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第2話

 その日の夕方、学園長室では重苦しい空気が漂っていた。

 白髭を蓄えた老齢の学園長が、厳しい表情で報告書に目を通している。


「一週間で三度目……か。魔獣の出現頻度が明らかに上がっておる。しかも今回は、居住エリア付近とは」

「はい。生徒たちの間に動揺が広がっております。加えて、今回の魔獣は、従来のデータにない異常な魔力パターンを示しており……」


 集まった教師たちが、次々と懸念を口にする。


「原因の調査が急務ですな」

「いや、今は学園の封印結界を強化することが先決でしょう」


 意見が対立する中、学園長は窓の外、夕焼けに染まる学園都市アスフォードを見つめ、深く溜息をついた。


「千年前の『大封印戦争』……まさか、あの悪夢が再び繰り返されるというのか……?」


 ◇ ◇ ◇

 

 その頃、学園内には不気味な警報が鳴り響いていた。

 予期せぬ魔獣の出現だ。

 上級クラスの寮に近い庭園では、聖職者の家系であるセシリア・ミストレインが、避難する下級生たちを落ち着かせ、誘導していた。ウェーブのかかった柔らかな薄紫の髪が、夕陽を受けて輝いている。


「皆さん、落ち着いて!  こちらへ!」


 彼女の穏やかで優しい声は、パニックに陥りかけた生徒たちの心を不思議と鎮める力がある。


 ◇ ◇ ◇

 

 一方、学園の訓練場では、リリス・フォン・シュタインが単独で中型の魔獣と対峙していた。

 銀髪をなびかせ、凛とした表情で氷の魔法を放つ。

 魔獣は次々と氷漬けにされていくが、リリスの表情は険しい。


「この魔獣……通常の封印術式が効きにくい。まるで、古の……」


 リリスは、祖父の書斎で見た禁断の書物の一節を思い出していた。

 そこに記されていたのは、現代魔法とは異なる、異質な力の存在。


「まさか……『紋章』の力が……?」


 リリスの呟きは、誰にも聞かれることなく風に消えた。

 

 学園全体が、得体の知れない脅威の気配に包まれ始めていた。


 ◇ ◇ ◇

 

 魔獣騒ぎの翌日。

 俺は座学で使う本の調達のため、学園の図書館の禁書架のエリアに足を運んでいた。

 目的の本棚を見つけ、本に手を伸ばした、その瞬間。


 すっ、と白い手が伸びてきて、俺の手と重なった。

 驚いて顔を上げると、氷のように冷たいサファイアブルーの瞳と目が合った。


 リリス・フォン・シュタインだ。


「魔力ゼロのあなたが、禁書架に何の用かしら?」


 その声は、絶対零度の冷たさ。


「よう、リリス。奇遇だな」


 俺は努めて平静を装い、昔のように軽く声をかける。

 ほんの一瞬、彼女の瞳が揺らいだように見えたのは、気のせいか。


「……気安く名前を呼ばないで。没落貴族アークライト家の……あなたとは、もう何の関係もないはずよ」


 すぐに表情を凍らせ、彼女は突き放すように言う。

 その言葉が、俺の心の古傷を抉る。


「そうだったな。すっかり忘れてたぜ」


 俺はわざと皮肉っぽい笑みを浮かべる。

 強がりだって分かってる。


 リリスは俺が手を伸ばしていた古書をひったくると、「この本は選ばれた者だけが閲覧を許されるもの。魔力ゼロのあなたには、一生かかっても理解できない内容よ」と言い放ち、背を向けた。


 俺は黙って彼女の背中を見送る。

 銀色の長い髪が、彼女の拒絶を物語るように揺れている。

 分かってるさ、お前が家のために俺を切り捨てたことくらい。

 それでも……。


(あの頃の約束、お前はもう、忘れちまったのかよ……)


 リリスが足早に去った後、俺は小さく溜息をつく。

 図書館を出ようとした時、足元に小さな紙片が落ちているのに気づいた。

 

 リリスが落としていったものか?

 

  拾い上げてみると、そこには走り書きのような文字で「紋章」という単語と、見たこともない複雑な魔法陣の一部が描かれていた。


「紋章……?」


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