09 シスコンかもしれないんだが
「お前なんかとしても楽しくねぇよ!」
それはテニスの全国大会で準優勝に終わった、小学6年生に言われた言葉だ。
優は当時小学5年生で、自由気ままにテニスを楽しんでした。
他競技でも数多の才能を発揮していた優は、どの競技でもすぐに優勝してしまうようになり、正直あまり楽しくなかった。
スポーツ自体は大好きなのだが、相手がいないのだ。
そんな時出会ったのがテニス。
初めは何となく初めてみただけだった。
蓋を開けてみれば、1番楽しいスポーツだった。
理由は明白。
優にはテニスの才能がほとんど無かったのだ。
それが優にとってどれだけ嬉しいことか。
そんな風に半年間、練習に練習を積み重ねた。
初めから上手なのではなく、少しずつ上達していくのが楽しくて、毎日テニスをしていた。
このまま一生テニスをしていたい。
そう思っていた。
だが、現実は無情だった。
気が付けば全国大会決勝の舞台。
自分にはテニスの才能が無いと思っていた。
だが、それは優にとってはの話だ。
普通の人間にとっては一生追いつけないほどの才能だった。
優はそれに気付くことなく、ただスポーツを楽しんでいた。
瞬きをすれば、既に表彰台に立っていた。
横では大会連覇をしている1つ年上の少年が悔しそうに泣いていた。
優にはその気持ちは分からなかった。
「なんで泣くの?こんなにも楽しいのに」
その発言に、隣の少年は怒ってしまい、優の胸ぐらを掴んでこう言った。
「お前なんかとしても楽しくねぇよ!ただ才能があっただけのやつが!」
優はその言葉によって初めて才能があることに気づき、絶望した。
◇
「…さん…ぃさん…お兄さん!」
「はぁ…はぁ…」
「大丈夫ですか?うなされていましたが」
目の前には愛しの妹がいる。
妹は焦った顔で兄の頬に手を当てている。
(そうか…うなされてたのか)
あれは一生思い出したくない過去。
そんな過去の夢をみていたので、身体中からは汗が出まくっていて、息も上がっている。
そんな優を心配するように、妹の有咲は優の背中に手を伸ばし、抱きつく。
「大丈夫ですよ、お兄さん。あなたには私がついていますから」
有咲なら、何をしてもそばにいてくれる。
そんな安心感が心臓を通して伝わってくる。
それと同時に段々呼吸も落ち着き、有咲に離れるように言うが、一向に離れる気配がない。
「イヤです。しばらくこのままがいいです」
そう言いながら腕の力を強めてくる。
それには妹の無限の愛情がこもっている。
身をもって妹の愛を感じ、優はあと少しだけこのままでいようと、妹をしっかり抱きしめる。
「ありがとな、有咲。そばにいてくれて」
「いえ、それが私の使命ですから」
「いや、流石に使命は言い過ぎだろ」
「そんなことないですよ?私、夢の中で神様にそう告げられたことがあるので」
どれだけ優しく、頼りになるのだろうか。この妹は。
こんな妹がそばに居て、優は幸せを実感する。
「そうか…その神様は本物なのか?」
「本物ですよ、だってその神様、私がどれだけお兄さんを愛しているのかを知っていたので」
「ちなみにどれぐらい?」
「私とお兄さんの未来の可能性ぐらいです」
「それはすごい…のか?」
2人で笑い合いながらゆっくりと時間を過ごす。
それは苦しい過去の事をすっかり忘れてしまうぐらい、幸せな時間だ。
優は有咲を心の底から愛している。
優しく、暖かく、少しおてんばなところが、とても愛おしいと感じている。
だからこそ、有咲のことを守ってやりたいし、好きなだけ甘やかしてやりたい。
ここまでくると流石にシスコンの域を超えている気もするが、そんな事は全く気にせず、ただ2人でゆったりとした時間を過ごすのだった。