98 想定外なんだが
とある休日、優と有咲はショッピングモールを訪れていた。
理由はとてもシンプル。
もうすぐ七海の誕生日がくるのだ。
今日はその日に行われる誕生日会で渡すプレゼントを探しに来ている。
2人はぶらぶらと良い店を探し回る。
少し歩いたところで早速いい雰囲気の店を見つけ、足を止める。
「あの店とか良さそうじゃないか?」
「アクセサリーですか」
その店には主に女性をターゲットとしたアクセサリーが売られていて、店内には多くの女性客がいる。
有咲がその店を見て数秒じーっと考えた後、軽やかに口を開く。
「いいんじゃないでしょうか。では、行ってみましょうか」
その店には本当に女性しかいないので少し躊躇うが、ササっと入っていく有咲を見てそれに着いていく。
店内には綺麗で高級感のあるアクセサリーが沢山並んでいて、プレゼントには向いていそうだ。
しかもとても良いことが1つ。
「これ…安いですね…」
有咲が値札を持ってそう呟いていて、オシャレ好きな有咲が言うのならそうなのだろうと値札を覗き込むが、そこには想定外の値段が書かれていた。
「…って高くね⁉︎」
あまり具体的には言いたくないが、1人焼肉を3、4回できそうなぐらいの値段であった。
安いって言ってたのに。
全然安くないじゃん。
優はそんな感じの視線を有咲に向けると、知識のない兄を哀れむような目でこちらを見てくる。
「お兄さん…これは安い方ですよ?他のブランドの店とかに行けばこれの倍近くする物も平気であるのですよ?」
「そうなのか…」
全くブランド物に興味がないわけではなく、たまに見に行ったりもしているからこそ、これは高いのではないのかと思ってしまう。
そんな風に頭の中で疑問を膨らませていると、有咲が手を叩いて考え事を強制終了させてくる。
「まあまあ、値段は気にせずとりあえず良いものを探してみましょ?」
「…そうだな」
とりあえず値段は見なかった事にして、2人は店内を回り始めた。
少し歩き回った後に、端にあるネックレスに目を惹かれる。
そのネックレスの近くまで行き、どのような物か確かめてみる。
「いいなこれ」
「おお〜いいですね…」
どうやら有咲も同意見らしく、2人はそのネックレスをじっと見る。
そうしていると、近くに店員さんがやってきて声をかけられる。
「こちらの商品がお気に入りですか?」
「あ、はい」
「よろしければ付けてみますか?」
「あ、いや別に本人いないので__」
「付けてみます!」
「かしこまりました〜」
目を輝かせてある有咲に店員さんがネックレスを付けてあげている。
この目の輝かせよう、多分有咲も欲しいのだろう。
別にお揃いもわからないし、有咲の誕生日にも買ってあげてもいいなとか考えていた時に、そのネックレスの値札が見えてしまった。
(えっ…エッ⁉︎)
あまり言いたくはないが、さっきのアクセサリーの倍近くあった。
(マジかこれ…。でもこれ結構良いんだよなぁ…。1ヶ月遊ばなかったら何とか…)
そのような事を考え込んでいると、有咲がネックレスを装着完了したようで近くまで来て見せびらかしてくる。
「どうですか?」
「ああ…いいんじゃないか」
淡白な返答をしたが、正直滅茶苦茶いいと思っている。
だがやはり値段が頭にちらつき、買うのを躊躇う。
そんな兄の心を読んだのか、有咲が遠慮がちに声をかけてくる。
「うーん…やはり高いですし、無理して買う必要は…」
有咲にそう言われ、優は真剣に考え込む。
(…いや、普段ずっと一緒にいてくれてるんだし、ここで躊躇ってちゃダメだな)
ようやく決心がつき、優はネックレスを指差して店員さんに声をかける。
「これください」
「ありがとうございます!」
「えっ、お兄さん…大丈夫なのですか?私が半分出しましょうか?」
「いや、ここは流石に出させてくれ。その方が気持ちが籠る気がするし」
「お兄さん…」
なんかちょっと恥ずかしいことを言った気がするが、とりあえず気にせず財布を取り出した。




