83 珍しいんだが
とある休日に、突然父からある事を告げられる。
「2人とも、今日水族館にでも行かないか?」
それは家族での遊びの誘いで、優は普通に承諾しようとするが、それより先に有咲が身を乗り出す。
「はい!行きましょう!」
目を輝かせて優希の事を見つめている。
そんな娘の姿を見て母の奈々はクスクスと笑いながら手で口元を隠している。
「久しぶりだものねー」
「ま、そうかもな」
「そうかもじゃありません。もっと子供達と遊んであげて下さい」
「…ごめんなさい」
奈々に叱られ、優希が頭を下げている。
(これが夫婦の格差か…)
優は失礼なことを考えながらしっかりとこの光景を脳に焼き付ける。
「で、いつ行くんだ?」
「そうだな。できるだけ早めに行こう」
優希にそう言われ、全員早めに食事を済ませ、準備を始める。
全員凄まじい勢いで支度をし、すぐに家を出て車に乗る。
「じゃあいざ出発!」
「「おー!」」
運転席の優希が出発の合図をし、女性2人がそれに乗っかる。
優はそこまで騒いだりするタイプではないのでここでは黙っておく。
少し騒がしい車内の空気を浴びながら優は水族館に向かう。
30分程たった頃に水族館に到着し、順番に中に入って行く。
「おー綺麗ですね」
「ああ、一面海だな」
今いるエリアは見渡す限りガラス張りの海で、とても幻想的である。
そんな景色を一気に見渡して楽しむ。
「あ、あの魚珍しいのでは?」
「そうかもな。なんか色が他とは違うな」
魚に関しては全員ほとんど知識がないのでよく分からないが、とりあえず珍しそうな魚を見つけたのでそれを見てもらう。
「あ、逃げてった」
「可愛かったのになー」
「??」
可愛い要素は特に無かったはずだが、奈々は悲しそうな表情をしている。
それに疑問を抱きながらも、優は足を進めていく。
ガラス張りエリアは終了し、次は一匹ずつ紹介文を書かれて展示されているエリアに移る。
「おお〜なるほど、勉強になりますね…」
有咲は顎に手を添えて説明欄を凝視している。
「有咲何見てるの〜」
奈々は有咲のそばに寄っていき、横で同じところを眺めている。
その姿を見ていると、優希がこちらに寄ってきて話しかけてくる。
「優ははしゃがないのか?」
「いやはしゃぐわけないだろ」
「そうか?子供なんだから存分にはしゃいでいいのに」
「いや子供じゃねぇし」
子供扱いしてくる父に不満な表情を見せ、露骨に反抗してみせる。
そんな息子を見て軽く笑い、優しい眼差しで優を見る。
「そうだな。もう大人になるんだな」
優希の嬉しさ半分寂しさ半分の表情に複雑な気持ちになるが、優は少し笑って口を開く。
「そうだよ。ま、有咲はまだまだ子供だけど」
「確かにそうだな」
「…どうかしました?」
「「なんでもないよ?」」
名前を呼んでいるのが聞こえたのか、気づけば有咲はこちらに寄ってきていた。
2人は斜め上を向いてしっかり誤魔化す。
それを見て有咲は疑いの目を向けてくるが、すぐにやれやれといった感じのため息をつき、少し怒ったような顔に変化する。
「隠し事しないでください。私にも教えてください」
そう言って顔を近付けて2人に自白させようとしていると、ようやく1人になっている事に気づいた奈々が有咲の後ろからやって来た。
「なになに喧嘩してるの?楽しそ〜」
「「「え?」」」
楽しい要素は微塵もなかった筈なのだが、奈々からすればそうらしい。
その事に驚きつつドン引きしている3人は奈々を物珍しそうに見つめる。
「どうしたのみんな。私の後ろに珍しい魚でもいた?」
「いや…そうでは…」
「珍しい魚…というか人間というか…」
「?…どういう事?」
心底理解していない奈々は自分に向けられている視線だと気づく事はなく、ずっと頭の上に疑問符を浮かべているのだった。




