67 稼働しすぎなんだが
リレーの練習が終わり、優と七海は着替えてすぐに門に向かう。
そこには待ち合わせしていた有咲と…もう1人誰かいる。
「ん?誰だ?」
有咲と対面しているのは恐らく2年生の男子生徒だ。
見た目は普通で特にパッとする部分はありそうにない。
そんな男子生徒となぜ2人っきりで話しているのだろうか。
2人は疑問に思い、すぐに近くの物陰に隠れて盗み見る。
「如月さん、あの…初めて見た時からずっと好きでした!僕と付き合って下さい!」
男子生徒は頭を勢いよく下げ、手を有咲に差し出して告白する。
その瞬間、隣で七海が口を押さえて顔を赤くした。
「お、おぉ…すごいよね…告白って」
「いや、君も飽きるほど告白されてるよね?」
優は有咲と同じぐらい告白されまくっている七海にツッコミを入れる。
「いや、他人に告白してるのを見るのはすっごく面白いんだけどね、自分にされると…」
七海は空を見上げる。
(…なんか触れちゃいけないとこに触れちゃった?)
遠い目をしている七海に少し申し訳ない気持ちが湧いてくる。
「なんか…ごめん…」
「別にいいんだよ…でもこれ…実は解決方法があるの」
「ん?告白されなくなる方法ってこと?」
「そうそう」
七海から言われた言葉に頭を打たれる。
そんな方法があるのか。
モテモテの七海や有咲にとってはすごくありがたい事なのだろう。
モテなくなる方法はシンプルに気になるので訊いてみる。
「で、どんな方法なんだ?」
すると七海は顔を真っ赤にして少し下を向き、言いにくそうに口を開く。
「そ、それは…その…き、君に…もらってもらうこと…だよ…?」
「…ふぁい?」
理解が追いつかず変な声が出てしまった。
数秒思考停止した後、優の脳はフル稼働する。
(え?それってつまり俺が彼氏になればそれが抑止力になってメリケンサックってこと⁉︎)
あ、稼働しすぎです。
完全にオーバーヒートです。
優は使い物にならなくなった脳を冷ますため、一旦敵前逃亡する。
「じゃああの先輩もどっか行ったみたいだし有咲のとこに行くかー!」
駆け足でその場を去り、有咲が待つ門まで向かう。
「よぉ有咲ぁ。待たせて悪いなぁ」
「いえ、お兄さんのためならいくらでも待ちますよ」
「はは、それはうれしぃなぁ」
「ん?お兄さん、何か変じゃありません?」
「はは、兄を変人扱いとは…君、才能あるね?」
「七海さん助けてください!お兄さんが壊れちゃいました!」
有咲は少し離れたところにいる七海に助けを求める。
七海はすぐさま駆けつけ、優を介抱するように腕を肩の上に乗せる。
「は〜い優く〜ん。早くお家帰りましょうね〜」
「そうだね。早く家に帰って筋トレがしたいゼ⭐︎」
「(ふふふ…これで優くんを…)」
目から光沢が消え、重い愛の視線で優を見ている七海を有咲は何とか止めにかかる。
「七海さん?ここは私が肩を貸しながら帰るので少し離れて下さい」
「なんで?有咲ちゃんは身長的に難しいでしょ。だから私が連れて帰るよ」
まだ目から光が復活していない七海に論破され、有咲は頬をぷっくり膨らませて口を尖らせる。
「もういいです!私はこっちでお兄さんにくっついていますから!」
「な⁉︎…く…私の優くんなのにぃ…」
ここで七海の目の輝きは復活したが、その目は悲しみを帯びてしまっていた。
このように2人が優を巡って揉めていたが、当の本人は全く聞いてないし、気にもしていない。
(あー今日の晩飯は親子丼の親子抜きがいいなぁ…)
優はただのご飯を求めてしまっていることにも気づかず、腹を空かせて帰路に着いたのであった。




