66 バラされてる気がするんだが
「おい、甲斐田…大丈夫か?」
優のラップタイムを見て衝撃を受けて過呼吸になっている翔也に柊太は声をかける。
するとハッとした様子で顔を上げ、呼吸が安定していく。
「あ…ああ…大丈夫…」
「ならいいが…しんどいなら保健室に行った方がいいんじゃないか?」
「いや…マジで大丈夫だから…」
とても大丈夫そうな顔はしていないのだが、本人が大丈夫というのだからそうなんだろう。
柊太はリレーの話に戻す。
「で、このタイムを踏まえて走順を決めて行きたいんだけど…」
「やっぱりい1番速い人がアンカーでいいんじゃない?」
「そーだねー。じゃあ桜庭さんと甲斐田くんだねー」
勝手に話が進んでいるが、とりあえずアンカーは避けられそうなのでよしとして、優は少し離れたところに行って休憩する。
「じゃあ4走が一条くんで…如月くんが3走とか…?」
そんな女子生徒の話を聞いてほとんどの生徒が承諾するが、2人の生徒だけはそうではなかった。
「いや、優くんはアンカーとして出るべきだよ」
「お、俺もそう思う…」
七海と翔也は全員の前に立って話す。
優の凄さを知る2人からすれば、優をアンカーにしないのは愚策以外の何物でもない。
なので2人は真剣な眼差しで猛抗議する。
「最後の加速…あれは間違いなく本物だったよ。一緒に走った私になら分かる」
「…そうだっけ?」
近くにいた女子生徒が隣の友人に訊いてみるが、友人からも?が返ってくる。
どうやら七海の走りに圧倒されて、優はほとんど見ていなかったようだ。
それにすぐに気づいた翔也は柊太が持っているタイムが記録されているプリントを指差してアピールする。
「これ…ラスト50m…先に150m走って疲れている状態でこのタイムだよ?しかも直線じゃなくてカーブもある。冷静に考えて、とんでもないタイムじゃない…かな?」
翔也の話を聞いてその場にいた生徒はハッとした。
「まさか如月くん…本気で走れば相当速い…?」
「マジか…」
「あの如月が…」
みんな目を見開いて驚いている。
とうとうみんなに優の凄さを知ってもらえて、七海は喜びでいっぱいになる。
(やっと優くんがみんなに認められて…流石私の旦那様だねっ♡)
(…なんか寒いなここ…まだ9月なのに…)
少し離れた所で休憩している優は身体を震えさせながらくしゃみをする。
そんなご本人は置いておいて、クラスメイト達は話し合いを続ける。
「じゃあ如月をアンカーにするべきじゃね?」
「そうだな。仮に如月が速くなくても甲斐田が何とかしてくれるだろ」
「…優くんが速くない…?」
「あ、いや…すごく速い…です…」
少しふざけてしまった男子生徒は七海に鬼のような視線を送られ、かなり萎縮してしまう。
すぐ近くにいた柊太はそんな男子生徒と七海を見て苦笑いをし、話しにくそうに口を開く。
「え、えっと…とりあえず男子のアンカーは優でいい…よね?」
「う、うん…」
「それがいいと思う…」
他の生徒達も七海の視線にやられ、心臓をバクバクさせている。
そんなクラスメイトの心も知らず、七海は笑顔で手を叩く。
「ありがとう!みんな!さて、肝心の優くんは…」
七海は周りを見渡して優を探す。
280度ぐらいクルっと回転したところで優が目に留まり、瞬時にそちらを向いて大声で呼び出す。
「おーい!優くーん!こっちきてー!」
離れたところから聞こえてくる聞き慣れた声に従うように、優は腰をあげた。




