90 早く気づいた方がいいんだが
「…さん…いさん…お兄さん!」
文化祭当日の朝、優は可愛らしい声によって起こされる。
「朝ですよ。起きて下さい」
優は目を開けて身体を起こし、ベッドから出ようとしたのだが…
(ん?なんか下半身が動かない)
謎に下半身が動かず、優は布団から出ることができない。
「お兄さん…?どうかしました…?」
「いや、なんでも…」
優は疑問に思い、自分の下半身を見てみる。
「…ん⁉︎有咲⁉︎何で乗ってんの⁉︎」
自分の下半身には妹が乗っていて、優は体をのけぞらせながら驚く。
その優の反応を見て有咲は口を押さえて笑っていて、心底楽しそうである。
「ふふ…驚きました?」
「驚いたっていうか…」
優は何と言うべきか困り、言葉が詰まってしまう。
(流石に何も言わないわけにもなぁ)
優は妹の将来の為、しっかりと教え込んでおくことを決意し、口を開く。
「有咲…今、どんな状況か分かるか?」
「どういうことですか?」
優の言葉に有咲は首を傾げる。
やはり分かっていないなと思い、そのまま続ける。
「今有咲は俺の下半身の上に乗っている」
「そうですね…」
「下半身といっても割と上の方でだな」
「そうですね….」
「それがどういうことかわかるか?」
ここで有咲は真剣に考え込み、その2秒後に有咲は頭に雷が落ちてきたかのように驚き、一瞬にしてベッドから降りて背中を向ける。
「え….あ…えっと…」
顔を見なくても恥ずかしくて赤くなっているのはわかる。
耳元まで真っ赤だし。
有咲は身体を小さくして顔を押さえながらボソボソと何かを呟いている。
その言葉はよく聞き取れなかったが、多分大丈夫だろう。
妹は純粋だし。
多分。
恐らく。
優はようやくベッドから降りることができ、有咲の近くに寄っていく。
「有咲、ほら、早く行かないと朝ごはん冷めるぞ」
「…はい」
優が差し出した手をスッと取って立ち上がり、有咲は優の一歩後ろを歩いて1階に降りていく。
「おはよー」
「おはようございます…」
2人は両親に挨拶をし、いつもの席に座る。
ちょうど料理が出来たらしく、優は皿を運ぶためにキッチンに向かう。
いつもなら有咲もついてくるのだが、今は席に座ってぼーっと前を見ている。
それを見て不審に思った奈々がキッチンの陰に隠れてこっそりと優に質問する。
「有咲…何かあった…?」
「いや…多分…何もないと思う…」
心当たりしかないが、それは言わないでおく。
結局奈々の疑問が解消されることはなく、悩ましい表情をしながら食器を運んでいる。
料理が全て食卓に並び、全員が食事を摂り始める。
依然有咲は黙ったままなので、この空気を変えるべく優が話を切り出す。
「えっと…父さんは今日来れないんだっけ?」
「ん?…ああ、多分行けないと思う。早めに終わったらギリ行けるかもしれないけど」
「そうかぁ」
「あ、私は行くわよ〜。優のメイド服姿が見れるらしいし」
「ん⁉︎」
耳に飛んできた衝撃的な言葉に口の中のものを吹き出しそうになってしまう。
それを何とか抑えて水で流し込み、全て飲み込んでから口を開く。
「そんなデマ誰から聞いたんだ⁉︎」
「デマじゃないわよ〜。ね、有咲」
「…はい…」
(いや犯人君かい!そんな気はしたけど!)
まだぼーっとしている有咲が首を縦に振って肯定し、奈々が嬉しそうな表情になる。
「いやなんで母さんは嬉しそうなんだよ」
「え〜?だって優のメイド服姿が見れるもの〜。それは喜んじゃうわよ〜」
「いや喜ぶところじゃないだろ⁉︎」
奈々の誤解が解けることはなく、優はどんよりとしながら朝食を食べ進めるのだった。




