89 色々とマズいんだが
文化祭の準備を進めるうちに、みるみる日が過ぎていった。
今日は文化祭前日で、学校中が明日のために準備を進めている。
そんな中、優のクラスでも最後の準備が行われていた。
今は実際に本番で着る衣装を着て接客のシュミレーションをしている。
「いらっしゃいませご主人様。こちらにどうぞ」
優が教室の中に入ると、一際目立つ美少女が席に案内してくれた。
「メニューはこちらになります」
七海がメニューを机に置き、そのまま目の前で待機している。
「えっと…こういう時って普通どこかに行くんじゃ…」
「そうだね。本番はそうするよ?でも今は優くんに接客してるからね。今は特別だよ?」
「…」
七海の破壊力抜群の言葉に口が開かなくなる。
優が黙り込んでいる間、七海はそばで楽しそうに待っている。
だが、優は今七海の期待に応える余裕は無かった。
(いやこの服で一般客に接客って許されるの⁉︎許されていいのか⁉︎)
優は七海の圧倒的なメイド服姿に頭を悩ませていた。
(これは…色んな意味でまずいのでは?)
言葉の通り、恐らくまずいことが起こりそうだ。
この圧倒的な容姿にメイド服なんて、それはもうヤバいよ。
優はこのままではどうなるのかを考え、そして絶望する。
今回は本人がやりたがっているだけにタチが悪い。
「んー…」
「…?」
メニューをじっと眺めながら何かを考えている優に七海は疑問を抱いている。
そんな七海の視線に気づくわけもなく優は考え事を続ける。
数秒間じっと考えていると、ある事を思いつく。
「なぁ七海」
「ん?何かメニューで分からないところとかあった?」
「いや、そうじゃなくてさ…」
優が少し言いにくそうにしているのを見て七海は更に疑問符を大きくする。
そこでようやく七海と目を合わせ、優は提案をする。
「七海…本番では一般人に接客しないでくれないか?」
「…え…?」
「正直に言うと…七海のその姿は色々マズイ…と思うんだ。だからさ、この学校の生徒や友達にしか寄って行かないでほしい」
優そう言ったところで七海は顔を赤くして口元を隠す。
「それってつまり…優くんから見て私のメイド服姿がすごく魅力的ってこと…?」
「…ああ…」
優も顔を赤くして目線を逸らす。
教室の窓から外の景色を見ているから分からないが、多分今の七海の顔は真っ赤だろう。
優はそんな事を考えながら数秒後に視線を前に戻し、七海の方を見る。
「七海…?」
予想的中。
七海は全身を赤くして顔を隠している。
膝が地面についていて、何なら涙すら見える。
そんな七海の姿を見て、近くにいた璃々が助けに来てくれる。
「七海ちゃん?どうかした?如月くんに何かされた?」
「いや何もしてな__」
「うん…優くんが…」
「え゛⁉︎」
璃々の鋭い視線が突き刺さり、冷や汗をかく。
流石に誤解なので何とか訂正してみる。
「いやいや、マジで何もしてないって」
「でも七海ちゃんは泣いてるし…七海ちゃん?何があったの?」
「(優くんが…私のメイド服姿…かわいいって…)」
「いや別にかわいいとは__」
「えぇぇぇぇ⁉︎」
璃々がまるで自分が言われたかのように驚き、七海の背中をさすりながら涙を流す。
「よかったね七海ちゃん…」
「うん…」
(何だこれ)
異様な空気を纏うこの場に嫌気が差し、優は別のテーブルに逃げて行った。




