78 普通に休みたいんだが
クラス対抗リレーは無事終わり、優と七海は席に戻る。
優は素早く席につき、すぐにだらんと休憩する。
飲み物を飲んで目を瞑って休んでいると、数人の生徒が駆け寄ってくる。
「凄いな君!」
「甲斐田を抑えてリレーに出るだけの事はあるな」
「ぜひ陸上部に!」
そんな風に褒め称えられるが、優は軽く受け流す。
「あ、ドーモありがとうございまーす」
適当な事を言いながら立ち上がり、この場を離れる。
同様に囲まれている七海も優に着いて行き、校舎の中で足を止める。
「ったく…息つく暇もないな」
「そうだね…休ませて欲しいのにな」
2人とも後の組対抗リレーに出場するので、体力を温存しておきたいのだが、流石にあの状況では休憩など出来るわけがないので校舎に身を隠す。
だが、1人の生徒から身を隠す事は出来ず、その生徒はひっそりと2人に近づく。
「2人とも人気者ですね」
口元を隠して笑いながらこちらに近づいてくる有咲に、2人は冷めた視線を送る。
「全く嬉しくないな」
「今回ばっかりはね…」
悲しそうな目をしている2人を見て有咲は苦笑いをする。
「あはは…人気者は大変ですね…」
「だから嫌なんだよな…」
優はため息をつき、顔を伏せる。
七海は優を慰めるように背中をさする。
「まぁまぁ、みんな悪気はないんだし、気にしない方がいいよ?」
「そうだよな…」
優は暗い顔を上げて笑ってみる。
「なんかすまん…空気悪くして」
「ううん、気持ちは何となくわかるよ」
「わかりますねぇ…」
本物の人気者の言葉の重さに優は口を開けなくなる。
七海も有咲も遠い目で明後日の方向を見ている。
(いや何この空気)
優は今の雰囲気に違和感を持ちつつ、重い口を開く。
「ま、まぁとにかく…俺たちは最後のリレーも頑張ろうな」
露骨に話を逸らし、2人の表情を窺ってみる。
「うん、そうだね。頑張らないとね」
「まぁお兄さんと七海ちゃんなら何も問題ないでしょうけどね」
「いや流石にそれは言い過ぎでは?」
「いえ、そんな事ないと思いますよ?お兄さんと七海ちゃんが圧倒的なのは火を見るより明らかですから」
自信満々に胸を張ってそう言う有咲。
その姿を2人は暖かい目で見守る。
「ふふ…ありがと。緊張が溶けたよ」
「ああ、何とかなる気がしてきたな」
有咲の努力(?)の甲斐あって2人の緊張はほぐれ、ぐったりと休む姿勢をとる。
「あーにしても七海は凄かったなぁ。一瞬で抜き去って行ったもんな」
「そう?ありがと。でも優くんも凄かったよ?」
「分かります。他のクラスのトップ選手が全力で走っているのに、お兄さんは涼しい顔で圧倒していましたし」
有咲は七海の言葉を目を輝かせながら早口で解説する。
「その時のお兄さんの姿はまさに超人気アイドルでしたね。あの余裕の表情、凄かったです」
「そ、そうだね…」
有咲の勢いに七海も少し引いているようだが、何とか笑って誤魔化している。
それに対して優は呆れた目を向け、しれっと話を逸らす。
「さて、そろそろ戻るかな。ずっと居ないとまずい事になりそうだし」
優は立ち上がり、両手を2人に差し出す。
2人は手を取って立ち上がり、優について行く形で席に戻って行く。
「では2人とも頑張ってくださいね」
「ああ」
「うん」
途中で有咲と別れ、2人は席に戻る。
「お、密会は終わった?」
「密会て…。普通に休憩しに行ってただけだよ」
近くにいた璃々に茶化され、優はしっかりと弁明しておく。
だがそれは意味を成しておらず、璃々の頬は赤くなっていっている。
(え?休憩ってそういう意味…?)
璃々の誤解は凄まじく、脳内はそういう事でいっぱいになる。
七海がいち早くそれを察し、何とか優にバレないように誤魔化す。
「えっと…走って疲れちゃった?しんどいなら保健室行く?」
七海の言葉で目が覚め、焦るように言葉を返す。
「い、いや別に大したことないよ?うん、大丈夫」
なぜ焦っているのか優は疑問に思っているがバレてはいないのでよしとする。
優は困惑しながらも席に座り、少し涼んでから準備に向かった。




