76 やめてほしいんだが
少し歩くと、2人は親のいるテントの近くまで辿り着いた。
「久しぶりだね。優くん」
「智さん。ご無沙汰してます」
「優くん背伸びたねぇ」
「翔子さん。相変わらずお若いですね」
「やだもうー優くんったらー。お世辞が上手くなっちゃってー」
そこに居たのは優と七海の両親だ。
七海は想定外の出来事に、雷に打たれたかのような表情をしている。
「お父さん…お母さん…」
七海の姿を見て両親は安心し、立ち上がって七海に近づく。
そして七海が先に抱きついた。
「もう…来てくれるなら言ってよね」
「そのつもりだったんだけど…優希にサプライズしようって言われてさ。だから俺たちはわるくない」
「はい?人のせいにしないでくれませんか?大体そっちが__」
「はいはい2人ともやめましょうねー。せっかくのサプライズが台無しじゃない」
「「…はい」」
奈々に軽く説教をされ、2人は静かになった。
丁度静かになったところで、優が口を開く。
「どうだ?驚いただろ」
「うん、とっても。でも、優くんは知ってたの?全然驚いてないみたいだけど」
「そうだねー。優には言ってないはずなんだけどね」
この場にいる全員が同じような反応で、優のリアクションに疑問を持っている。
その答えを話そうとした時に、ある少女に先を越される。
「きっと借り物競走の時にチラッと見えたんです。そうですよね?お兄さん」
「ん?…ああ」
背後から話を聞いていたらしい有咲が近づいてきていた。
その有咲の言葉を聞き、全員は納得する。
「クソーそれは盲点だった。まさかこっちに来ると思わなかったし」
「サプライズ失敗だねー。ま、七海に出来たからいっか」
親達が若干腑に落ちない表情をしているが、まぁ楽しそうではあるのでよしとしよう。
話がひと段落したところで、有咲も挨拶をする。
「お久しぶりです、智さん、翔子さん。お二人とも相変わらずお元気そうですなによりです」
「ご丁寧にどうも。有咲ちゃんも元気そうでなによりだよ」
「有咲ちゃんは淑女に育ったわねぇ」
「淑女かどうかは分かりませんが、とても良い教育をされてきましたので。親のおかげです」
「「有咲…」」
優希と奈々は感動して涙を流しそうになっている。
(いや何この茶番…)
何ともわざとらしい会話に、優は面倒臭さを感じていた。
この場の雰囲気を無視し、優は優希の隣に座る。
そこでついに七海が一歩前に出て挨拶をする。
「2人ともお久しぶりです。実は今日は1つお願いがありまして…」
「ん?お願い?」
「七海ちゃんのお願いなら何でも聞いちゃうわね〜」
七海は頬を赤く染めながら2人を表情を窺っている。
そして意を決したように表情を変え、頭を下げる。
「優くんを私にください!」
勢い良くとんでもない言葉が口から発せられ、その場にいた全員が驚く。
そんな中、有咲だけが素早く冷静になり、いち早く口を開く。
「そんなのいけません。お兄さんは私のですから」
「有咲ちゃんは静かにしてて。今はご両親とお話ししているの」
七海は有咲の方を見向きもせず、優希と奈々に期待の視線を送っている。
それに応えるように、2人は七海に喜びの感情をぶつける。
「とうとう優に春が…七海ちゃん、優をよろしくお願いします」
「七海ちゃんなら大歓迎よ〜」
「でも大丈夫?本当に優でいいのか?もっと他にもいるんじゃ…」
優希の言葉には真っ向から笑顔を返す。
「いえ、優くんがいいんです。優くんじゃないとだめなんです」
「七海ちゃん…」
「優…いい人と結ばれて良かったな…」
奈々は嬉しそうに泣き、優希は肩に手を置いて褒め称えてくる。
その状況に優は…
「いや勝手に話進めてんじゃねぇぇ!」
結構怒っていて、いつもよりも声を荒げてこの場にいる全員に喝を入れる。
優の努力の甲斐あってその場は何とか収まり、平和な状況で昼食を食べ始めたのだった。




