85 なぜか居たんだが
如月家はドライブの途中に見つけた喫茶店に入り、各々が飲み物やケーキを頼んで談笑している。
その様子を少し離れたところから見ている人間が1人。
(如月くんと…そのご家族?妹の有咲さんがいるし…多分ご家族と遊びに来ている感じかな?)
家が割と近い璃々はこの店の常連客で、今日も毎週恒例のティータイムをとりに来ていた。
いつも通りに席に座り、いつも通りにコーヒーを飲んでいると、見覚えのある人が入ってきたので璃々はついそちらに目が釘付けになってしまっている。
(如月くんのご両親…本当に2人の親なの?あのビジュアルで…?)
とても親とは思えない容姿に驚愕し、目を見開いてしまう。
(あのお母さん…ぜひ一度お話ししてみたい…)
年齢を感じさせない圧倒的な容姿に暖かくて笑顔が眩しい奈々に一度話を伺ってみたいと思った。
が、そんな事をする勇気はなく、ただこの場から眺めることしかできない。
そんな璃々に見られていることも知らず、4人はゆったりとした時間を過ごしている。
「ん!このケーキ美味しいです!」
「こっちのケーキも美味しいわよ?ちょっと交換してみる?」
「はい!ぜひお願いします!」
有咲のショートケーキと奈々のチョコケーキを交換し、食べ比べをしている。
お互いのケーキを口に運び、2人はすぐに美味しそうな笑顔を浮かべる。
「ん!こっちも美味しいです」
「こっちは甘くて美味しいわね〜」
頬に手を当てて満面の笑みを浮かべる2人を見て、優と優希は心底癒されながらコーヒーを飲んでいる。
「あの…そんなに見られても困ります…」
「あはは…恥ずかしいわね〜」
ようやく視線に気づいたらしく、2人は頬を赤くして照れている。
そんな仲良しの家族の雰囲気を見て璃々は…
(いや家族愛がすごいッ…)
というか感情を抱いていた。
(特に如月くんの有咲さんを見る目…あれには家族愛を超えた何かを感じる…)
目を光らせて冷静に変な分析をする。
そんな事をしていると当然周りからは変人のように見られているが、そんなの気にならないぐらい集中してしまっている。
「お、お待たせしましたー…ショートケーキです…」
注文したケーキが到着し、璃々は視線をそちらにやる。
店員からは少し引き笑いされていて、璃々は気恥ずかしさを覚える。
「あ、ありがとうございます…」
常連であるため店員とは知り合いなので余計に恥ずかしい気持ちが強くなり、璃々は全身を真っ赤に染める。
顔を両手で隠し、心の中で自分の行動を反省する。
(遠くから特定の人をずっと見てるなんて…そんなのストーカーじゃない!)
客観的に見れば自分がどのように見えるのか気づき、璃々の身体はさらに熱くなる。
(わ、私ずっとそんな事を…)
璃々は徐々にこの喫茶店の空気を浴びるのも嫌になり、早々と食事を済ませて会計をする。
「ありがとうございましたー」
璃々は居た堪れなくなり、いつもより20分程早く帰宅した。
璃々が店から出た後、優はある思考に至る。
(いやなんでずっと見られてた⁉︎)
実は優は璃々の存在に気づいていたのだ。
なぜかずっと見られていたので気づいていないフリをしていたが、璃々が店を出た瞬間その思いが爆発してしまった。
優は手を額に当てて考えていると、有咲が頭の上に?を浮かべながらこちらを見てくる。
「お兄さん、どうかしました?」
「ん?あ、いや、なんでもない」
璃々に滅茶苦茶見られていたなんて言えるはずもなく優はさっと視線を前に戻す。
優希と奈々は楽しそうに会話していて、優心が暖かくなるのを感じた。
そんな如月家の休日は、楽しくてのんびりとした感じで幕を閉じた。




