92 凄いクリームなんだが
1年4組のお化け屋敷を出た後、優と七海はあちこちの店をぶらぶら歩き渡っていた。
様々な料理を食べ歩き、昼食を済ませていく。
「あ、優くん、あれ食べたい」
そう言って七海が指を指しているのは様々な種類のスイーツが売られている店だった。
看板を見た感じ、どうやらパフェに釣られたようだ。
七海はこうなってしまえば食べるまで動かないので優は七海を連れて列に並ぶ。
「いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ」
「ストロベリーパフェで。七海は?」
「同じので」
「かしこまりました。ストロベリーパフェ2つお願いしまーす!」
2人は注文を済ませ、番号札を持って近くのベンチに座ってパフェが来るのを待つ。
「楽しみだね」
「ああ」
足をバタバタ揺らして楽しそうに待つ七海をじーっと観察する。
こちらに気づく様子もなく、ずっと鼻歌を歌いながら待っている。
そんな七海を周りも見ているのだが、七海はそれにも気づかない。
(いやどんだけ楽しみなんだよ)
昔から甘い物の事を考えると周りが見えなくなる七海にそのような事を思いながら少し呆れたような目を向ける。
「ん?どうしたの?」
謎にこれには気づいたららしく、頭の上に?を浮かべながら訊いてくる。
流石にバレるとは思っていなかったので目を見開いて驚いてしまう。
直後急いで笑顔を作って口を開く。
「いや別に…。楽しみだなって」
「…?そうだね」
まだ腑に落ちていないようだが、何とかこの会話を終わらせることができた。
このように2人でゆったり待っていると、とうとうパフェが到着した。
「お〜でかいね…」
「だな…これはなかなか…」
想像以上のボリュームに、2人は絶句する。
特にヤバいのがパフェの上半分にある生クリームだ。
圧倒的なボリューム、一括りにクリームと言っても様々な種類のクリームがありそうな色をしている。
2人は唾を呑み飲んだ後、スプーンを取ってパフェに手を伸ばす。
大量のクリームをすくい、一気に口に運ぶ。
飛び込んできたのは、様々な種類の味の暴力。
イチゴをはじめとしたいくつもの味で口内が満たされ、優はフワフワとした空間に取り込まれて行く。
(ふぁ…これが極楽…)
優はフワフワの雲の上で寝転んでぷわぷわとバウンドして楽しんでいる。
(はっ⁉︎意識を吸い取られていた⁉︎)
ここでようやく正気を取り戻し、優は現実世界に帰ってくる。
そのまま視線を前にやり、七海を見てみる。
「……はっ⁉︎」
先程の優と同じような反応をしていた。
七海は数回目をパチパチさせた後、パフェを眺めながら感想を述べる。
「これ…すごいね…何と言うか、本当にすごかったよ…」
衝撃のあまり完全に語彙力を失っている七海だが、優はそれ以上に影響を受けていた。
一瞬にしてもう一度意識を刈り取られており、明後日の方向を向いてぼーっとしている。
そんな優を起こすため、七海が肩を掴んで優の身体を揺さぶる。
「起きてー」
「ん…あっ⁉︎」
ここでようやく完全に目が覚め、優は近くにある七海の顔を見ながら話す。
「このクリーム…ヤバいな」
「そうだね…」
七海は席に戻り、パフェの方をじーっと見つめる。
優も同時にパフェの上の方に目をやり、あらぬことを考える。
「このパフェ…成分的に大丈夫なのか…?」
「さぁ…?」
そんな事を心に入れておきながら2人はパフェを何とか食べるのだった。
完食するのに1時間ぐらいかかったのはいまだに謎のままであった。




