63 速くないんだが
「はぁ…何でこんなことに…」
現在時刻は16時。
ほとんどの生徒が帰宅するか部活に励む中、体育祭でクラス対抗リレーに出場するメンバーで練習をしている。
リレーには当然七海も出るようで、優を呆れた目で見ている。
「それは君が寝てたのが悪いんだよ?」
「ゔ…で、でも何で俺になった?普通に運動できないキャラのはずなのに…」
「それはまぁ…色々あったんだよ⭐︎」
「いや何その反応⁉︎なんか怖いんだけど⁉︎」
犯人である七海は何とかしらを切る事に成功し、胸を撫で下ろす。
「まあまあ、これは優くんが運動できるって分かってもらえる良い機会なんだから」
「そんな機会はいらない!」
優の心の叫びなど聞くはずもなく、七海はルンルンのままである。
そんな仲良しな2人に璃々は話しかけにくそうにこちらに寄ってくる。
「えーっと…2人とも?そろそろ始めるんだけど…」
璃々の言葉を聞くと2人は自分の世界から戻ってくる。
「ん?あ、ああ…始めるのか…」
「ふふっ…楽しみだね♡」
全くやる気がなくどんよりと暗い空気を纏っている優の隣にご機嫌で笑顔が眩しい七海がいて凄く異様な光景である。
それを見て璃々は少し苦笑いをし、2人を連れてリーダーの柊太のもとに向かう。
「よし、全員揃ったかな。じゃあ今から2人ずつトラックを一周走ってもらって、タイムを測るね。それから走る順番を決めていこう。じゃあ2人1組になって順番に並んで行ってね」
「「「はーい」」」
柊太の指示の後、この場にいる10人がペアを作り始める。
だが、ここで1つ不都合が発生する。
「これ、男子と女子のペアを1つ作らないといけなくない?」
男子が5人、女子も5人なので当然1人ずつ余りが出る。
あまり実力差がある人同士で走るのはよくないので、できれば同じぐらいの速さの人でペアを組ませたいと柊太は考えていた。
すると女子で1番速いであろう七海が手を挙げる。
「じゃあ私が優くんと走ろうか?多分丁度いいぐらいだと思うから」
女子で1番速いと評判の七海と、なぜリレーに出れているのかすら分からない恐らく運動音痴の優。
この2人をペアにするのは妥当ではあるのだが、流石に柊太はある事に気づいてしまう。
「で、でも優のタイムは__」
「よし!決まりだね!」
優がクラスで1番速いタイムだという事を知っている柊太からすればこれはおかしいのだが、偽造の犯人の七海からしっかり止められてしまう。
結局優と七海はペアになって練習が始まる。
まずは柊太のペアが走り出す。
スタートダッシュから凄い勢いで走り出し、その場にいた生徒は度肝を抜かれる。
柊太は圧倒的な速さでもう1人の男子生徒を圧倒し、全員から賞賛の声を貰う。
そんな中、少し離れたところで見ている優と七海は冷静に分析をし、議論を重ねる。
「スタートダッシュはすごくいいね。ペース配分もいいし、男子の中では2番目に速いんじゃないかな」
「ちなみに1番目は?」
「ん?そんなの君以外にいないでしょ」
「…言っとくけど俺そんなに速くないと思うぞ?陸上をした事があるわけでもないし」
「そんな事ないよ。優くんが速いのは夏祭りの時に分かったから」
そんな事を七海に言われ、優は頭の上に疑問符を浮かべる。
「ん?夏祭りの時?何の話だ?」
そう言うと七海は一瞬クスクスと笑い、人差し指を唇に当てて笑いかけてくる。
「内緒だよ」




