75 色々とヤバいんだが
「じゃあそろそろ行ってくるね」
あれから時間は経ち、すでにお昼時となっている。
七海は午前の最後の種目の玉入れに出場するため、入場門に向かう。
その姿を見送り、優は七海の出番を待つ。
15分ほど経って、いよいよ1年生の玉入れが始まる。
全員で入場し、すぐ近くに待機する。
笛の合図で一斉に玉を取って籠に投げつける。
七海も玉を沢山持って頑張って投げている。
その時に揺れる胸が、男子の視線をかき集めているとも知らずに。
「うわぁ…」
「やっばぁ…」
とても女子高生とは思えない揺れに、驚愕する生徒が多数。
その中には優も含まれていて。
(やっば…いっつも俺の気も知らないで押し付けてきやがって…)
七海のいつもの行動に心の中で苦言を呈すが、優は変な妄想をしてしまう。
(いやダメだヤバい思考になってしまう)
制御が効かなくなった脳を思いっきり横に振ってなんとか抑える。
そして優は競技に目をやる。
が、そこには七海がいた。
七海がいるなら当然顔の少し下を見てしまって。
(あ゛ぁぁぁ!なんだそれは⁉︎けしからん!)
優の思考はよく回らなくなってしまった。
そんな事をしていると、1回目の玉入れが終了した。
結果は2位で、あと少しだったようだ。
玉を回収し、2回目が始まる。
2回目も同様、七海は楽しそうに玉を投げている。
さっきよりもハイテンションになっていて、さらに縦に揺れているわけだが。
優は見ないようにすることが最適だと感じ、空を見て心を整える。
(あ、鳥さんだぁ)
空を見て癒され優は視線を戻すのだが、ここでは七海を見ないようにする。
他のクラスの状況を観戦してみる。
(これで完璧ッ)
優は勝ち誇った表情をし、いつもよりキリッとした姿勢になる。
そのまま時は流れて2回目の玉入れも終了した。
結局総合では3位で、心から喜べるような順位ではなかった。
だが、七海個人だけなら多分優勝なので、あとでそこは褒めておこう。
玉入れが終了すると、昼休みに入る。
生徒や保護者達が一斉にそれぞれの場所に移動するが、優はとりあえず七海が席に帰ってくるのを待つ。
「あ、優くんまだいたんだ」
「おお、お疲れ。よく頑張ったな」
「ありがとう。3位だったけどね」
「それでも頑張ってたならいいさ」
「ふふふ、ありがとう」
小さく笑い、七海は隣の席に腰掛ける。
「優くんはお昼家族と食べる?」
「ああ。七海は?」
「私は…」
七海は下を向いて表情を曇らせる。
ほとんどの人が家族などと食事をする中、自分だけは1人なのだ。
孤独を感じていてもおかしくない。
優はそんな七海の心境を察し、少し慰めるようにしながら七海を食事に誘う。
「あー、一緒に食うか?多分親も喜ぶよ」
そう言うと七海は顔をあげて驚いた表情を浮かべる。
「いいの?邪魔になったりしない?」
「邪魔なわけないさ。長い付き合いだろ?大丈夫さ」
そこで七海の表情は明るくなり、笑いながら軽く頷く。
「うん。じゃあ、お邪魔しちゃおっかな。義理の親に挨拶もしたいし」
最後の方がおかしかった気がするが、そこはスルー。
そこで七海は立ち上がり、手を差し出す。
「ではエスコートをお願いします、紳士様」
どこぞの令嬢みたいな格好をし、エスコートを頼まれる。
優は一瞬呆れた目をした後、七海の手をとる。
「はいはい、行きますよお嬢様」
「はい!旦那様!」
何か言われた気がしたが、気にしないようにする。
優は七海と手を繋いで親の居るところまで連れて行く。
そこにいるはずの、優の親と七海の親のもとへ。




