80 小さかったのは当然なんだが
体育祭は無事終了し、生徒は片付けを開始した。
優は七海と共に椅子を片付けていて、若干妬みの視線を受けているが、それは気にしない。
椅子を畳んで2人で倉庫に運んでいく途中、七海が先に口を開いた。
「早く片付けて早く帰ろうね?」
「ん?…あ、うん?」
少し早歩きになっている七海が言った言葉には意味がある。
遡る事20分前、最後の競技が終了し、2人は一旦教室に帰ろうとしていた。
そこで優希に引き止められ、今日の話がしたいと七海と七海の親を家に招待したのだ。
現在七海は優の家に上がることを想像し、滅茶苦茶機嫌が良くなっている。
足取りが軽やかになっていて何ならリズム刻んじゃってる。
そんなに嬉しいの?僕にはよくわかんない。
優は七海に疑問と呆れを交えた視線を向けながら片付けを進めて行く。
片付けは20分後に終わり、七海は急いで帰る支度を済ませる。
そんな七海に促され、優も素早く着替えて教室を出る。
靴を履いていざ戦いに行かんとしている七海について行っていると、校門の前である生徒が待っていた。
当然有咲しかいない。
先に終わったらしい有咲が優の事を出待ちしていたようだ。
七海の事はお求めで無いようで、一瞬鋭い目を向けるがすぐに笑顔に変える。
「では、お兄さん…2人とも帰りましょうか」
なんか言葉に出てしまっていたが、そこには触れない方が賢明かと思い、優は目線を逸らして歩く。
数分歩くと優の家に到着した。
優が鍵を開け、扉を開く。
優と有咲が中に入って行き、それについて行くかたちで七海も家に入る。
「懐かしい匂い…」
久々に嗅ぐ如月家の香りに、七海は感慨に浸っている。
家の中を見渡すと、昔遊んだ時の光景を昨日の事のように思い出す。
「七海…?大丈夫か…?」
「ん…?大丈夫…だよ?」
気づけば涙が出そうになっていて、何とかそれを抑えながら家に上がる。
優がリビングの扉を開き、順番に中に入って行く。
「お、来たな主役たち」
「やっぱり七海ちゃん大きくなったわねぇ〜」
まず目の前に現れたのは優の親2人だ。
七海は2人に軽く挨拶をした後、近くのソファに腰を掛ける。
そして近くでは優と有咲は七海の親と少し話をしている。
「有咲ちゃん大きくなったわねぇ。昔はこんなに小さかったのに。時が経つのは早いわねぇ」
「もう、そんなに小さくなかったですよー」
七海の母の翔子が手で表している高さは恐らく優の膝ぐらいの高さであったので、流石に有咲も不満を抱く。
その反応を見てこの場にいる全員が笑い、有咲の不満は更に高まる。
ほっぺを膨らませている有咲の隣の優も笑っているが、遂に油断していた優にも攻撃が飛んで行く。
「ま、優くんも小さかったけどな」
「あ、確かにそうねぇ。昔は七海とおんなじぐらいだったかしらねぇ」
「あれ?そんなに小さかったですっけ?」
昔の事を言われ、優が記憶を遡っていると、優希が横から口を挟んでくる。
「言われてみればそうだった気がするな」
上の方を見ながら思い出している父にやや不満を抱きながらも、それを表には出さずに受け流す。
「まぁ昔はみんなちっさかったですからねぇ」
そう言うと親達が笑いながら口を揃える。
「「「「たしかに」」」」
赤ん坊の頃から知っているのだから、全員が相当小さい頃から知っているのは当然。
それに気づいてハッと驚いた後、優希が少しドヤ顔で口を開ける。
「ま、高校生になった今でも俺からしたらみんなまだまだ小さいけどな」
その言葉に対して3人が不満の表情を向けると、咄嗟に謝ってくるが、ここで絆を発揮して結局許す事はなかった。




