88 料理は無理なんだが
優は何とか中間テストを乗り切り、いよいよ文化祭の準備が始まる。
優の所属する2組ではメイド喫茶をする事になっているのでまずは衣装作りに取り掛かる。
通販でもいいのではというか意見もあったが、そこはこだわりを持って手作りでいきたいらしく、女子たちが異様にやる気を見せている。
そんな中あまり仕事がない優はとりあえず文化祭のリーダーの柊太に指示を仰ぐ。
「んー…じゃあメニューを考えていてくれないかな」
「オッケー」
柊太からの指示を受け、優は調理実習室で作業をしているクラスメイトのもとに向かった。
「失礼しま〜す」
「あ、優くん」
そこには七海を含む数人の生徒がおり、エプロンを着て調理をしながらメニューを考えている。
優はその輪の中に入り、状況の説明を受けてから手伝いを始める。
とは言っても別に料理が上手いわけでもないし詳しいわけでもないので、ひたすら洗い物に徹する。
別に単純作業は嫌いではないので心の中で歌いながら作業していたらある人物から声をかけられる。
「如月くん、洗い物ばっかりでしんどくない?私変わろうか?」
メニュー考案を担当する璃々から交代するか聞かれるが、優はそれに首を振って否定する。
「いや、別にしんどくないから大丈夫。多分俺が役に立てるのはこれぐらいだから」
あまり料理が得意じゃないからと小声で続け、優は作業を続けようとするが、後ろから迫ってくる七海に肩を叩かれる。
「私は優くんと一緒に料理したいな…。多分優くんならすぐに上手になるよ」
少し恥ずかしげに顔を下げてそう言われる。
ここで優は料理をする事を検討していると、璃々から声をかけられる。
「あ、洗い物なら私がやっておくから大丈夫だよ。2人で楽しんでね!」
何か誤解があるような気もするが、そこには触れずに頷いて七海について行く。
「じゃあまずはオムライスを作ろうか」
「いやオムライス作ろうかじゃないよ。今の時間考えると新メニュー開発は今日は流石に無理でしょ」
現在時刻は17時30分。
外を見てみると綺麗な夕焼けが見え、少しずつ暗闇が見えかかってきている。
なので優はオムライス作りを否定して、片付けをするように促す。
他の生徒達も便乗して片付けを始め、18時前には片付けを終えることができた。
部屋を出て帰ろうとした瞬間、七海が少し楽しそうな顔でこちらを見てくる。
「ねぇ優くん、有咲ちゃんのクラスの様子を見に行かない?」
いつも一緒に帰っている有咲がまだ残っている可能性があるため、七海がそう提案してくる。
優はそれに頷き、1年4組の教室に向かう。
教室に着くと七海が顔を覗かせ、有咲の姿を探す。
すぐに見つけれたらしく、七海が有咲の名前を呼んでいる。
それにすぐ反応して有咲がこちらに向かってくる。
「2人とも、どうかされました?」
「うちのクラスの作業は終わったからさ、有咲ちゃんを探しに行こうかなって」
七海がそう言った直後に小声で「別に有咲ちゃん抜きで2人で帰ってもいいんだけど」とか言っていたが、有咲はそれに気づいていない様子なので安心する。
「あ、そうなんですね。ごめんなさい。今片付けてきますね」
別に謝る必要はないと言おうとしたが、その時には有咲の姿が教室の奥に消えていっていた。
有咲は文化祭のリーダーらしき人物に一礼してからこちらに向かってくる。
「では帰りましょうか」
「うん、いこー」
そう言って2人は優の両隣に行き、共に帰路に着いたのだった。




