97 噂が流れすぎなんだが
文化祭2日目も無事に終了し、学校中の生徒は片付けを始めていた。
優もクラスの片付けを手伝いながら柊太と話をしていた。
「ホント、優がいなかったらどうなってたかわからないよ。桜庭さんからは聞いてたけど、本当に何でもできるんだな」
「流石に何でもは言いすぎだろ。文化祭だってみんながすごかっただけだよ」
「そんなに謙遜しなくてもいいんだよ?優の腕前がなければ流石にあの数は捌けなかったよ」
柊太は手を動かしながら礼を言ってくる。
それに少しむず痒い気持ちになりながら一瞬手を止める。
「ま、そういうことにしといてやるよ。でも、あんまり他の人に言いふらすなよ?」
そこで柊太は顎に手を添えて考えるような素振りを見せる。
「そういえばなんで優は目立ちたくないんだ?すごい才能を持ってるのに」
想定外の質問が飛んできて、一瞬目を見開いた後に少し過去を思い出す。
色々あった。
一切思い出したくないぐらいに、色々あった。
有り余った才能が露見して、それを利用されるのが怖かった。
実際そういう過去があり、その記憶は封印しようとしていた。
だが1つだけ忘れたくない過去もある。
それが何かは、考えなくてもわかる。
とても大事な、あの人と過ごした日々。
あの人と出会えた、小さな奇跡。
だがそれは、優にとっては、人生で1番の奇跡だ。
優はその人の事を考えながら、過去の思い出を振り返る。
(ホント…色々あったな…)
嫌な過去を忘れ、想い他人のことを考えていると、柊太から変な目線を向けられている事に気づく。
「…優?」
「ん…?ああ…何の話だっけ?」
「何で普段は凡人のフリしてるの?って話」
なんか言い方が強くなっている気がするが、それには触れず、すぐに答える。
「そうだな…まぁ…色々苦労したくないからかな」
そう言った瞬間、柊太がお腹を抑えて笑い出し、優はポカンとなってしまう。
「え?急にどした?」
「はは…いやいや、今更だなぁって思って」
「は?本当にどういうことだ?」
「だって優…もう既に結構苦労してない?」
柊太にそう言われ、今までの学校生活を思い出してみる。
(色々あったなぁ…色々…ってなんか苦労している記憶しかないような…)
柊太の言う通りで、苦労している記憶しか浮かんで来ず、柊太の言葉にそうだなと同意する。
「あれぇ?苦労しないように頑張ってたんだけどなぁ…」
「まぁいいじゃないか。桜庭さんと付き合えているだから」
「…は?」
柊太の信じられない発言にガチトーンの「は?」が出てしまう。
「あれ、違った?」
「いやいやいや、全然違うし」
「そうなのか。あの噂は嘘だったのか」
「ちなみに誰から聞いたんだ?」
「ん?泰明だけど?」
「あいつ…」
この前しっかり訂正しておいたはずなのに。
優は心の中で頭を抱え、これが広まってしまっている可能性を考える。
(…あいつは後で締めておこう)
心にそう誓いながらしっかり片付けを進めていく。
頭の中で康晃をしっかりとボコボコにしていると、ある女子から声をかけられる。
「如月くん、ちょっと手伝ってくれない?あれ重くって…」
クラスメイトから呼ばれ、柊太と別れを告げてから向かった。
そこでは璃々が頑張って段ボールを持ち上げようとしているが、一向に上がる気配がない。
優は璃々ち近付き、段ボールを横から持ち上げる。
「あ、如月くん…。ありがとね」
璃々が重がっていた段ボールを軽く持ち上げ、場所を訊いてそこに持っていく。
「さすが七海ちゃんの恋人だね」
「…は?」
「え?違った?」
(何でこんな事になってんだよ…)
犯人が誰かは分からないが、とりあえず泰明に中指を立てておこう。
優は後で泰明を屋上に呼び出して詰めまくったという話があったりなかったり。
とりあえず、文化祭は終結したのだった。




