06 原因は明白なんだが
「…くん……うくん……優君!!」
意識の奥底から聞こえてくる淑やかな声の中にやや焦りを交えた声で優は目を覚ました。
見たことのない天井。
そして見たことのない2人の焦った顔。
その顔を見てもなお、状況を理解することが出来ない。
「優くん⁉︎大丈夫⁉︎」
「お兄さん⁉︎どこかお身体に異常はありませんか⁉︎」
「あ…えっと……」
とにかく心配そうに寄り添ってくれている七海と有咲。
握られている両手にはかなり力がこもっている。
そして何より気持ちのこもった手には魂からの熱が宿っている。
「如月君、調子はどう?」
スッとカーテンを開けて現れたのは保健の先生だ。
そこでようやく状況が理解できた。
(俺はあそこで倒れて、そこから…)
なぜ倒れたのだろうか。
特に体調が悪かったわけでもない。
「えっと、俺に何があったんでしょうか?」
不安げに訊く優。
気まずそうに目を逸らす七海と有咲。
呆れたような顔を見せる先生。
いや、マジで何があった?
もしかしたら重い病気とかでこういう雰囲気になっているのだろうか。
そんな考えが優の頭をよぎる。
だがそれは杞憂に終わった。
「そんな不安そうな顔をするな。心配しなくても、大したことはないよ」
「そう…なんですか」
ここでホッと一安心し、胸を撫で下ろした。
だが、流石に原因は知りたい。
「俺…何でこんなことになったんですか?」
「うっ……」
「…………」
何だか七海と有咲の様子がおかしくなった。
明らかに目を逸らして知らんぷりをしている。
確かに2人に迫られまくったが、それが原因とも思いにくい。
一体何なんだろうか。
「えーっと、まあ1つの原因は君の寝不足かな」
「あ……」
確かに前日にかなり夜更かしをしてしまっている。
だが、数時間はしっかり寝たし、その程度で倒れるとは思えない。
そんな風に気になっていると、先生が呆れた様子で「それと…」と続ける。
「ここの2人が君を混乱させた挙句胸ぐらを掴んでかなり揺さぶったそうでね」
「は…はあ……」
優は2人に鋭い目を向ける。
割と原因この2人にあった。
(ってか、そんな事あったの?もしかして頭が混乱してて気付かなかった?)
あの時の優は半ば意識を失った状態で迫られていたため、よく覚えていない。
正直に言えばここの2人が悪い。確実に。
だが、原因は寝不足にもあった。
そこは反省すべき点なので2人に頭を下げる。
「すまん、余計な心配かけて。今日からは夜更かししないように頑張る」
心を込めて謝罪する。
しかし、それを見て申し訳なくなった2人は、慌てて優を擁護する。
「ゆ、優君は悪くないよ!悪いのは…私達だから…」
「同感です…本当にごめんなさい、お兄さん」
そう言って心を込めて頭を下げる2人。
このままの空気感ではこれから仲良く接することが出来ないと思い、場を和ますべく優は手叩き、笑って声をかける。
「よし!これでこの話終わり!ほら、もう元気だし帰ろうぜ?」
その明るい笑顔にあてられ、2人も笑顔で腰を上げる。
「うん、帰ろっか」
「そうですね。私が家までみっちりお供します。」
「わ、私も家まで送っていく!」
「いえ、私は家が同じだからお兄さんを連れて帰る義務がありますが、七海さんにはありませんよね?」
「いや、そう言う問題じゃ…」
「2人とも!やめないか。そうやって2人で取り合う事が、今回のような結果を生んでいるんだ。だから反省して2人は仲良くしなさい。」
少し声を大きくして先生は2人に熱い指導をする。
優はその先生に救われた。
(やっと2人の変な絡みが無くなるのかッ⁉︎)
内心結構嬉しかった。
何をしても絡まれるので、精神的に少し疲弊していたからだ。
それも今回倒れた原因の1つの可能性もあるし。
「「はい……」」
「ほら、わかったなら如月さんは如月くんを連れて帰る。桜庭さんは遅いんだし真っ直ぐ家に帰る。いいね?」
「「は、はい…」」
2人が先生に完封されている。
スゴいな、この先生。
少し感心していると有咲が優の手を取り、支えながら保健室を出て行った。