71 始まってしまうんだが
【これより第110回麗英体育祭を開催いたします】
そのアナウンスとともに生徒達は順番に入場していく。
優は1年2組なので2番目に入場して行く。
徐々に行進して行き、丁度本部席を通過したあたりで一つのことに気づいた。
(なんか人多くね?)
想像していた3倍ぐらいの人がいて、優は内心驚いてしまう。
麗英高校は伝統のある名門校なので、OBなども見にくるので当然なのかもしれない。
だが、仮にそうだとしても多い気がする。
今日この中で様々なことをするのを想像すると、背筋が凍るように冷たくなる。
(そういえば七海は緊張してんのかな)
七海の方を向き、表情を伺う。
その目には緊張などなく、堂々としていた。
それを見て優は驚きながら目線を前に戻し、息を整える。
(ったく…こんなんで怯んでちゃ、ダメだな。気合い入れないと)
優は心を入れ替え、真剣な表情で行進をする。
その姿を横から見ている人物が。
(え?優くんもしかして緊張してないの?こんなに大勢の人に見られてるのに?やっぱりすごいね…)
優の事をガン見していた七海はガチガチに緊張していて、逆に真剣な表情になっている。
なので優は完全に勘違いしたということだ。
七海は緊張し過ぎていただけなど、誰も知るよしはない。
七海はずっと緊張したまま行進を続けた。
入場行進は瞬く間に終わり、生徒たちは席に向かう。
クラスごとに分かれているが、特に席は指定されていないので優は後方の席に座る。
これならあまり目立たない。
優はその事に安心しつつ競技が始まるのを待つ。
すると横からある人物がやってくる。
「優くん、隣いい?」
白髪の美少女が隣に座りたいと言っているわけだが、正直断りたい。
だって目立つもん。隣に座ったら。
だが首を横に振るわけにもいかず、すんなり承諾する。
「じゃあ横失礼するね」
笑顔で七海は座り、ルンルンと足を揺らしている。
(呑気なやつめ…)
何も考えず普通に隣に座ってきた七海に心の中で拳を握る。
周りの男子生徒から滅茶苦茶見られているのに七海は機嫌が良いままだ。
そんな七海に呆れていると、揺らしている足を止めて声をかけてくる。
「あ、もうすぐ始まるみたいだよ」
七海が指差した方を見ると、2年生が入場を始めていた。
まず初めは2年生の短距離走で、多くの生徒が入場してきている。
入場が完了し、先頭の5人がスタートラインに立つ。
「位置について…よーい…どん!」
その瞬間5人は一気に走り出した。
周りからは大歓声が上がり、それぞれのクラスを応援している。
1組目がゴールし、歓声が上がるのと同時に優は借り物競走の整列をするために立ち上がる。
「じゃ、行ってくるわ」
「うん。頑張ってね!」
七海は両手の拳を握ってエールを送ってくる。
それに応えるべく、優は気合を入れて入場門に向かう。
少し早歩きで向かっていると、ある少女に肩を叩かれる。
「お兄さん」
後ろには妹の有咲がいて、優はすぐに体をそちらに向ける。
「有咲か。どうした?」
「いえ、特に何も無いのですが…一緒に行きませんか?」
「ああ、いいよ」
同じ種目に出場する有咲を連れて入場門まで歩く。
近くまでくると、既に多くの1年生が待機していることがわかった。
時間的には遅くないはずなので多分みんなが張り切りすぎてるだけなのだろう。
優は隊列の近くに着くと有咲に別れを告げる。
「じゃあな。がんばれよ」
それに有咲は笑顔でエールを送ってくる。
「はい。お兄さんも頑張って下さいね」
それに軽く返事をし、優は自分の場所に向かった。




