77 燃えてるんだが
昼休憩は終わりに近づき、3人は親と別れを告げる。
「じゃ、また後で」
「頑張れよ優。七海ちゃんも」
「見てるからね〜」
4人の親たちから見送られ、優は2人を連れて席に戻る。
途中で有咲と別れ、七海とともに席に着く。
それから10分ほど経つと、競技が再開された。
午後の3競技目がクラス対抗リレーなので、優と七海は準備する。
(やべー緊張する)
優は緊張で押しつぶされそうになりながら入場する。
まずは女子のリレーから始まるので、1走の女子選手がスタートラインに立つ。
スターターの合図で一斉にスタートを切り、全員最初から全速力で走っている。
優のクラスの選手はやや出遅れ、最下位からのスタートになる。
七海や璃々は全力でこえをだして応援している。
優もそれに釣られ、大声で応援する。
だが、結局抜く事はできずに2走の選手にバトンが渡る。
何とか差を詰める事はできたが、以前最下位のまま。
その状況は3走の選手でも覆す事は出来ず、いよいよ4走の璃々にバトンが渡る。
「すげぇなあの人…」
璃々の凄い走りを見て優め含めるこの場にいる全員が驚愕する。
みるみる前の生徒を抜いて行き、最後のあたりで2位にまで追い上げて七海に最後を託す。
「七海ちゃん!お願い!」
「うん!任せて!」
七海は勢いよく走り出し、一気に差を詰めて行く。
かなり開いていた差は一瞬で縮まり、半分を少し過ぎたあたりで抜き去っていった。
優は緊張を忘れるほどの衝撃を受け、心の中で対抗心を燃やす。
(やるな七海…。こんなの見せられたら流石に震えてくるぜ…)
優の心は緊張以外の熱い何かで満たされ、すっかり七海の走りに見入ってしまう。
優にガン見されていることに気づくはずもなく、七海は全力疾走する。
結局かなりの差をあけてのゴールとなった。
七海は右手を挙げて無邪気な笑顔を浮かべている。
その後七海は仲間のもとに戻り、様々な賛辞を受ける。
「凄いよ七海ちゃん!」
「ありがとねぇ〜助かったよ」
それに対しても笑顔で返し、その場を収める。
さて、いよいよ男子のリレーが始まる。
1走の柊太がスタートラインに立って構える。
緊張の瞬間を、全員が見守る。
「よーい、どん!」
合図と同時に柊太は勢いよくスタートダッシュを切る。
序盤から先頭に立ち、リードを広げて行く。
そのまま首位をキープし、2、3走も柊太が滅茶苦茶広げたリードのおかげで何とか持ち堪える。
そして4走の陸上部のエース候補、甲斐田翔也にバトンが渡される。
翔也は一瞬凄い勢いで走り出したが、相手が格下と分かった途端、スピードを緩める。
翔也は軽く走っているが、他の選手は全力で翔也を追いかけている。
翔也は優に対する期待によってスピードを緩めている。
(如月ならこれぐらいのリードでも勝てるだろ)
圧倒的な優への信頼のもと、翔也はゆったりとしたスピードに変える。
結局誰も翔也を抜く事はできず、1位で優にバトンを渡す。
「(ったく…わざとスピード落としやがって…)」
優はわざとらしい翔也に愚痴をこぼす。
だが、優の心は燃えていた。
(やってやるよ。絶対にトップでゴールしてやる)
その瞬間、優はバトンを貰い受ける。
「あとは頼む」
(何か頼むだよ…。ゆっくり走っておいて…)
優は心の中で翔也へちょっとした呆れをぶつけながら走り出す。




