそるおそる尋ねてくる。

 

 彼女は両手で必死にスカートを押さえながら、頬を真っ赤に染めていた。

 

 琥珀色の大きな瞳には、恐怖と好奇心が入り混じっている。


「いや、俺にもさっぱり……でも、その……」


 言葉につまる。

 彼女の下着を見たと言うのは正直恥ずかしい。

 だが今の状況を説明するには避けられない。


「お前のパンツに、雷みたいな紋章が見えて……そしたら、勝手に……」


 俺がしどろもどろに説明すると、フィオナの顔がみるみるうちに真っ赤になった。

 その赤みは顔から首筋へと広がり、制服の襟元の下まで染まっていく。


「み、見たの!?  レオンのえっちー!」


 彼女は両手で顔を覆い、つま先立ちで身体をくねらせながら羞恥に身悶えした。

 スカートの下から覗く細い脚が不安定に揺れる。


「ち、違う!  不可抗力だ!」


 俺は必死に弁解する。

 

 だが、彼女の下着の感触が視覚的記憶として鮮明すぎて、顔から熱が引かない。

 縞模様の下に浮かび上がっていた彼女の身体のラインまで、しっかりと記憶に刻まれている。


 フィオナは数秒間、恥ずかしさに震えていたが、やがて指の間から俺を見つめ、少しずつ手を下ろした。

 好奇心旺盛な性格が、恥ずかしさよりも強くなったようだ。


「でも……私のパンツの紋章?  それで魔法が使えたってこと……?」


 怒っていたはずのフィオナの瞳が、好奇心にキラキラと輝き始める。

 彼女は魔獣の死骸を見つめ、それから俺の手を見た。


 まだ微かに青い光を纏っている俺の指先に、恐る恐る自分の指を近づける。


「うん……なんか、お前のパンツの紋章を見た瞬間、頭の中で何かが『カチッ』って繋がった感じがして。それから体の中に雷が走ったみたいな……」


 説明しながら、俺は改めて状況を整理する。

 『魔力ゼロ』の俺が魔法を使った。


 それもフィオナのパンツの紋章を見て——そう考えると、再び顔が熱くなる。


 フィオナは少し考え込むと、突然明るい表情になった。


「これって、すごいことじゃない?  レオンって実は特殊な才能の持ち主だったのかも!  私、読んだことあるよ——古代魔法には特殊な発動条件を持つものもあるって!」


 こいつ、本当に変わり者だ。

 普通の女の子なら、パンツを見られたことをもっと怒るはずだ。

 だが彼女は魔法のメカニズムの方に興味を示している。

 平民出身で魔法の才能だけで特待生になった彼女らしい反応かもしれない。


「……とりあえず、このことは誰にも言うなよ。面倒なことになる」

 

 『パンツを見ることで魔法が使える』なんてウワサになったら、間違いなく学園中の笑いものになる。

 それに、今の俺には理解できないが、この力には何か重大な意味がありそうだ。


「うん、わかった! これは、わたしとレオンだけの秘密だね!」


 フィオナはニッと笑って、俺に指切りを求めてきた。

 彼女の表情には恥じらいの赤みが残っているが、瞳には冒険への期待に満ちた輝きがある。

 俺は戸惑いながらも、彼女の小指に自分の指を絡める。


 触れたフィオナの指先がほんのり温かい。

 一瞬、彼女のパンツの鮮やかな青と、紋章の力強い雷模様が脳裏によみがえり、指先がまたピリピリと痺れた。


 手のひらには、フィオナの指の感触が残り、鼻腔には彼女特有の甘酸っぱい香りが漂っていた。


 夕陽が二人を照らすなか、魔獣の死骸を背に、俺たちは秘密の約束を交わしたのだった。


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