62 寝てるのが悪いんだが
新学期早々色々あったが、数日経った今は平穏な日々を送っている。
現在は1ヶ月後の体育祭でどの種目に出場するかを決めているところだ。
1年生が出場する種目は借り物競走と玉入れと綱引きで、選ばれた選手はクラス対抗リレーや組対抗リレーに出場する。
クラスが一丸となって挑むのでみんな気合が入っていて、種目選びにも熱が入っているようだ。
だが、そんな中に爆睡をかましている劣等生がいた。
「ちょっと優くん?今は起きてないと」
大事な事を決めているところで爆睡をしている優は隣の七海に肩を叩いて起こされるが、反応は鈍い。
「んぁ?…いいのいいの。テキトーに余ったところでいいから」
「もぅ……優くん?…ほんとに寝ちゃった…」
何度も起こしてみるが、一向に起きる気配がない。
もう無駄だと思い、起こすのをやめる。
優に呆れていると、七海は最高の考えにたどり着く。
(もしかしてこれ…優くんを私がやって欲しい種目にする事も出来るんじゃ…)
天才的な発想に至り、ついニヤニヤしてしまう。
「じゃあ借り物競走に行きたい人ー」
クラスの中心人物である一条柊太がそう大声で言うと、真っ先に七海が手を挙げる。
「あの、優くんが借り物競走出たいらしいです」
「あ、おっけー」
(よし、とりあえず第一関門突破)
代理でもいけるということが分かり、七海のニヤつきは更に深くなる。
(これで優くんをリレーに…)
普段劣等生ぶっている優をカッコよくてスゴイ人だという認識にすべく、七海は優をリレーに出そうとする。
優は足が速いという事を知っているのはこの学校に七海と有咲しかいないので、きっと驚かせることができるだろう。
だが、それはつまりリレーに立候補したところで出れるかわからないという事でもある。
七海にとってはそこが1番の難関である。
なので七海は要領のいい頭をフル回転させて様々なパターンのシュミレーションをする。
そうしているうちにリレー選手を選び始めたようで、まず短距離走のタイムをプリントに記入していっている。
「桜庭さん、どうぞ」
「あ、ありがとう」
七海は自分のタイムを記入し、隣に目をやる。
「如月?おーい、起きろー」
「あ、私が書くよ」
「あ、そう?じゃあ…どうぞ」
何とか男子のプリントを入手することができた。
そして七海は本当のタイムを記入する。
全員が書き終わり、柊太が選手を選んで黒板に書いていく。
「じゃあクラス対抗リレーはこのメンバーで。で、組対抗リレーは…とりあえず如月優と桜橋七海さんで」
「…え?」
「如月…?大丈夫なのか…?あとで先輩達に締められても知らねぇぞ…」
クラス中から疑念の声が湧いている。
が、そんな生徒には七海がガンを飛ばしているので、クラス中の生徒は黙り込んで受け入れる。
(ふふっ♡これでみんなに優くんの凄さを分かってもらえる)
唐突に七海の重すぎる愛が垣間見え、隣の席の璃々は少し恐怖を覚える。
(七海ちゃん…ちょっと目が怖いよ…)
光沢の無い瞳からは優への愛が溢れ出ていて、何かをボソボソ言っているようだ。
と、こんな感じで体育祭のメンバーも決まり、いよいよこれから準備が始まる。
「おーい、優くん?もう終わったよ。お昼食べよ?」
「ん?…あぁ…ふぁぁ…」
「もう…大事な時に寝ちゃだめだよ」
「ん…ああ…わぁりぃな…」
「あくびをしながら言われても説得力ないよ」
「へいへい。で、俺の種目は……え゛⁉︎」
「寝てるのが悪いんだよ」
優は黒板を見て絶望したのだった。




