08 妹が可愛いすぎるんだが
「お兄さん、今日は一緒に寝ましょうか」
夕食を食べた後、突然有咲からとんでもない提案をされた。
どう考えても承諾するわけないだろう。
「いや、普通に無理だが?」
「無理じゃないです。ほら、病人なんですから早く寝ないと」
そう言いながら優の部屋に連れていこうとしてくる。
だが、その手には乗らない。
こちらにもプライドがあるのだ。
「それに、お兄さん、疲れている時とか熱がある時はいつもうなされていますよね」
(よくそんなこと知ってるな)
確かに、疲れていたり熱があったりする時は大体嫌な夢を見る。
それを心配してくれているのだろう。この優しい妹は。
その心配は嬉しいのだが、流石に高校生の兄妹が一緒に寝るのはどうなのか。
そんな考えに至り、優は否定を続ける。
「いや…まぁ…そうだけど…流石に無理だから」
もう既にともに風呂に入っているのでプライドもクソもないが、お情け程度に抵抗する。
そこで、ある人物が話に割って入ってきた。
「優、たまには有咲のワガママを聞いてあげてもいいんじゃない?それに、有咲は本当に優のことを心配しているのよ?だから答えてあげないと」
話に無理矢理入ってきたのは母の奈々だ。
いつも温厚で優しいが、今回は真剣な眼差しで優を見ている。
そんな顔をされたら逆らえない。
これが親子なのだろうか。
優は首を縦に振った。
有咲はとても嬉しそうな表情で、ぴょんぴょん跳ねている。
カワイイな、君。
その姿を奈々は微笑みながら暖かい眼差しで眺めていた。
優も嬉しそうな妹の姿を見て、たまにはワガママを聞いてやろうと思っていた。
「それでは行きましょうか!お兄さん!」
満面の笑みで優に抱きついてきた。
そんな可愛らしい妹の頭を撫でた後、妹を連れて部屋へ向かう。
「ふふふ……」
本当に嬉しそうだな、この妹。
ちょっとブラコンすぎる気がするが、そこには目を背ける。
部屋の前に着いたところで、有咲が深呼吸をした。
何か決意を固めたかのような表情をしている。
その様子にやや呆れつつ、優は自室の扉を開く。
目の前には散らかり気味の部屋が。
有咲はそんな事を気にすることなく部屋に入り、即ベッドに入り、優を誘導した。
「ほら、こっちにきてください」
「えっと……失礼します」
電気を消し、有咲の居るベッドに入り込む。
すると有咲は控えめな笑顔を浮かべ、優の腕と腹の間に手を通し、抱きついてきた。
そんな妹に答えるように、優も抱き返す。
すると有咲は頬を真っ赤に染め、顔を隠すように抱きつく力を強めてくる。
そんな小さくて可愛い妹の姿を見ていると、自然に癒されてしまう。
数秒経ったところで有咲は抱きつく力を弱め、優の目を見る。
「お兄さん、今日は本当にごめんなさい」
「いいんだ、別に俺も悪かったんだしさ…だからこれでおあいこってことでさ、この話はもうしないでおこうぜ?」
「はい、そうですね…ありがとうございます、お兄さん」
「ああ」
そうやって2人の時間を過ごす。
とても楽しい時間だった。
次第に瞼が重くなってきた。
そのタイミングで有咲が身体を密着させてきた。
そしてこう呟いた。
「おやすみなさい、お兄さん。もし悪い夢をみてしまっても、私が必ずそばにいます。だから、安心して、ゆっくりお休みになってくださいね」
そんな優しい言葉が耳元で囁かれた。
ほとんど意識が夢の中に入ってしまっている優は、ただ一言、優しい妹に感謝を伝え、眠りに着く。
「ありがとう。おやすみ、有咲」